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12 深層


 魔物の雄叫びがどこからともなく反響してくる暗闇のダンジョン。

 かつて足下を崩されて落下した巨大な穴から深層に降り立ち、背中の飛行ユニットが停止する。周囲に魔物がいないことを確認してから、抱えていたルリを地面に下ろした。


「ついたー! ここが深層なんだ! 暗くてなんにも見えないけど!」

『証明を設置します』


 ゴーレムスーツの装甲が一部剥がれ、宙を舞うと照明となって辺りを照らす。


「わー! こんなこともできるんだ!」


 ヘルメットを介した視界に照明は必要ないので、ほぼルリ専用と言っていい。

 ルリが動くたびにそれを感知して照明が動き、それが面白いのか周りをぴょんぴょん跳ねている。

 ここが危険な深層だってこと、忘れてないか?


「ルリ、集中」

「えへへ、ごめんごめん。ここでゴーレムスーツが作られたんだーって思うと舞い上がっちゃって」

「まぁ、ダンジョンが古代の兵器開発施設だったってのには俺も驚いたけど」


 何らかの建築物の成れの果てだとは薄々感づいていた。

 遺物が沢山あるんだ、それはかつてここで人の営みがあったということ。

 でも、具体的な想像ができるほど原形を留めてはいないし、俺はルリと違ってさほどの興味もなかった。

 ゴーレムスーツに搭載されたAIから話を聞く前までは。


「ここじゃゴーレムスーツが製造されてたんだよな」

『はい。それだけでなくあらゆる付属品や強化パーツ、ゴーレムスーツとは全く別の兵器まで種類は多岐に渡ります』

「じゃあじゃあ、ここを探せばゴーレムスーツをもっと強化できるってこと? わー! 私ゴーレムスーツのフル装備みたーい!」

「探さなくても設計図があるんだろ?」

『情報領域からサルベージできた設計図は今現在、飛行ユニットのみです。更なるサルベージには時間を要します』

「サルベージってのが早いか、現物を手に入れるのが早いか、ってところか」

「だったら待つより行動したほうがいいよね! よーし! 強化パーツ探し、私も頑張るぞ-! おー!」


 ゴーレムスーツの強化は、実際のところ急務だ。

 魔物を模したゴーレムを返り討ちにしたほぼ全ての冒険者がダンジョンで命を落としている。

 偶然として処理するには重なりすぎている。

 いずれ俺の身にも何かが起こるかも知れない。

 そうなった時に備えてゴーレムスーツを少しでも強くしておかないと。


「でも、それは後回しだ。まずは俺が壊したゴーレムを調べないと」

「あ、そっか。そうだった、えへへ。忘れてたー」


 そんな話をしている間に、目的地が見えてくる。

 俺を深層に落とした巨躯の魔物、その皮を被ったゴーレム。

 血肉も骨もないその亡骸は、ほかの魔物に食い荒らされることなくその場に残っていた。

 ただそれでも多少は突かれたのか、噛み千切られた人工の毛皮が散らばっている。


「これだよね。わぁ、こうしてちゃんと見ないと本当にゴーレムだってわからないんだね」

「ダンジョンは特に暗いからな。あの時、正体を見極めるのは不可能だったろうな」


 今となっては心許ない板の明かりだけで見破るのは土台無理な話だ。


「なにかわかるか?」

『指定対象をスキャン中、完了まで少々お待ちください』

「だってさ。ちょっと休憩」

「待ってる間、ちょっと周りを見てきてもいい?」

「ダメ」

「あーん」


 じっとしているのが苦手なのは知ってるけど、流石にダンジョンの深層を散歩気分で歩かれちゃこっちの気が休まらない。まぁ、それができるくらい実力があるのはたしかだけど、流石に許可はできない。


「魔物の気配は……まだないな」

『スキャン完了、分析結果を表示しますか?』

「あぁ――いや、ルリにも聞こえるように音声で頼む」

『了解』

「ありがとー!」

「じゃあ、そうだな。このゴーレムが作られたのはいつだ?」

『構成材質、経年劣化、間接部の摩耗、用いられた技術など、あらゆる項目から計算した結果、長くとも過去五年の間に製造された物と思われます』

「ってことは、このゴーレムは遺物じゃないんだ」

「他の遺物を参考にして作ったってところか」

『情報領域に存在する一部兵器に用いられた技術と類似点が見受けられます』

「それにしたって精巧な作りしてるけどな」


 過去と現在では、明らかに現在のほうが技術的に遅れている。

 だから遺物の解明は進まないし、発掘されたゴーレムの性能に追い付けない。

 このゴーレムスーツと管理AIもそうだ。

 そんな中でも技術者の意地なのか、この魔物を模したゴーレムは完成度が高い。

 いや、再現度と言ったほうが良いかも知れない。

 魔物という意味でも、古代ゴーレムという意味でも。


「でも、このゴーレムが最近作られたものなら、作った奴はなんで赤の他人に託したんだ? 好きに使えって」

「うーん、テストしたかった、とか!」

「テスト? 性能テストってことか。でも、それならダンジョンに放てば魔物相手に幾らでも――まさか対人戦を想定して――」


 開発したゴーレムを人間と戦わせたかった?

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