僕とボクとぼく
20XX年、日本でクローン法案が可決した。日本人全員にクローンを配布するというものであり、可決当初こそ日本中では 「ついに政治家の頭が狂ったのか」「代わりがいたところで使わない、予算の無駄」と大合唱になっていた。しかし、法律は全会一致で通っており、反対する政治家はいなかったという。
そして、僕の家にも一台。いや、一人僕が送られてきた。
「しかし、この箱の中に自分と全く同じ見た目のロボットがいるのか。開けてみたいけど少し不安だな」
と、思いながらも好奇心が勝っていたようで身体は勝手に開封作業を始めていた。
段ボールを開けると中には充電装置がはいっていた。多分、この中に僕がいるのだろう。開け方も分からず、説明書を読む。どうやら、充電装置に電源をいれると自動で起動するらしい。そんなまさかと半信半疑ながらも僕はコードを差す。
すると、充電装置が怪しげな起動音とともに七色に光り出す。ぞっとする光景であり、机に隠れる。最後に部屋中に煙が充満した。
「ゲホッゲホッ。なんだよ最後の煙は。絶対に入らなかっただろ、あれ・・・」
「よっ」
煙が晴れてくると、いつも僕が友達に挨拶するかのように目の前の僕が挨拶をしてきた。
「お前が、僕のクローンなのか?」
「そうだけど、なにか違ったか?」
「いや、多分違わないが違ってほしいって思っているだけ」
「本当に僕って何がいいたいかはっきりしないね、いなくていいなら電源入れなきゃいいのに」
心の中で思っていることをズバズバと当ててくる。この気持ち悪さは慣れるのだろうか。
「でも、」
「「好奇心に勝てなかった」」
「だよな?」
話すタイミングすらバレているのか。
「それくらいお見通しよ。地球人の大半にはチップが埋まっているだろ? それと連携してあるんだから僕が思っていることは何でも分かるって訳。だから完璧に君になれるよ。あ、ご飯を食べないくらいかな、違うのは」
僕だけど僕じゃない。この恐怖感は最初だけだった。僕のチップと彼のチップは連動しており、彼がした僕としての行動は僕の記憶としてしっかりと共有される。そして、僕が一人でしたことも彼に共有される。
会社にだって最初は二人で行っていたのだが、体調を崩し、代わりにいって貰った日から朝だけは彼に行って貰うように変わっていた。出勤時の雑務や引き継ぎは彼が行い、僕はそれが終わった頃に出社する。僕と僕が引き継ぎする必要はなく、あたかも自分でしたかのようなデータがある。
「山田さんお疲れ様です、今日もクローンは帰ったんですか?」
「あ、お疲れ、そうだよ。僕も仕事しないとなまっちゃうからね」
「山田さんって本当にまじめっすね。今日本の中で真面目に来ているのって山田さんくらいだと思いますよ、僕の本体だって最近全くあってないですからね、データは共有なのでハワイにいるってことは分かるんですが」
「まあ、遊びばっかりもつかれちゃうからさ、僕はいいのよ、これで」
「そうなんすね! じゃあ頑張ってくださいっす!!」
そう、生身の人間が仕事しているのはほぼ見れなくなっているのだ。人間楽が出来るならその方に流れるのは分かるがここまでになるとは思ってもいなかった。だが、僕が僕としてあり続けるためには仕事をしているときが一番だと僕なりに思っていた。
今日も仕事を終え、家に帰る。そこには仕事中にも話した後輩がいた。お土産らしき物をもっているので今日あった後輩ではないかも知れない。本体のほうな気がして少しうれしかった。
「あ、山田さん。お土産っす! ハワイ行って来たんで!」
「お、久しぶりだな、山田。聞いてたよ。ありがとう! うれしいな」
「山田さんってお土産でこんなに喜ぶ人でしたっけ? しかも久しぶりって午前中あったじゃないですか!」
僕はそう言われると、震えが止まらなかった。クローンと本体。見分けがつかない。そんなこと分かりきっていたことではある。しかし、こう直接実感してしまうとなれてきた生活ですら、僕のクローンですらなんだか怖くなってしまったのだった。
「どうしたんすか、急に固まって。固まり方がクローン見たいですよ? 本体なら本体らしくしてくださいよ!」
「そうだよな、僕が本体だよな? 僕はクローンじゃないよな?」
「そうじゃないっすか? 生体反応ありますし・・・」
「そうだよな、僕はにんげんだよな、あは、あははははははははh。あははははははははははははははは」
エラー発生・エラー発生。修復を行います。修復を行います。エラーコード0・エラーコード0・リセットを行い、再起動をします。
「おい、僕。おーーい! いい加減に起きろって」
「ってだめか、ったく何回目の本体交換だよ。つかえないなー。」
「おはようございます。21XX年○月△日、今日のニュースをお伝えします」
科学ノ進歩、発展ニ犠牲ハツキモノデース