表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/110

七転び八起き

「……なるほど。今回の我が領地への魔獣たちの襲撃から、おまえたちはいよいよ竜王の復活が近いのではないか――と考えているというわけだな」


 領主の館の応接の間に集まったセシリーナたちは、シュミット伯爵にこれまでの経緯を説明していた。いままで比較的おとなしかった魔獣たちが狂暴化し、おそらく聖騎士であるアベルを狙って襲ってきたと考えられることから、今回の魔獣たちの襲撃には明確な目的があると判断できると思うのだ。魔獣たちにシュミット村を襲うように指示を出した者がいる。それがきっと復活の兆しを見せている竜王なのではないだろうか。

 シュミット伯爵が低く唸る。


「魔獣たちが気まぐれに村を襲うようなことはなかろうから、竜王の仕業だと考えるのが妥当であろうな。貴殿はどう考える、サージェント殿?」

 

 シュミット伯爵が同席していたサージェント会長に目を向ける。サージェント会長とは、ケルヴィンの父でありサージェント商会を束ねる会長だ。会長もシュミット伯爵と同道して王都に上がって商人ギルドのほうに顔を出していて、そして村に帰ってきたところ今回の襲撃に居合わせてしまったらしい。


「ふうむ、あまりこの事態を軽視してはならないと考えますね。セシリーナお嬢様方の出された結論に基づいて行動するべきだと思いますな。近々竜王が復活するであろう可能性を考えて早急に対策を打つべきかと」

「うむ。そうなると一刻も早く国王陛下にその旨をお伝えせねばなるまいな。今日明日にでも王都に出立するとして、セシリーナ、アベル、ケルヴィン、ヒースの四人に事情説明役として同行してもらってもいいだろうか?」


 シュミット伯爵がセシリーナたちの顔を見渡す。もちろんそのつもりだったので、みんな申し合わせることなくうなずいた。セシリーナは間髪入れずに前に進み出る。


「お父様、王都に上ることに際しまして、ひとつ私からご提案がございます。呑気なことを申してしまうかもしれませんが私は旅行会社を起業したばかりで、そして初めてのツアーの最中に魔獣の群れに襲撃されるという悲運に見舞われてしまいましたが、素晴らしい社員たちの協力を経てこれを見事に撃退できました!」


 今回、我が社初のツアー企画の際に魔獣の脅威に遭ってしまったことは悲劇だったけれど、自分は出鼻をくじかれたとは思いたくなかった。ただでは起き上がらないというか、ピンチをチャンスに変えるというか、とにかく今回の魔獣の襲撃を我が社のイメージダウンではなくイメージアップに繋げたかったのだ。だから――。

 セシリーナは深く息を吸い込むと、大きく両手を広げる。


「私たちは、不意の魔獣に襲われても難なく撃退できる実力の持ち主として絶対安全をスローガンに掲げる旅行会社になりたいのです! つまり、私はここで諦めたくない――次は王都遠征ツアーを新たに我が社で企画させていただきたいのです!」


 拳を握って力いっぱい言い放つ。すると、間髪入れずにシュミット伯爵やサージェント会長はもちろん、アベルたちも一瞬ぽかんとしたあとにお腹を抱えて笑いだした。

 ――え、え、なにかおかしかった?

 アベルが笑いすぎて涙が滲んでいる目じりを指で拭う。


「ほんと、おまえって強かだよなあ! 普通、魔獣に自分の村が襲われたら怯えちまって旅行会社なんぞ畳むかと思うのに、それを売りにして次の旅行ツアーを企画しようっつーんだからな」


 ケルヴィンが困ったように笑む。


「まったく、お嬢様らしいというかなんというか、あいかわらず常識外れな人ですね。たしかに、初ツアーに魔獣の襲撃という不意打ちに遭いながらもそれを見事に退けたという実績は、使い方によっては良いアピールポイントになりそうですね。安心安全を謳うなら、これ以上ないエピソードと言えるかもしれません」


 ヒースが両腕を首の後ろで組みながら、飄々とした顔で言う。


「どちらにしろ、いまは我が社の旅行ツアーで王都からこのシュミット村に来ている観光客がいるわけだし、その人たちの帰路をお送りするついでと言ったらなんだけれど、王都遠征ツアーも一緒の日程で組んで希望者を募って王都に出発するのはどう? そうすれば国王陛下への謁見も叶えられるし、一石三鳥くらいにならない?」


 たしかに、そうすればシュミット村観光ツアーの帰路にかこつけて、王都遠征ツアーと国王陛下への謁見も同時におこなうことができそうだ。


(これぞまさに、海老で鯛を釣る……みたいな感じ? ちょっと違うかな)


 サージェント会長が観念したように苦笑する。


「……まあ、セシリーナお嬢様がそこまでおっしゃられるのでしたら、ここはお嬢様の手腕にお任せさせていただいてもよろしいのではないでしょうか。せっかく会社を立ち上げられたのですから、こんな不測の出来事で勢いを失ってはもったいないというものです。いち商人としての意見を申し上げれば、商売は売り上げを上げられてなんぼですので、王都遠征ツアーの参加者を募ってみてから考えてもよろしいのではないでしょうか」

「なるほど。会社の存続を判断するのは、そのあとで良いということだな。大商人として大陸に名を馳せるサージェント殿がそうおっしゃられるのであれば、信頼に値すると申しますか、一度それに賭けてみようか。できるか、セシリーナ?」


 シュミット伯爵に勝ち気な目線を向けられて、セシリーナは俄然燃えてきて鼻息を荒くして頷いた。これは、シュミット伯爵とサージェント会長にチャンスをいただけたのだろう。

 アベルとケルヴィン、ヒースのことを振り返ると彼らが一様に力強く頷く。力を貸すぞ、そう背中を押してもらえた気がした。セシリーナは伯爵たちに向き直る。


「お父様、サージェントおじ様、チャンスをくださってありがとうございます! 私たちの底力をどうか見ていてください!」


 ワールドツーリスト社の反撃が、始まる―――!

次回から第二章に入ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ