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王都へ

 あまり日数を割いていられる時間もないため、セシリーナたちワールドツーリスト社は告知もそこそこにすぐに『王都遠征ツアー』の企画を立ち上げた。魔獣の脅威を目の当たりにした直後であるから、もしかしたら参加者が少なくて閑古鳥が鳴いてしまうかも……と懸念していた。けれどむしろ自分たちワールドツーリスト社の活躍と勇気を称賛してもらえたのか、思っていたよりもたくさんの参加者が名乗りを上げてくれた。

 たとえば、以前シュミット村ツアー用の郷土料理を考案してくれた料理屋のおばさんが『王都遠征ツアー』への参加を決めてくれたときには、


「セシリーナお嬢様にはいつもお世話になっているからねぇ。お嬢様の会社を応援したいっていう気持ちはもちろんなんだが、それになにより一生お目にかかることはないと思っていた王都に護衛つきで行けるとなったら行きたいに決まっているじゃないか! この機会を逃す手はないと思ってね! うちの料理が王都の気取った料理に負けちゃいないんだってこの目と舌で確かめたいんだよ」


 と気合十分で参加を決めてくれたようだった。この世界では民間人が街々を移動することはなく王都に出かけることなど滅多にない機会であったので、村の人びとは我先にと王都への観光ツアーの参加を決めてくれたようだ。そうしてツアーはあっという間に参加者が集まり、ツアー出発当日を迎えた。




「皆さま、こちらに二列にお並びください。チケットを拝見いたします」


 よく晴れた青空の下、シュミット村の広場には『王都遠征ツアー』に参加する村の面々が集まっていた。また、それに同道して王都への帰路につく『シュミット村観光ツアー』の参加者たちの姿もある。ケルヴィンが簡易ごしらえの受付用屋外テーブルで参加者の名簿とチケットを照らし合わせていた。


「受付の終わった方からこちらのキャラバンにお乗りください! 順番に順番に!」


 王都に向かうキャラバン――大型の四輪の幌馬車――に参加者たちを案内しているアベルの姿もある。今回の旅程では参加者が大人数になるため、キャラバンに乗車して王都へと向かう予定だ。そのキャラバンの周囲を、それぞれの馬に乗ったアベルたちが遊撃隊として護衛する隊列を取る。王都に帰還する参加者の中には、騎士や傭兵といった剣の心得のある人も多い。そのため彼らにはキャラバンの中から、戦う術を持たない人を守ってもらおうという作戦だ。もしも魔獣の襲撃に遭ったとしても外と中からキャラバンを守ることができる――なかなかに万全の態勢だった。


「ひとまずこれで全員乗ったかな。じゃあ結界魔法をかけるとしようか」


 ヒースが仕上げとばかりにキャラバン隊全体範囲で結界魔法を発動する。魔獣たちの攻撃や盗賊団などの略奪行為から参加者や荷物を守るためだ。クラーク一族直系の彼の魔力は折り紙つきだ。彼が張る結界は魔獣や盗賊の攻撃どころか塵ひとつ通さないのではないだろうか。

 出発を前に、見送りに来ていたシュミット伯爵がセシリーナに歩み寄る。


「乗客たちの乗り込みは終わったようだな。おまえも早くキャラバンに乗り込むといい。出発しよう」

「はい、お父様。道中、女神と精霊のご加護を」

「おたがいにな」


 シュミット伯爵に続いてセシリーナもキャラバンの後部座席に乗り込む。

 この世界では、天地創造をしたとされる創世の女神が大陸の信仰の象徴となっている。精霊は女神の使徒とされていた。そう云われているとはいえ、女神は神話の中だけの存在で、その姿かたちは教会にある女神の石像や絵本でしか見たことがなかった。けれども今思うと、自分が転生するときに出会ったあの女神が創世の女神なのかもしれない。


(そうすると、風の精霊シルフが女神様の遣いだっていうことと辻褄が合うもんね)


 また創世の女神に会う機会があるのかはわからない。けれど、いつか再会したら自分に新しい人生を与えてくれたことにお礼を伝えたい。いまの自分の人生は、とても充実していて夢にあふれている。女神に転生してもらえなければ経験できなかったことだ。

 キャラバン隊の先頭で愛馬に跨ったアベルが、セシリーナを振り返った。


「セシィ、そろそろ出発するぜ! 皆さんも準備は大丈夫だな。忘れ物があっても取りに戻れないからな」


 アベルのまるで子どもの遠足のような注意事項に、参加者たちからどっと笑いが漏れる。和やかな雰囲気になった。これもアベルの気づかいなのだろう。

 ――いよいよ出発だ。道中、何事も起きませんように!

 村の人びとに見送られて、キャラバンは王都へと出発した。

第二章開始です!

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