第4話
第4話
「ナオはともかく、さすがにこの姿じゃ目立つわね」
2000年前後の創作世界におけるオリキャラの流行を最大公約数で体現した容姿のメアリス。
「なんか、こう過去の自分に説教したくなりますもんね」
顔を覆ってゴロゴロしたくなりますもん。
「私と契約しててもナオに影響出ちゃうんだ。この能力」
「へ? 能力って?」
「あぁ、先に言っておくわね。 ナオが私のチート能力を使う時は『ナオが』この姿になるのよ?」
「ボクがその姿に……」
罰ゲームがすぎる!
「ミレニアムブラックヒストリー(2000年代の黒歴史)は手に負えないマケビトに精神的大ダメージを与えるのよ」
「能力もそうですけど、そんなネーミングなんですか?」
期待に満ちた冒険像が音をたてて崩れていく。
「いわゆる『その時がくると本来の銀髪ロングヘアでオッドアイ、溢れた魔力が羽を形成し、いろんな意味で見る者が直視できない姿となる』のよ?」
それを貴女が言っちゃうんですね。
「何ですか『その時』って! おっかねぇ……」
「自分で言うのもなんだケド、痛々しいわよ~」
もともとの美少女を悪い方へ盛っちゃってますからねぇ。
「そんな訳で、えいっ!」
メアリスが指をパチンとやると、光の粒子が僕たちを包む。
「あ、メアリスの姿が変わった!?」
土台の美少女要素はそのままに、羽やオッドアイをやめただけで今風な感じに仕上がっている。
「ずいぶん攻めた衣装にしましたね」
冒険者としては軽装で、健康的な脚も露な『映える』ちょいエロ姫騎士コスって印象だ。
「ナオもお揃いだよ」
「えっ! ホントだ、なにしてくれてんですかっ!?」
初めて履くミニスカートに困惑する。
「すみません、下半身の防御力に不安があります」
ちょっと動いただけでもパンツが見えてしまうんじゃないだろうか。
「大丈夫、大丈夫。自惚れないで? 誰もアンタの下着なんか興味ないから安心して」
暴力的な気遣い! 気遣っているかも怪しいけど。
「肌から直接魔力を取り入れる仕様だから。なんならマッパの方が効率いいのよ? 言わせんな」
それはもう痴女というのでは……
「そんな事より冒険者登録! ほら、お待ちかねのギルドへ向かうわよ」
「そんな事で片付けられても困るんだけどなぁ」
ここは色々と折り合いつけないと恥ずかしさで心が押し潰されそうだ。気持ちを切り替えていこう。
「冒険者ギルドはどこにあるんですか?」
「そこに見える城郭都市の中よ」
メアリスの指先を追って、外壁で囲まれ大きな六角形を形作っている目的地を見下ろす。
改めて眺めるその全貌は、スマートなフォルムながら威厳を感じる城を中心に、大小様ざまな石造りの建造物が連なる。
「おのぼりナオさんのために異世界観光がてら歩いて行きましょうかね」
ギルドまでの道中、彼女が管理する世界『アルカノアイランディア』の現状を軽くレクチャーしてもらった。
「……ま、要するにマケビト達が送られてからこっち、私ひとりのワンオペじゃ世界のバランス修正が追いつかないワケよ」
ここ数年で人口とともに爆発的に増えたマケビト問題。
「私のストレス解消を兼ねてナオにも苦労させてやろうってね」
「不安しかないんですけど……」
大自然の中を歩くこと小一時間。
これといった魔物や盗賊に会うこともなく、石畳が敷かれた城門へ続く道へ出た。
馬車などの轍が幾重も残り、踏み固められていて歩きやすい。
「ちょっと期待してたんですが、魔物との戦闘とかいっさい無かったですね」
「周辺の魔物は頼みもしないのにマケビトが狩り尽くしちゃったわよ。おかげで生態系が崩れて大変だったんだから!」
苦労を思い出したのか、メアリスは途中から晴天を仰ぎ見て行き場の無い恨み言を大空へぶちまける。
「ギルドのクエスト依頼とかで平和になったんじゃないんですね」
増えすぎた害獣問題だろうか。魔物で数を抑えていたのかな。
「ナオの初仕事は冒険者登録の見直しにするわっ!」
「するわっ! って言われましても。冒険者にすらなっていないボクにギルド経営をどうこうする技量なんてありませんよ?」
なにより社会人経験の無かったオッサンには荷が重過ぎる。
「そこはハナから期待してないわ、安心して? ナオは私の指示通り動いてくれればいいから。今までニートだった奴が何かできるなんて思い上がってるなら殺すわよ?」
それはそれで安心していいのか複雑な心境だ。
「初めての異世界で無自覚に思い上がっていました、すみません」
「わかればいいのよ。言い過ぎたわね、謝るわ」
優しい笑顔で頭をポンポンされるボク。
「こういうのはアメと鞭のバランスが大切よね」
本音ダダ漏れ!
次回更新は5/20前後の予定です。