8 時計塔にて
街のどこにいても上を向いてすこし視線を彷徨わせれば見付けられるものがある。
天を貫くように聳え立つ時計塔だ。
どの建造物よりも高く作られたそれは街の象徴と言ってもいい。
観光客は分かれ道に差し掛かるとまず時計塔のある方向へと向かうし、足下は常に人で一杯の大人気観光スポットだ。オリジナルグッズも売られているし、俺も一つ持ってる。
時計塔型の目覚まし時計。
ルリがお土産に買ってきてくれたものだ。
デカいのが玉に瑕だけど、朝のお供として重宝してる。
「昨日の二人組の顔、記録してるだろ?」
『パイロットの殺害を企てた二人の顔写真を表示』
「そうそう、こいつらだ」
縁に腰掛けて足を投げ出し、眼下に広がる街を一望する。
自分の背丈よりも大きい時計が直ぐ下でチクタクと動くここは時計塔の屋上だ。
関係者以外立ち入り禁止の一般人には縁のない場所でも、ゴーレムスーツがあれば楽勝で入り込めてしまった。
飛行ユニット様様だ。
まぁ、この絶景も二人の顔写真のせいで台無しだけど。
「この二人を見付け出して色々と聞きたいことがある。探せたりするか?」
『指定対象の捜索を開始。立ち上がって街全体を見渡してください』
「よーし、そう来なくっちゃな」
立ち上がって縁に沿うように歩く。
靴一足分隣りにズレただけで地上まで真っ逆さま。
そう考えるとぞっとしたが、今はゴーレムスーツがあるから大丈夫。
安全保証を受けながらのスリルを楽しみつつ、街の全体を順番に視界に収めていく。
「当たり前だけど、ここからだと人なんて全然見えないな」
辛うじて馬車が走っているのが見えるくらい。
煉瓦造りの家々が並び立ち、数多ある煙突から白い煙が立ち上る。
見慣れたはずの街並みも視点が変わると新鮮なもので見ていて飽きない。
『指定対象を発見』
「いいね、どこだ?」
『ズームします』
双眼鏡を覗いた時のように遠くの物がぐっと近くなる。
それまで捉えきれなかった人々の、それも表情までがはっきりと確認できた。
その中でも一際目を引くのは強調表示された二人組。
俺を陥れてダンジョンの深層に叩き落とした連中で間違いない。
「路地裏に入って行ったな。ちょうどいい、とっちめに行こう」
視界が元に戻り、時計塔の縁から一歩を踏み出すように落ちる。
自由落下と同時に背中の飛行ユニットに熱が灯り、砲塔から魔力が解き放たれた。
推進力を得たこの身は超高速で街の上空を横切り、瞬く間に目的地である路地裏へ。
速度を緩めつつ飛行ユニットを停止し、二人組の前に降り立つ。
「な、なんだ。なにが降って来やがった」
「おい、あれってまさか、昨日の――」
「俺だよ、俺。憶えてるだろ? 自分が殺そうとした相手の顔くらい」
ヘルメットを格納して素顔を晒すと、二人組はぎょっとした顔つきになった。
「聞きたいことがあるんだ。面貸せよ」
「……逃げろ!」
「逃がすかよ」
人の顔を見るなり逃げ出した二つの背中を眺めつつ跳躍。
この身が宙を舞い、二人を飛び越してその先に立ち塞がる。
「まだ逃げるか?」
「こっちだ!」
また背中を向けて走り出した。
「あぁ、そう。飛行ユニットを再点火」
『了解』
砲塔から吐き出される魔力を地面に叩き付けて飛翔。
空中で円を描いて下降し、地面すれすれを滑空しつつ二人組の襟首をキャッチ。
そのまま上昇軌道を描いて、大空へと連れ去った。
「うわあぁああぁあああああ!?」
「や、やめろ! 離してくれ! お、下ろせ! 頼む!」
「お前らが質問に答えるなら考えてやるよ」
街の上空で滞空し、二人を軽く上へと投げて今度は胸ぐらを掴む。
「俺を殺そうとしたのはお前らだな?」
「そ、そうだよ、クソがッ!」
「理由は?」
「羨ましかったんだよ!」
「あぁ?」
「若くて強くて面も良くて金があって女にもモテる! お前みたいな奴が大っ嫌いなんだ!」
「俺たちなんて見向きもされねぇ。こんな不平等があってたまるか!」
「あー……つまり嫉妬ってことか? それで俺を殺そうとしたわけ?」
「お前が死ねばルリちゃんだってワンチャンあるかも知れないだろ! 悪いか!」
「悪いに決まってんだろ。あとノーチャンスだ、お前らなんか」
随分としょうもない理由で殺されかけたもんだ。
実際、こいつらの目論見は成功寸前まで行っていたことだし、なんとも迷惑な話だ。
「まぁ、いい。ここからが本題だ」
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