第六話『和哉感謝祭』
「「かんぱーいっ!」」
和哉とカラオケで合流して、個室で飲み放題のジュースを流し込む。
「本当に辛かった……。『彼氏なんだから、カノジョが喜ぶことをするのが当然でしょ!義務でしょ!』って、何度もパシリに使われたなぁ」
「パシリもだけど、俺はストレス発散が苦痛だった。ムカつくとか言って、カラオケとかゲーセン、遊園地とかなら可愛げがあるんだけどな。サンドバックにされた屈辱は凄かった」
「僕もあったな、それ。身体痛くないのに、心が痛いんだ、あれ」
御代は、僕たちのことを雑に扱うくせに、自分が気に気に入らない扱いを受けると、直ぐに不機嫌になった、その都度、罰を与えてくる。
「電話でも言ったけど、別れるって俺から言ったら、凄い怒ってたよ。『和哉から告白してきたくせに』って。で、仕方ないから最終手段を使ったよ」
「あ、渡した写真、役に立ったんだ」
僕の時と同じ。
僕が御代と並んで歩いている写真を、和哉は持っていた。
御代が暴れた時の、対策として。
「この写真と、お前の写真があることを知ってるから、御代は暴走できない。俺たちに危害を加えられない」
「安心だな」
「そう、だから、本当に御代の件は、これでお終いだ」
よし、と和哉が立ち上がり、御代の話は止めようと提案してくれる。
僕としてもその方がありがたい。
和哉感謝祭はもちろんだが、今日は純粋に、友達と楽しく遊びたい。
御代と付き合っている間は、和哉と遊ぶことも出来なかったから、だから、解放された今日ぐらいは、何もかも忘れて遊んでいたいのだ。
そんな僕の思いに気付いてか、そうでないかは分からないけど、和哉はいつもより、明るく接してくれた。
*
和哉とのカラオケを楽しんだ僕は久しぶりに友達と無邪気に遊べた喜びを噛みしめながら、マンションにある自分の部屋に帰った。
僕の両親は海外で仕事をしていて、長い間顔を合わせていない。時々、電話で生存確認をし合うくらいの関係が中学二年生の頃から続いている。
「ただいま」
家に誰もいないことは分かっていても、自分の家に帰ってきたんだ。
「ただいま」を言うことは不自然ではないだろう。
「御代からこの部屋を守り抜いた僕の努力は無駄じゃなかったな」
御代は僕がどこに住んでいるのかを把握していない。なぜなら僕が絶対に教えなかったから。教えたが最後、一人暮らしのこの部屋は御代に占拠されてしまう可能性が高い。僕の唯一の安息地は彼女にとって都合の良い環境なのだ。
仮に、どこかでこの部屋の情報を手に入れても彼女はマンションにすら侵入することは出来ない。なぜなら、このマンションはオートロック式で、住民の許可なしには侵入することが叶わないのだ。
このマンションを選んだ両親に感謝をしていると、インターホンが鳴り誰かが僕にマンションの侵入の許可を欲していた。
「宅配便か?」
通販を頼んだ覚えがないので、両親が海外から何か送ってきたのかもしれない。
僕がカメラを確認してみると、そこには宅配の人ではなく、顔見知りの先輩が立っていた。
「み、雅先輩?!なんで......」
『あ、衛戸くん。こんにちは。全然部活に来ないから心配になってね』
「い、色々聞きたいことはありますが、取り合えずどうぞ」
雅先輩のマンションへの侵入を許可して、僕は部屋の中を走り周り始める。まさか、来客者────それも雅先輩がくるだなんて思いもしてなかった。急いで部屋に脱ぎ捨ての衣服はないか、来客用のコップは汚れていないか、部屋は臭くないか......限られた時間の中でできうる限りの確認をして回った。