6 飛行ユニット
第一陣を荒らしてすぐ地面を蹴ってひとっ飛びにとんぼ返り。
飛行ユニットに迫った魔物たちに蹴りを見舞い、大きく吹き飛ばす。
しかし続々と魔物は姿を見せ、こちらに迫ってきている。
「くそッ、切りがない。なにか武器はないのか!?」
『脚部からフォトンブレードを射出』
突如として視界に紛れ込んだ棒状のなにか。
それを掴むと先端から蒼白い光が伸びる。
魔力の粒子によって形作られた片刃の剣。
目の前から飛び掛かってくる狼の魔物に対して剣を振るう。
描いた一閃はするりと抜けて、その体を二つに裂いた。
「いいね、気に入った!」
リーチが伸びればそれだけ一度に斃せる魔物の数が増える。
血風が吹く戦場に蒼白い残光が明滅し、一つまた一つと魔物の命が消えて行く。
『敵性生物が飛行ユニットに最接近』
「あぁもう!」
処理速度が上がっても多勢に無勢に変わりはない。
個がどれだけ強くとも数で押されれば苦戦は必至。
それも守るべき物があるなら尚更だ。
「あと何分だ!」
魔物を斬り捨てて、直ぐさま次の目標へ。
『いま完成しました』
瞬間、背中に衝撃が走る。
魔物に攻撃されたからじゃない。
完成した飛行ユニットが取り付けられたからだ。
円錐形をした砲塔が左右に四機ずつあり、限界まで広げた姿はまさに翼だった。
「飛べ!」
八つの砲塔から魔力が噴き出し、更に身を捻ることで周囲の魔物を焼き払いながら飛翔。
この身は宙に押し上げられ、空を自由に飛ぶ権利を得た。
「マジで、ホントに、飛んでる!」
空飛ぶ魔法が使える奴を、いつもすこしだけ羨ましく思っていた。
まさか俺自身が空を飛ぶ日が来るなんて。
「このまま最短で地上に向かうぞ! ルート2だ! あばよ、魔物共!」
焼け焦げた魔物の亡骸の上を舞い、轟音を響かせながら飛ぶ。
加速は一瞬、超高速でダンジョンの通路を通過し、俺が落下した地点に着く。
翼の砲塔が機敏に動き、地面が赤熱するほどの魔力放出を持って急上昇。
幾つもの階層を一機にぶち抜いて、あっという間に目標地点へと到達した。
ようやくダンジョンの深層から戻って来られた。
「フゥウウウウウ! 最っ高の気分だ! もう一回! と行きたい所だけど、まずは無事を伝えないとだな」
『緊急回線で通話を繋ぎますか?』
「いや、どうせここまで来たなら直接会おう。びっくりするぞ」
『サプライズですね』
「そういうこと。よし、早いところ地上に戻るか」
ルリと共に歩いた道を辿り、地下と地上を仕切る鉄の扉を開く。
割れた窓から差し込む光はまだ柔らかく周囲を照らしている。
「朝か」
『現在時刻は午前六時二十四分です』
「一夜にして色々とあったもんだ」
一生、ダンジョンの深層から出られない可能性のほうが高かった。
禄に戦闘もできないようなダメージを追ったまま、あの巨躯の魔物から逃げ切るなんて無理だっただろう。
このゴーレムスーツと搭載されたAIがなければ今ここに立ってはいられなかった。
家に帰ったら感謝を込めて綺麗に拭いてやるくらいのことをしようか。
「出口だ」
さぁ、外に出ようと意気揚々と歩いていると、ふとダンジョンの外で男の声がした。
「いいか、野郎共。よく聞け! 俺たちの目的はただ一つ! 遺物でも、お宝でも、魔物の素材でもない! ダンジョンの深層に落ちたライトの救出だ!」
『パイロットの救出隊のようです』
「見たいだな。さて、どうしたもんか」
この場面でのこのこ出て行って自力で戻って来ましたは、ちょっと気まずい。
「いつ明日は我が身になるかも知れねぇ。俺たち冒険者は仲間を見捨てねぇ、いざって時に見捨てられたくねぇからな! そうだろ野郎共!」
歓声が轟き、ボルテージは最高潮。
ますます外に出られなくなった。
いっそうのことこのまま深層に戻ってしまおうか。
「――おいおい、どうする。大事になっちまったぞ」
「くそ。あいつが深層で死んでりゃ楽な話だったのに」
「あん?」
ふと耳に聞こえた、不可解な会話。
物陰に隠れて耳を澄ませると、二人組の会話が聞こえてくる。
「とにかく、俺たちが先に見付けるしかない。見付けて今度こそ始末する」
「行動するなら早いほうがいい。始まったらすぐに深層に向かうぞ」
「今からじゃダメか?」
「抜け駆けだって思われちまう。そのほうが面倒だ」
「あぁ、くそ。面倒臭いな」
会話の一部始終を聞いて、確信にいたる。
『あの二人組がパイロットを殺害しようとした犯人のようですね』
「あの野郎共……どうしてやろうか」
こっちは命を落とすところだったんだ、それなりの報復は覚悟してもらわないと。
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