義理姉という人
「で、今度はそのかわいそうなお姉さまのために何をしたいのですか?」
しばらくという期間はとうに過ぎ、彼女が伯爵家に戻ってからもう2年が経つ。
友好の印として、私の実家からの援助はまだ続いている。
それでも、この家の財政状況がよくなったという話は聞かない。
それだけあの人がお金を使っているという事だ。
「最近エリザがふさぎ込んでいて、それでパーティーをして気晴らしがしたいと言うんだ」
彼女はあまりよそのパーティーには呼ばれない。
当たり前だ。
貴族としての利益が無い。
伯爵家と縁を結びたいのなら彼女ではなく、オリヴァーか私を招待する。
彼女に伯爵家の実権は何もない。
呼んでも意味のない人間だ。
だから、彼女がパーティーに参加したいなら我が家がパーティーをひらくしかない。
「再婚相手を探すのですか?」
私がそう言うと「本当に君は冷たい人間だな。早くエリザに出ていけとでも言いたいのか?」とオリヴァーが言った。
別にそういう意味ではなかったが、もうそういう意味で言ったのでもよかった。
貴族には貴族の義務というものがある。
それで私も結婚したのだ。
その義務が無ければ結婚していない。
結婚位好きにすればいい。
そう言えない立場なのがこの人には分かっていないのだろうか。
「兎に角、パーティーは必ず開催する。これは家長命令だ」
オリヴァーはそう言った。
私は「分かりました」と言うしかなかった。
* * *
ぱしん。
渇いた音があたりに響いた。
義姉であるエリザが私の頬を叩いた音だ。
私には叩かれた理由に心当たりはなかった。
けれど、憎々し気にこちらを見つめる義姉にはあるのだろう。
「酷いですわ!!」
叩かれた私ではなく、叩いた義姉がそう言う。
「何がですか?」
頬に手を当てながら聞く。
そこはすでに腫れているらしく熱を持っている。
「どうした?」
メイドの誰かが知らせに行ったのだろう。
オリヴァーが部屋に入ってきた。
私の頬に視線が一瞬向いたがすぐに反らされたのが分かった。
「大丈夫か?」
彼がそう聞いたのは私ではなく、義姉のエリザだった。
彼女は弟であるオリヴァーにしなだれかかる様にしてから「あの人が私に嫌がらせをするんです」と言って、泣くような真似をした。
別に、涙が出ていないので泣きまねだと直ぐにわかってしまったのに、オリヴァーは気が付かないようだった。
「本当か」
疑問を投げかけるというよりも、同調するような言い方だった。
二人そろっている時にはもう少し妻である私を尊重するのかと思ったけれどそんな事は無かったらしい。