表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/110

侵略

 アベルがセシリーナの背を追おうとしたそのとき――


「――大変ですッ! 聖騎士様はいらっしゃいますか!」


 広間の扉が音を立てて開かれた。転がり込むように入って来たのは全身を擦り傷や切り傷で覆われた若い兵士。泥と滲んだ血にまみれた顔で、必死に会場を見回している。ただ事ではない。演奏やダンスを止めて騒然とする場内。表情を引き締めたアベルがその若い兵士に駆け寄る。


「聖騎士は俺だ! なにがあった!」


 アベルが膝をついて若い兵士の肩を支える。兵士は救いの神が来たとばかりにアベルにすがりついた。


「聖騎士様、どうか、どうかお助けください……! 王都の外れに魔獣の群れが現れ、今にも城門を突き破らんとしておりますッ! 我々警備の兵で応戦してはおりますがなにぶん魔獣の数が多く、また狂暴度も増しておるため戦況が押されている状況です!」

(魔獣の群れ……)


 セシリーナとアベルは目線を合わせる。竜王の侵略が本格化し始めているのかもしれない。


「このままでは門を突破されて城下町に魔獣の侵攻を許してしまうかもしれず、私が代表で戦線を離脱して聖騎士様に助力を乞いにまいりました!」

「ありがとう。よく報せてくれたな」


 アベルが必死な兵士を安心させるように力強く言う。兵士は心底安心したのかそこで気を失ってしまった。竜王の行動は早い。油断していたら一気に中央大陸を攻め上ってくるかもしれない。

 アベルは国王陛下の前にひざまずいた。


「陛下、今お聞きくださったとおりです。出撃の許可をいただけますでしょうか」

「無論だ。貴殿に頼ることしかできぬ。このふがいない王を許してほしい」

「そのようなこと。必ずや魔獣の群れを退けてまいります」


 間髪入れずにセシリーナも胸に手を当てた。


「陛下、わたくしもまいります! わたくしも精霊使いの端くれです。――シルフ!」


 両手を差し出して祈る。一陣の風が巻き起こり、渦を巻いた内から緑色のとんがり帽子を被った小人の少年が現れた。少年は空中でくるんと可愛く回るとお茶目に片眼をつむる。


「お呼びですか、ご主人様! ……って、なんだか悠長にしている状況じゃなさそうだね」

「うん! 城門が魔獣に襲われているみたいなの。力を貸して、シルフ!」


 シルフは頷いてからセシリーナとアベルを交互に見つめた。


「うん、決めた! 一刻も早く現地に向かうためにご主人様とアベルに風の精霊魔法をかけよう。風の恩恵で加速できるんだ。ご主人様、ボクが合図したら『加速』の魔法を詠唱して」

「わかりました…!」


 精霊魔法には攻撃魔法だけでなく味方のステータスをアップする補助魔法もあるようだ。幅広い。

 セシリーナはシルフの指示通り詠唱を始める。


「風の精霊よ、どうか私に力を貸して――『加速』!」


 途端、アベルとセシリーナの体が緑色の風の衣を纏う。手足が風をまとったかのように軽い。


(わ、すごい! これなら飛ぶように走れそう!)


 シルフが拍手する。


「うんうん、やっぱりキミたちは魔法の効きが良いね! 当人に魔法の才がないとなかなかボクの魔法とはいえ効果を発揮できないから! それじゃあ、出撃――!」


 言うが否やシルフはあっという間に外へと飛び出していく。

 去り際にアベルが国王に頭を下げた。


「それでは陛下、行ってまいります! 必ず吉報をお届けいたします!」

「うむ。武運を祈っている!」


 国王のエールを背中に受けて、セシリーナはシルフとアベルに続いて駆け出す。

 目指すは城門だ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ