3 人工知能
『■■■■』
「うわ、また喋った」
『■■■■■■■■■■■■■■■■■……完了』
「あぁ?」
『はじめまして、パイロット。私は当機管理AIです、どうぞお見知りおきを』
「は、え……はぁあああ!?」
パイロット? 管理AI? いやそれよりも俺たちの言葉を話し出した。
一体なにがなんだか、さっぱりだ。
§
『AIとは人工知能の略称です。学習した知識、経験を用いてあらゆる判断や提案を行います。人間の知的能力を再現する技術と言うべきものでしょう』
「へぇ、そりゃ凄い。昔の人は遺物で脳味噌を作っちまったってわけか」
『端的に言えば』
人間の真似事をするゴーレムは幾つか見たことがあるけど、人間みたいに喋るのは流石に初めてだ。
「AIが脳味噌なら、このゴーレムは体ってところか」
『魔導金属を用いた弐式強化外骨格です。通称、ゴーレムスーツ』
「ゴーレムスーツか」
明らかに中に人が入ることが前提の構造になっている。
人工知能があれば中に人が入る必要なんてないのでは? と思いはすれど、古代の人間が考えることだ。きっと理由があるんだろう。
「視界の左半分がやけに鮮明なのもゴーレムスーツの機能なのか?」
『その通りです、パイロット。ゴーレムスーツのヘルメットを介することで、肉眼よりもはるかに優れた視野を確保することが可能です。他に幾つもの機能が存在しますが、当機の破損によりその大半が失われています』
「まぁ、左半身がないわけだしな。顔のところも右側が欠けてるし」
このせいで視界が二分割されているように見える。
正直、右目は瞑っていたほうが混乱せずに済む。
『現在、復旧に勤めていますが目処は立っていません』
「とりあえずはこの怪力があればなんとかなる。復旧はゆっくりと茶でも飲みながらすればいいよ」
『私に飲料は不要です』
「そう言う意味じゃなくてだな。まぁ、いいか」
意思疎通に若干の不安を抱えたが、生きて地上に戻る可能性が格段に上がったのは確かだ。この恐らくはダンジョンの深層にあたる領域に、どんな魔物がいるかはわからないが希望はまだ潰えていない。
「絶対にここから脱出してやる」
『行動目標を兵器開発施設からの生還に設定』
兵器開発施設?
『第一にパイロットの生存率を高めるために当機の修復を推奨します』
「修復……修復か。できるのか? そんなこと」
どう見たって未知のテクノロジー満載だ。
たとえこのまま地上にワープできたとしてもゴーレムスーツを直すのは難しいと思うけど。
『近辺に当機と同型のゴーレムスーツを複数確認しています。すでに機能を停止しているようですが』
「そうか。残骸から部品を漁ればなんとか繋げられるかもか」
どう繋げるかはAIとやらに任せよう。
こう言う提案をしている訳だし、修復できるんだろう多分。
『なお、先ほど破壊したゴーレムは構成材質が異なるため修復には不向きです』
「ゴーレム? ゴーレムなんて壊したか?」
『先ほどパイロットが蹴り壊した敵性生物の姿を模倣したゴーレムです』
「魔物の……模倣?」
急いで調べてみると、確かに体の内側が生物のそれじゃない。
血肉も骨もない、無機物の集合体。よくよく観察してみれば、体中を覆う体毛すら人工物のような質感だった。
「魔物を模倣したゴーレム。それがどうして?」
『対象の情報領域に侵入――サルベージ。このゴーレムは何者かの命令に従って動いていたようです』
「命令ってのは?」
『ターゲットの抹殺。対象はパイロット、あなたです』
「誰かが俺を殺そうとした、ってことか……なるほど、じゃあ今頃は地上でほくそ笑んでる訳だ、そのクソ野郎は」
たしかに人を殺すならダンジョンの中だ。
人に見られる可能性が少ないし、死体は魔物が喰うから証拠も残らない。
冒険者がダンジョンで死ぬなんてことは日常茶飯事だ。
誰が死んでも怪しまれることはないって訳だ。
まったく、冗談じゃない。
『パイロットに心当たりは?』
「まったく。人に恨まれるような真似はしたことない、はずだ」
『煮え切りませんね』
「人に嫌われるなんて事故みたいなもんだからな。起こる時には起こるし回避不可だ。全人類に好かれるなんて聖人でも無理な芸当なんだ。知らない所で死ぬほど恨まれてても可笑しくない」
何気ない一言、無意識的な所作で人の恨みを買った。
それが殺人にまで発展する例は多くないはずだけど、運が悪かったと思うほかないか。
「まぁ、犯人捜しは地上に戻ってからだ。まずは残骸を探すとしようぜ」
『了解。指定対象をフォーカス。表示します』
左側の視界に浮かび上がる光の輪郭とそこへ至る道しるべ。
輪郭の形から察するにあれがゴーレムスーツなのだろう。
障害物を透過して見えるのは便利な反面、壁にぶつかりそうになるから慎重に歩く。
あの魔物に化けたゴーレムが暴れ散らかし、叫び散らかしたからか、周囲に敵影はなし。
あれより弱い魔物はみんな逃げたようだ。
「あったぞ、この下だ」
右手で瓦礫を掴んで退かすと発泡スチロールのように飛んでいく。
砕け散ったそれを思わず二度見してしまった。
「力加減を考えないとな」
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