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チームワーク

 やって来たセシリーナたちに、ヒースは結界を維持したまま顔だけこちらを振り返る。ケルヴィンはいったん剣を下ろして結界の中へと飛び込んできた。


「ああっ、やっと来た……! 遅いよ、ふたりとも!」

「お嬢様、お怪我はございませんか! ご無事でなによりです!」


 開口一番にヒースは文句を言い、対してケルヴィンは心配しながらセシリーナに駆け寄ってくる。そうして肩口でふよふよと浮遊しているシルフを目に入れるなり言葉を失った。


「……お、お嬢様、この御仁は、いったい?」

「あ、ケルヴィンもシルフのことが見えてるんだ!」


 ケルヴィンだけではなくヒースもあんぐりと口を開けているあたり、彼にも見えているのかもしれない。


(もしかしたら魔力の素養のある人たちには見えやすいのかな……?)


 聖騎士の家系であるアベルはもちろんのこと、ヒースも最高位聖職者であるクラーク一族の末裔だし、ケルヴィンも習得難易度最高レベルと言われる魔法剣の使い手だ。自分以上に魔法の才能に満ち溢れた彼らが精霊が見えないはずがないのかもしれない。

 呆気にとられて問いかけたケルヴィンに、セシリーナより先にシルフが得意げに口を開く。


「ふふん、驚いたでしょう! ボクはシルフ、精霊使いであるご主人様と契約した風の精霊さ! つまり、おまえらみたいなどこの馬の骨ともわからない野郎共とは違う、ご主人様の一番の相棒なのさ!」


 ケルヴィンが驚きの目線を向ける。


「精霊使い……? そうということは、お嬢様は精霊魔法がお使いになられたのですか!? そのような大事なことをお嬢様の執事である私に今日までお伝えくださらないとは、私はお嬢様の信頼に値しなかったということですか?」

「違う、ケルヴィン、違うんです! いろいろあって、精霊魔法が使えるようになったのは本当に最近で……! 直近すぎて、シルフと契約させてもらったはいいもののまだ一回も精霊魔法を使ったことがないくらい!」

「一回も……? まあ、私も魔法剣が使えることをお嬢様に黙っておりましたのでお相子と言えばお相子なのですが」

「たしかに、ケルヴィンが魔法剣使いだったなんて今日の今日まで知らなかったし! 仮にも仕え先である私に黙っているなんてケルヴィンこそ秘密主義じゃないですか」


 言うと、ケルヴィンが人の良い笑顔を浮かべた。


「まあ、そうですね。能ある鷹は爪を隠すと言いますが、万が一お嬢様に危険が迫ったときに私の手で貴方をお守りできるようこっそり研鑽を積んでいたのですよ。今までお伝えせず申し訳ございませんでした」


 誠実に深々と頭を下げてくれるケルヴィンに、セシリーナは胸がどきどきして仕方なかった。


(どうしよう、嬉しい……)


 大切にしてもらっているのだなあと実感して、心がぽかぽか温かくなる。そんなセシリーナの心境を察したのかそうでないのか、ケルヴィンは焦った様子で後ろ頭をかいた。


「お嬢様、そのように嬉しそうな顔をなさらないでください。自分などまだまだお嬢様の執事を務めるのに未熟なのですから」


 心なしか早口になっているケルヴィンに、いつも冷静な彼の意外な面を見た気がしてにやにやしてしまう。前方でひとり結界を張り続けていたヒースが地団太を踏んだ。


「ああああもうっ、いつまで和やかに雑談しているんだよ! いくらクラーク一族の出身で次期教皇候補で選ばれし神官の中の神官の僕でも、ずっと結界を張り続けるのはしんどいんだからな!」


 いっぱいいっぱいなのか、途中でヒースのナルシスト発言がさく裂している。アベルが腰の聖剣を抜き払って、ケルヴィンの隣に並んだ。


「ケルヴィン、とりあえず俺たちで前衛を務めるぞ! ざっと状況を確認すると、あの魔獣の群れ共がいきなり束になって村に襲いかかってきたってことでいいんだよな? それで村への侵入をおまえたちがここで食い止めてくれてたってことだよな」

「ええ、間違いありません。この異常事態、竜王の復活が近いことを示唆しているのではないかと思われますが、それは追い追い考えるとしましていまは村を魔獣の脅威から守りましょう」

「おまえと共闘すんのなんて、昔、一緒に武芸の教育の一環で剣の手合わせして以来だよな。あれからお互いにどれだけ研鑽を積んだのか腕の見せ所だな」

「お手柔らかにお願いしますよ。あなたの足は引っ張らないつもりですが」

「謙遜しすぎだろ!」


 アベルとケルヴィンは軽口を叩き合いながら同時に地を蹴るとヒースを結界を飛び越えて村の門の外へと躍り出た。そんなふたりを獲物にして狼型や鳥型、大型の獣型の魔獣たちが飛びかかるけれど、背中合わせに立ったアベルとケルヴィンがそれぞれに剣を閃かせると魔獣たちが次々と地に倒れ伏していく。


(つ、強い……! ふたりとも、あんなに魔獣と戦えるなんて!)


 ふたりの勇猛果敢っぷりに、気づけば村びとや観光客たちが集まってきて歓声を上げている。みんないつのまにか魔獣への恐怖も忘れてふたりを応援することに夢中になっているようだった。


(と、とりあえず、みんなに安全な場所まで避難してもらわないと……!)


 領主であるシュミット家の令嬢として村に観光客を招いた旅行会社の社長として、村にいる人びとの命を守る責任がある。セシリーナは周囲を見渡して状況を確認しながら隣のシルフに目を向ける。


「シルフ、とりあえず私は民間人の誘導を――」

「なに言ってんのさご主人様! アベルもケルヴィンもヒースもあんっなに強いんだから逃げる必要なんてない、ボクたちなら勝てるよ。ご主人様、ボクの力を使って! 精霊魔法ならあれだけ数が減った魔獣なら一掃できると思うよ」


 いつになく真剣な表情で自分の胸に手を当てるシルフ。

 ――シルフが、自分たちの力を信じて一緒に戦おうと言ってくれているんだ。自分の力でこの村やみんなを守れるのなら、こんなに光栄なことはない!

 セシリーナは自分の胸に手を添えて一度深呼吸をすると、シルフに真剣な瞳を向ける。


「シルフ、精霊魔法ってどうやればいい? どうすればあなたの力を借りられる?」

「簡単だよ! ボクの後に続いて精霊魔法の詠唱呪文を高らかに唱えればいいんだ! 間違えても噛んでも大丈夫だから、落ち着いてね!」

「う、うん……!」


 セシリーナががちがちに緊張しているのがわかったのか、シルフがフォローを入れる。

 ――シルフの後に続いて呪文を唱えるだけ、唱えるだけ……。

 そんなことをぶつぶつと頭で繰り返していると、シルフが魔法の言葉を紡ぎだした。

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