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転生の女神

 それは一瞬の出来事だった。


 大学卒業後、旅行会社に就職した遥乃はるのは、仕事先へ向かう大型バスの横転事故により同僚と共にあっけなく命を落としてしまった。社会人三年目の春のことだった。

 旅行好きだった両親の良い影響を受けてか、小さいころから旅行が大好きだった遥乃。もっといろいろな国や町を見て回りたかったし、これから先も旅行を仕事にして生きていきたいと思っていた。


 それなのに、まだ二十代の若さで人生終了だなんて――。


(な、納得できないっ……!)


 そう強く嘆いた途端、遥乃は突然、あたたかな光に全身を包まれた。何が起きたのかとそっと目を開けると、いつの間にかよく絵画で見かけるゆるく波打った金の髪をした女神が目の前にたたずんでいた。ぽかんとしている遥乃に女神がそっと微笑みかける。


「心配しないでください。大丈夫、貴方の願いを叶えて差し上げましょう」


 え……?


「現世の貴方の人生は残念ながら終わりを迎えてしまいましたが、貴方にはこれから異世界に別の人物として転生していただき、新しい人生を歩んでいただこうと思います」


 女神の言っていることがよくわからない。別の人物として転生する……つまり生まれ変わるということなのだろうか。輪廻転生という言葉があるけれど、魂を救済してくれるということだろうか。

 遥乃は言われた言葉を自分なりに解釈する。


「あの、ちょっと頭がついていかないんですが、要するに私はこのまま別の人間に生まれ変わらせてもらえるってことですか?」

「ええ、そのとおりです。わたくしは人びとから転生の女神と呼ばれる者。しかるべき命を、しかるべき世界へ転生させることができるのです」

「そ、そうなんですか……」


 そんな曖昧な相槌しか返せない。

 女神様……たしかに、神様ならばなんでもござれなのかもしれない。


(ここは疑問を持つべきところではないのかも……)


 無理矢理納得していると、女神がしなやかに片手を伸ばした。


「それでは、時間もあまりないことですしさっそくですが転生を始めましょう。転生にあたり、あなたには女神の加護を授けさせていただきます」

「女神様の加護?」

「ええ。あなたの場合、旅行という多くの土地を巡る仕事柄、世界に愛される体質のようです。ですので世界を構成する四大元素の精霊たちを使役できる精霊魔法を授けましょう」

「ありがとうございます……?」


 転生をするにあたり、女神からギフトが貰えるらしい。あれよあれよという間に遥乃の身体が光に包まれていく。それはここに来るときに現れた光と同質のものだった。おそらくもうこれで女神とはお別れになってしまう――そう感じた遥乃は慌ててお礼を伝える。


「女神様! 私の願いを聞き届けてくださってありがとうございます! それで女神様のお慈悲に甘えてひとつだけ教えていただきたいのですが、おそらく自分が亡くなったとき職場の後輩が一緒に事故に巻き込まれてしまったんです。彼女がその後どうなったのかおわかりになりますでしょうか?」


 彼女は同じ旅行会社の後輩で、配属先が同じだったこともあって一番仲が良かったのだ。彼女があの事故後どうなってしまったのか安否が知りたかった。

 女神は、遥乃を安心させるように優しくほほ笑む。


「存じております。残念ながら彼女もあなたと同じようにあの事故で命を落としてしまいましたので、わたくしの力で異世界に転生してもらう予定です。あなたと同じ世界と時代に転生するはずなので、いずれ会えると思いますよ。安心してください」


 後輩のことがわかってひとまず胸をなでおろす遥乃の肩に、女神が細い指先で触れる。


「それでは、いってらっしゃい。転生先での人生をどうか幸せに生きてくださいね」


 遥乃は感謝の気持ちを伝えようと、薄れていく両手を必死に伸ばして女神の手をとる。


 ――なにからなにまでありがとうございます、女神様!


 そう思った途端に意識がそこで吹き飛んで――今まで見たこともない世界……異世界の雄大な空の青と大地の緑の景色が自分を迎え入れてくれた。

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