第5話
第5話
本音ダダ漏れの配慮にならない配慮でモヤモヤしたまま冒険者ギルドへ到着。
周囲より年季があり重厚なこの建物、頑丈そうな大木と石材で構築され酒場を兼ねた異世界のハローワーク、ギルド。
憧れの冒険者ギルドだったけどコミュ障のボクでは手続きにモタつき、見かねたメアリスが世話を焼いてくれた。
「え~と、メアリス様とナオ様ですね。まずはこちらで他の皆様と適正試験を受けてもらいます」
飲食をする冒険者グループから冷やかしや好奇の視線を向けられながら受付のお姉さんのあとに続く。
「結構いるのね」
ボク達が案内された簡素な待機スペースには10人くらいが登録待ちをしていた。
「はい。ここ数年でなぜか『今までには無い』トラブルが多いもので」
「そのトラブルの元凶を排出していては本末転倒だけどね」
真実を知らない受付嬢はメアリスの言葉に首をかしげる。
「君達も冒険者試験を受けるのかい?」
不安と期待でいっぱいいっぱいでオロオロしていると、背後から声をかけられた。
振り返れば、兜を小脇に抱えた十代後半であろう爽やかイケメンが「やぁ」と手で挨拶している。
輝く白銀をベースに、綺麗なスカイブルーで縁取られた鎧を纏った姿は、THE勇者って貫禄だ。
「馴れ馴れしいわね。殺すわよ」
「ちょ、メアリス! 尖りすぎ!」
彼がボクの二の舞にならぬよう、メアリスを引き離す。
「誰彼かまわずケンカ吹っかけるのは止めてくださいよ」
「ナオっ、放しなさい! 殺すわよ」
人間態になっているメアリスは、ボクでもなんとか拘束できるみたいだ。
「ボク気になってるんですけど、ちょいちょい語尾みたいに『殺すわよ』って言うの、キャラ付けみたいでイタイです」
もともと十分イタイのにお腹いっぱいだ。
「ナオのくせにうるさいわね! いいのよ、全方位でデレのない即キレるヒロインって設定なんだから!」
わかった上で攻める超インファイター女神だった。
「ゴメンゴメン。これも何かの縁かと思って声を掛けたんだ」
爽やかイケメンが謝罪する。
「まぁ確かにある意味、エンっちゃ縁ね。ナオ、こいつマケビトよ」
「そうなの? この世界の住人に見えるけど」
目の前のイケメンはポカンとしている。もしそうだとしたら、すごくこの世界に溶け込んでいると思った。
「ナオと違って最近の子はニートもピンキリだから、年齢はもちろんビジュアルもコミュ力も高いのよ」
「なんてことだ、ボクのアイデンティが危ういじゃないですか! さっそく殺しましょう」
「落ち着きなさい! ナオが混乱してどうすんのよ、もともとアンタの立場なんてないのに」
抉ってきますなぁ。
「彼らと同じ土俵に立つにしては行き過ぎた『容姿』を与えたんだから、私に感謝することね」
メアリスの言う通り、くたびれたオッサンに若い爽やかイケメンは荷が重過ぎる。
「残念ニートへの配慮に感謝するよ。で、このポカンとしてる彼にどう『おみまい』するのさ?」
ボクらのやりとりをおとなしく聞いていたイケメンに向き直す。
「ん? なんのことだい?」
爽やかイケメンがにこやかに口をひらく。
「ナオ、御覧なさい。間近で聞いていたにもかかわらずこの難聴ぷり」
状況は違うけど、人生で女の子を前に一度は言ってみたいセリフ『ん、何か言ったか?』もらいました。
「そこのイケメン野郎。ニゲート歴は何年?」
「ニゲートを知ってるって事は君達も同郷かぁ。オレは篠田、コッチへ来て三ヶ月」
話しを聞くと、篠田君の事情は少し特殊なようだった。
毒親から逃げたいと願った彼の前にニゲートが出現し、少し前までは山奥で剣と魔法の師匠のもとで修行していたとのこと。
「晴れて免許皆伝、冒険者になって師匠達の技術を活かそうと思ったんだ」
「なんかすごく良い子じゃないですかぁ」
「バカなのナオ? 三ヶ月よ? 合宿免許の詰め込みだって二週間くらいかかるってのに」
剣技と魔法を自動車と同列に扱う方が……いや、やめておこう。
次回更新は6/5前後の予定です。