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帰還

 ケルヴィンは火山のダンジョンツアー参加者たちを伴い、無事に火の村アグニスに帰ってきていた。ヒースとユリアヴェーラが出迎えて、セシリーナとアベルの姿がないことに青ざめる。ふたりになにかあったのではないかと。

 ケルヴィンは村の入り口でヒースたちに説明する。


「お嬢様とアベルのことなら心配ございません……と言ったら言い過ぎかもしれませんが。火山で火の精霊イフリートに会い、彼の導きで竜王と聖女に会いに行ったようです。私はお嬢様から参加者たちと村に戻り、自分たちの帰りを待つように言われまして」


 ユリアが顔を輝かせる。


「まあ、セシィはイフリートにお会いできましたのね! 今回の旅の目的でしたから達成できて一安心ですわ。まだ心配なことは尽きませんけれど」


 含んだようにヒースが言う。


「竜王と聖女も火山にいたのか……。偶然? どういう因果なのか」

「二人が戻って来ませんとわかりませんわね。ともかくわたくしたちは、ツアーがつつがなく終わるようにそちらに注力いたしましょう」


 ユリアの提案に、ケルヴィンとヒースが頷いた。

 どちらにせよセシリーナとアベルが帰って来なければなにもわからないのだ。自分たちは二人が帰ってくるまで平穏無事に過ごせるように集中しよう。

 この場はいったん解散となり、宿に荷物を置いて自由行動となった。今のうちに羽を伸ばしておいたほうがいいかもしれない。なぜかケルヴィンはそう思えて仕方なかった。




 セシリーナとアベルがフィオナと竜王を伴って村に帰還したのは、その日の夕刻を迎えた頃だった。火の村アグニスの夕日はマグマを溶かしたかのように赤い。次第に暮れていく夕日と紫色の雲の浮かぶ薄闇。

 セシリーナの帰りを信じて村の入り口で待っていたユリアヴェーラの瞳に四人の人影が映る。はっとして手を振った。


「セシィ! こちらですわ! ご無事でよかった……!」

「ああ、ユリアの顔を見ると帰ってきたって感じがします! ただいま戻りました!」


 駆け寄ったセシリーナがユリアヴェーラに抱きつく。

 セシリーナは所々煤けているけれど大きな怪我はなさそうだった。ユリアヴェーラはほっと息をつく。

 後方からアベルと竜王、フィオナがゆったりと歩み寄ってきた。ユリアヴェーラは目を見開く。


「り、竜王!? 人間の宿敵である貴方がなぜ聖騎士アベルと一緒にいるのですか!」

「ユリア、警戒しないで! じつは紆余曲折あって竜王と協力体制をすることになったんです。ちなみに隣にいるのが聖女のフィオナ」

「初めましてお嬢様。フィオナと申します。僭越ながら聖女の任に就いております」


 セシリーナに紹介され、フィオナが胸に手を当てて恭しく頭を下げる。ユリアヴェーラは混乱した。頭が追いつかない。

 アベルが苦笑いをする。


「まあ、積もる話は腰を落ち着けてからだな。ともかくユリア嬢、竜王は俺たちに危害を加えることはないからそれだけは信じてくれ」

「は、は、はい……」


 頷くのが精一杯だった。

 正直怖いのだ。人びとに魔獣をけしかける悪の親玉がこうして目の前にいることに。いくら落ち着こうと思っても手足が震えてしまう。

 ユリアヴェーラの小刻みに震える指をセシリーナがそっと握った。後からケルヴィンとヒースも駆けつけて――、一同は宿の一室に足を運んだ。




 宿の一室にワールドツーリスト社の関係者だけが集まっていた。

 セシリーナとアベルが創世の女神から聞いた話をその場にいる全員に伝える。『星を喰らう魔獣』の存在。それに対抗しようと策を練っていた女神。聖騎士と竜王とクラーク一族の関係が女神の策の一部だと話したところで、ヒースが口を開いた。


「そのあたりの話はさきほど村長から伺ったよ」

「村長も『星を喰らう魔獣』の存在を知っていたのか。この南方地域の火山から夜の森に繋がっているようだから、代々の村長が秘密を守り継いできたのかもしれないな」


 アベルが答え終わったのを見計らって、セシリーナが手を上げる。


「皆さんにご報告があります。夜の森で土の精霊ノームと、火山で火の精霊イフリートと契約できました。ノームは好意的だったんですがイフリートがなかなか気難しくて説得に苦戦しそうだったんですが、火山からの帰り道であっさり契約に応じてくれたんです」


 初めて出会ったときは契約する隙もなかったイフリートだけれど、帰りがけに会ったときには彼のほうから契約を申し出てくれた。その理由は、自分たちが『星を喰らう魔獣』と戦うことを決意したからだった。彼もまたこの世界を守りたいのだろう。

 ケルヴィンが皆に薬草茶の湯飲みを配る。


「村の特産品のお茶です。鎮静効果があるそうです。どうぞお召し上がりください。お嬢様、四大精霊との契約達成おめでとうございます」

「ありがとう。これで私もみんなの足を引っ張らなくて済むかな」


 一端の精霊使いになれたのだと思う。精霊たちの力を使いこなすにはまだまだ修練が必要だろう。これからも努力を惜しまないようにしないと。

 竜王が薬草茶を口に運んだ。


「苦っ……。ごほん、ともかくこれで戦力が揃ったことになるな。あと必要なのは権力者たちへの周知か」

「そうだな。とはいえ中央大陸全土への周知は避けたほうがいいだろうな。無用な混乱を招くだけだろうからな」


 アベルが言う。

 それには皆が賛成だった。民間人にまで『星を喰らう魔獣』の存在を知ってもらう必要はないだろう。混乱をきたしては無用な争いが起きてしまうかもしれない。小競り合いを鎮圧している余裕はない。詳細については要人のみに報せるべきだろう。

 これからの方針が決まってきたところで、時刻が遅いこともあり今日はいったん解散となった。

第五章開始です!

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