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転機

 その頃、火の村アグニスでは――。

 ヒースを前に、村長が視線を伏せていた。


「転生者、でございますか。よもや実在していたとは」

「僕自身、クラーク一族にその存在は伝わってはいましたが、出会ったのは初めてです」

「……何か変化の兆候でございますかな」


 ヒースと村長は揃って黙り込む。ヒースは顔を上げた。


「それからもう一つお伝えしたいことが。今代の聖女も転生者のようです」

「なんと!」

「セシリーナの知人であるようでした。二人は同じ世界から同時に転生したようです」

「ふむ。女神の思惑でありましょうか……」


 村長はそこで言葉を切る。

 転生者が二人も現れたことで、いよいよ女神が何らかの動きを見せたと悟ったのかもしれない。

 村長は息を吸うと、意を決したふうにヒースを見つめる。


「わかりました。今代が転機の年で間違いありますまい」

「おそらく。何かが変わろうとしている気がする。僕にできることがあれば全力を尽くしたい所存です」

「期待しております。――さっそくですが、次は私の話をお聞き願えますか?」


 ヒースは姿勢を正す。本題だ。村長が目を細める。


「貴方様は、星を喰らう魔獣についてご存知ですかな?」

「星を……え?」

「文字通りです。星を喰らう魔獣とは、世界の命を食べて生きている化け物のことです」

「そのような魔獣、聞いたことがない」


 ヒースはやっとの思いで答える。

 突拍子もない話に頭がついていかない。いったい村長は自分に何を伝えようとしているのか。

 村長は無理もないと頷く。


「その存在は私ら先住民の者と、貴方様のお父君しか知らぬでしょうからな」

「父上か……」

「左様です。その化け物を知っているからこそ、お父君は聖騎士と竜王の領土争いが繰り返されるよう支えておられるのです」

「それがクラーク一族の使命?」

「ええ。この世界はまもなく、その星を喰らう魔獣の餌食になろうとしておるのです」




 謎かけのように言うイフリートに、アベルが痺れを切らす。


「そんな抽象的な物言いをしないでくれ。竜王を倒して中央大陸を守る、そのために力を貸してはもらえないってことなのか?」

「そうだ。おまえたちの敵は竜王ではない。むしろ仲間となるだろう」

「……は?」


 ――竜王が……自分たちの仲間?

 竜王は宿敵だと思っていた。聖騎士である自分が倒すべき相手だと。実際はそうではないと言うことなのだろうか。


(……駄目だ。混乱してきた)


 イフリートの言うとおり、自分たちは圧倒的に情報が不足しているのだろう。だからイフリートが何を言っているのかもわからない、何が正しいのかも判断できない。

 黙り込んでいるアベルを庇うようにセシリーナが前に出る。


「それでしたら教えてください! 私たちが知るべきことを」

「良い心がけだ。なかなか見どころのある精霊使いのようだな」


 イフリートは満足げに笑う。


「実はさきほど竜王と聖女が同じようにここを訪れたのだ。そして彼らも情報を得に行った。己の真の敵を見極めるために」

「フィオナも!?」


 思いがけない名前にセシリーナは目を見開く。セシリーナの安堵した様子に、アベルもほっと胸を撫で下ろした。聖女は無事なのだ。竜王も一緒だったというところが少し心配ではあるが。

 イフリートが頷いた。


「おまえたちも彼らと同じところへ導いてやろう。精霊契約の可否は、そこでおまえたちが得た答えによって判断させてもらおう」

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