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お茶会

 ユリアヴェーラ・オルフェ侯爵令嬢ことユリアは、王都の近郊に広大な領地を持つ侯爵家の令嬢だ。貴族階級の中でもとりわけ上位の大貴族。自分のような田舎の伯爵令嬢がなぜ彼女と友人関係なのか。それは王都の社交パーティーで知り合い、お互いに政治経済に興味があったので意気投合したのだ。他の令嬢たちはお洒落やゴシップの話題にしか興味がなかったから。

 王都の時事に明るいユリアと話すことは格別に楽しかった。彼女から教わることも多かった。自分は辺境の領地に住んでいるから国境付近の情報に詳しい。ユリアも楽しそうに自分の話を聞いてくれた。そういった背景で、彼女とは王都のパーティで会えば必ず話す仲だったし、まめに手紙も送り合ってもいた。だから自分にとって彼女は一番の友だちだった。

 セシリーナは親友を振り返る。


「ユリア! こうして直接お会いするのは久しぶりですね」

「ええ、本当に。王都にいらっしゃるなら声をかけてくださればよかったのに」


 ユリアが唇を尖らせる。彼女は銀色の艶やかな長い髪に美しい青色の目をしていた。その華奢な両腕にはいくつかの書籍が抱えられている。彼女も読書をしていたのかもしれない。ユリアが嬉しそうに笑む。


「けれど、こうして王立図書館でお会いできてよかったわ。これも運命かしら」

「そうかも。お互いに本の虫だから」

「たしかに。あら、それはもしかして精霊学関係のご本かしら?」


 ユリアがセシリーナの手元にある書籍に視線をやる。セシリーナは頷いた。


「うん。ちょっとご縁があって精霊魔法が使えるようになったから。勉強しておこうと思って」

「まあ、素晴らしいですわ! セシィが精霊魔法で魔獣から王都を守ってくださったこと、わたくしも聞き及んでおりますの」

「アベルやケルヴィン、ヒースのおかげだよ。王都の騎士や兵士のみんなも頑張ってくれたんだ」

「皆さん勇敢ですのね。あなたも含めて。わたくしもなにかできることがあるといいのですけれど……」


 ユリアがふと思いついたように人差し指を立てた。


「そうですわ! セシィ、これから少しお時間はございまして?」

「え? う、うん。今日は一日調べものをしようと思っていたから」

「でしたら、わたくしの屋敷で一緒にお茶でもいかが? あなたのお話を聞かせていただきたいの」

「それは、精霊魔法のこととか旅行事業のこととかで大丈夫そう?」


 最近の自分の話といえばそれだ。ユリアはもちろん、と頷いた。


「ええ! あなたのお話を聞かせていただいて、侯爵家の人間としてなにかお力になれることはないか考えたいのです」

「ユリア……」

「わたくしにも、わたくしなりのやり方で竜王と相対させてくださいな」

(ううう、ユリアはなんていい子なんだろう……!)


 彼女と友だちになれてよかったとしみじみ思う。セシリーナは『精霊契約の極意』の本を借りてから、ユリアと共に王立図書館を後にした。




 オルフェ侯爵家の屋敷は、貴族の邸宅が並び立つ区画の中でもひと際目立っていた。白い石造りの建物に、窓枠に薄い水色をあしらった涼やかな佇まい。閑静な雰囲気ではあるが、なにぶん建物の大きさが他の邸宅と比べて一回りも二回りも大きい。侯爵家の誇る権力と財力を象徴していた。

 ユリアが用意してくれた馬車で王立図書館からオルフェ侯爵の屋敷へやって来たセシリーナ。御者の手を借りて馬車を降りる。そのまま侯爵家の中庭へとユリアと共に案内された。中庭はユリアの趣味なのか美しい薔薇園になっている。屋根がドーム形をした東屋に通されたセシリーナは、丸テーブルの椅子にユリアと向かい合って腰かけた。すぐに周囲に控えていた侍女が手早く銀食器を並べる。様々なサンドイッチや可愛いお茶菓子の乗ったキッチンワゴンを運んできた。洗練されたサービスにセシリーナは圧倒されてしまう。


(す、すごい……。これが侯爵家の日常)

「さあセシィ、お好きなものをお好きなだけ選んでくださいませ!」

「うん。本当にすごい。美味しそうな食べ物ばかり。ありがとう」

「喜んでいただけると嬉しいですわ。屋敷の専属のシェフに作らせているのですけれど、こちらの紅茶の葉を練り込んだスコーンがお勧めですのよ!」

「おお!」

「それからそれから、こちらのチーズケーキも新鮮な牛の乳を使ったもので味に自然な甘みがあって美味しいの! あとは――」


 ユリアが次々とお勧めの物を教えてくれる。そんな彼女を侍女が優しく見守っている。良い主従関係を築いているのだろう。セシリーナはユリアが勧めてくれたうちのいくつかの食べ物を選んだ。ケーキスタンドに目見良く並べられていく。可愛らしいお茶菓子と薔薇園に囲まれて、ユリアとの話が弾みそうだった。

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