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2/12

2 装着


 明滅するそれに羽虫のように引き寄せられる。

 蒼白い光に照らされて微かに周囲の輪郭がこの目でも捉えられた。

 一つの空間になっているようで、地上と同様に割れた窓がいくつもついている。。

 その奥に蒼白い何かはある。

 辺りは暗闇ばかりで目印はなにもなく、どこの方角に向かっているかもわからない。

 今はとにかく光源がほしい。

 逃げ場がなくなるとわかっていながら、光源ほしさに空間へと踏み入る。

 ゆっくりと近づき、間近に迫ってようやくそれがなんなのかはっきりとした。


「これは……ゴーレム、なのか?」


 それは半壊した人型のゴーレムだった。

 制作者の意のままに動く、機械仕掛けの魔導人形。

 蒼白い光はこのゴーレムの胸部にあるリアクターから発せられていたものだった。


「外装だけで中身がない」


 壊れた左半身から中を覗き込むも、空洞が広がっている。

 顔に当たる部分も右半分が駆けてしまっていた。

 これじゃまるで鎧だ。


『■■■■■■』

「うわっ」


 不意に響いた声に思わず後退る。


『■■■■■■■■■』


 聞き覚えのない言語で、なにを言っているのかはわからない。


『■■■■■■』


 再び音声が響くと、今度はリアクターから光が照射される。

 頭の先から爪先まで蒼白い光を浴びせられると途切れた。


『■■■■』

「なんなんだよ、一体」


 この不可解なゴーレムに気を取られていると、唐突に魔物の怒号が轟いてくる。

 すぐに物陰に身を隠すと、今いる空間の側に地鳴りのような足音が響く。

 地面に散らばっている鏡の破片を手に取り、そっと物陰から伸ばして見る。

 鏡面を介して様子を窺うと空間の向こうに奴がいた。

 地下深くまで落とした獲物が死体になっていない、どこへ行った。そんなセリフが聞こえて来そうなほど、奴は必死に周囲を見渡している。


「――そうだ、明かりがッ」


 リアクターの蒼白い光を気取られないように覆い隠そうと両手を伸ばす。

 手の平が触れた、その刹那。

 四肢が、胴体が、獣の皮を剥ぐように割れた。


「なぁッ!?」


 あまりのことにバランスを崩し、ゴーレムの内部で背中を打つ。


『■■■■■■■■■■』


 瞬間、ゴーレムは自らを閉じて俺を閉じ込めた。


「嘘だろ、おい!」


 隙間無く埋められ、自由が利くのは壊れて無い左半身のみ。

 全身がゴーレムに包まれると、今度は暗闇に光が宿る。

 目の前が、視界の左側が闇に溶けた輪郭を捉え、周囲の様子を鮮明に描く。

 その先にいる巨躯の魔物の表情すら正確に。


「入ってくる!」


 出入り口などお構いなし、壁を突き破って侵入してきた巨躯の魔物。

 豪腕で障害物を弾き飛ばし、天井スレスレまで高く掲げた拳が降り注ぐ。

 俺に出来たことと言えば、愚かにも両手で受け止めようとしたくらい。

 瞬間、凄まじい衝撃が全身を貫いて粉々にする――はずだった。


「な、に……?」


 叩き付けられた拳は、一メートルを優に越え、人を掴めるほど大きい。

 そんな鈍器をダンジョンの地面を割るほどの威力で繰り出された。

 それはたしかに事実だったのに、この身は――このゴーレムは、それを片腕で受け止め切っていた。

 生身の左腕など添え物に過ぎない。


「どうなって――いや」


 瞬時に思考を切り替え、この怪力を生き残るために使うことを選ぶ。

 受け止めた拳を払い退け、地面を蹴って跳ぶ。

 直後、経験したことのない速度で体が前進し、魔物の胴にタックルを見舞う。

 その衝撃は巨躯を大きく後退させ、魔物の顔を苦痛に歪めるほど。

 痛みが怒りに変わり、魔物の両腕が瓦礫を掴む。

 握り潰され、投げつけられるのは礫の散弾。

 それら一つ一つを左側の視界はすべて読み取り、軌道を予測し、辿るべきルートを導き出す。


「やってやるッ!」


 記された軌跡をなぞるように体を動かし、礫の弾幕を紙一重で避ける。

 頬や肩に礫が掠め、最後の一つを右腕で振り払う。

 礫の弾幕を越えて跳躍、同時に突き出した蹴りが魔物の胴体を貫く。

 着地を決めると、風穴の開いた魔物が力なく背後で倒れた。


「勝った……マジか」


 落下の衝撃でまともに戦えるようなコンディションじゃなかったのに。

 このゴーレムの怪力とサポートだけで勝っちまった。


「なんなんだ、このゴーレムは」

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