約束の人 ※視点変更
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自分が魔法使いであってよかったと思ったことは人生において何度かある。
この国が魔法使いの作った国で尊敬されるから、ではない。
もっと打算に満ちた感情で魔法使いでよかったと思ったことが何度かある。
一番幸運だったのはお嬢様を見つけることができた事。お嬢様の隠された能力に気が付けた事。
彼女の両親もそれから結婚相手も、魔法は一切使えない。
だから、彼女の力に何も気が付いていないのだ。
あれだけ伯爵家との結婚が周りから祝福されたのは、そのほとんどがお嬢様の力によるところなのにそのことに気が付かない。
本当はお嬢様なりそのご両親なりに伝えるべきなのだろうけれど、俺はそれをしていない。
それを伝えてしまうと、お嬢様はもっとずっと高い値付けのされるところに送られてしまうだろう。
それでは俺は手が出せなくなってしまう。
本当は結婚なんてして欲しくは無かった。
自分の魔法使いとしての才能が見いだされて、教会に所属したのだって、そうすれば貴族になれる可能性が高まるからだ。
魔導伯という爵位を賜って、貴族たちの間で影響力を増して、そうすればお嬢様を希えるのではと思っていた。
実際に力をつけたし、実績も上げた。
公爵家との親交もできたし、王家への覚えもめでたい。自分で言ってるのはちゃんちゃらおかしいけれど、あともう少しのところでお嬢様は伯爵家のものになってしまった。
勿論子爵様には直談判した。
けれど「仕方がないだろう。君は平民なんだから」と返されるだけだった。
悔しくて、悔しくて……、お嬢様の結婚式には出席していない。
まともな顔でその景色を見れるとは思わなかったから。
その結婚式が質素を通り越した酷いもので、その後も扱いがぞんざいだという話は知っていた。
噂として流れていたからだ。
それを裏付けられる様な態度と状態が貴族たちの参加する夜会でも目撃されているらしい。
なぜ、そんな人間とと思った。
だから、その時から準備をし始めていた。
全ては今日のために。
彼女に何があったのかは、彼女を通して覗かせてもらった。
もう今はほとんど誰も使えない魔法だが公爵家の始祖が得意としていた魔法がある。
人の記憶を覗くというあまり気分のいいものではないそれで覗き見たそれは、彼女の顔がやつれていたからという言い訳を吹き飛ばすような酷いものが見えた。
なんで、この人は諦めてしまっているのだと思った。
初めて俺が出会った頃のこの人は、こんな風に諦める様な人じゃなかった。
それが悔しくて、それでこの状況からこの人を救い出したくて、それから今でもこの人がとても好きだと思った。
「この件、少しばかり私にお任せ願えませんか?」と聞いたらお嬢様は頷いてくださった。
であれば、全てを彼女の幸せのためにつぎ込みたい。
早速、決まっていた魔導伯の叙爵を急いでもらうように王宮に一報を入れ、知己と呼んでもいいだろう公爵家へと向かった。
余りにも慌てていた所為で、自分の記憶を守る処置を忘れて公爵にお嬢様の記憶をほんの少しばかり見られてしまったことには腹が立つが「ようやく、腹をくくれたかい?」と言われて思わず、そんな風に見られていたのかと思った。
「腹はくくった。
俺は彼女を取り戻すよ」
友人に笑みを浮かべると「じゃあ僕に手を貸さないとね」と言って笑った。
それからは早かった。
魔導伯を与えるという布告はすぐに王家より出されて、子爵家へ向かうと恐縮したようにお嬢様の父親である子爵が応対してくれた。
彼としても思う事はあったのだろうと信じたいが、概ね俺の思った通りにしてもらっていいという許可が取れた。
実際、援助と言う名の投資のリターンがあまりにもしょっぱい結果だったのも大いに影響してるのだろう。
魔導伯として与えられた領地の共同開発の件お忘れなきようと帰り際何度も声をかけられたのは多分そういう事なのだろう。
別にそれならそれでいい。
俺が欲しいと願っているのは彼女だけなのだから。