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第1話

第1話

 ある時、異世界への扉が開いた。

 その条件。

 引き籠もりのまま30歳まで童貞を貫き、さらに30歳以降もニートを続けているとその扉は現れると言う。

 ただし、極限まで困り果てた親の前にだが。

 各地に発現する扉と、シンクロニシティ的にそれを使いこなす親達。


「あんた、日頃から異世界なら真人間になれるって豪語してるじゃないの、もう母さん面倒みきれないわ」


 おおよそこんな感じで扉の向こうへ放り出される大量のニート達。

 どこへ通じているのかも分からないその扉は、成人をとっくに過ぎても何もしない穀潰しに疲労困憊の親から『Negletc Gate』――――ニゲートと呼ばれ、とても重宝された。

 親子逆転した現代の姥捨て山と化したニゲートの先。そこが天国か地獄か、送られたニート本人しか知る術はない。

 ニゲート発生から数十年。プロのダメ人間がニゲートを潜り、一人佇んでいた。


「――それがこのボク『内藤七綸ないとう なお』だ」


 不安から現状整理をラノベチックなモノローグで気を紛らわしてみたけど、360度どこを見回しても真っ白の空間は、いままでの人生同様不安でしかない。


「本当にラノベでありそうな『真っ白な空間』なんだな……」


 さっきも言った通り、ボクは『プロのダメ人間』だ。

 ニゲートが社会現象になってからこっち、就職もせず憧れの異世界での活躍を見据えて下準備を続けてきた。

 毎日かかさず異世界アニメを鑑賞し、ラノベを読みまくり、日がな一日ファンタジーゲーム三昧。


「ふふっ、異世界のデータは十分得たからな。最悪チート能力を貰えなくても、現代知識でマヨネーズや調味料を作ってチヤホヤされるんだ」


 異世界の定番であるチート能力。あまたのラノベを読んだけど『ぼくのかんがえたさいきょうののうりょく』は未だ答えが出ていない。


「まーた『まよねーず』か!」


 突然、ボク好みのアニメ声が頭に響く。


「アンタの後ろよ、このマケビトが」


 振り向いた先に仁王立つ、口の悪いアニメ声の主は。


「なっ、え? ウソでしょ……」


 一言で表すと『残念カワイイ女神』って感じ。

 どこが残念って、見た目の美少女感を相殺するほどの「銀髪ロング」「オッドアイ」「女神風ドレスに羽」装備ですもの。


「ちょっ、今時かっ! いや、悪い意味でね!?」


 レトロファッション(マイルド表現)とでも言うのだろうか。

 ボクは今、太古に流行ったステレオタイプなキャラクターを目の当たりにしているのだと思う。


「失礼なマケビトね。そうよ、女神なのに今時こんな姿なのよ! やってられないわ」


 ボクより一回り下くらいだろうか、二十歳前後に見える自称女神さまはプクリと頬を膨らます。


「貴女はいったい? 『マケビト』ってボクのことですか?」


 ボクのダメ知識から察するにこの世界の神様なのだろう。


「アンタの想像通り、私はココの世界の女神さまよ! 『マケビト』ってのはアンタ達みたいにニゲートへ放り込まれるクズの総称」

「そんな『マレビト』みたいに……」


 でも、怖いくらい異世界モノのセオリーに沿って進んでいるなぁ。


「そうそう、アンタが言ってた『まよねーず』ね。アレ、すっごい被害出てるから」

「え? どういう事ですか」

「アレに限らずソッチの世界から持ち込んだ色んなモノがこっちの世界で問題になってるのよ。飯テロとはよく言ったものだわ、まったく」


 もしかしてボク、スタート地点で詰んでる? 


「最近は減ってるけど、調味料無双は諦めることね。問題山積みでウンザリなのよ!」

「じゃあ後は魔王退治かぁ」

「ハァ!? なんでアンタ達ってそんな頭ハッピーセットなの? マンガ脳すぎて尊敬するわ。いや、誉めてんじゃないわよ?」


 いつの間に現れたのか、豪奢なエマニエルチックな椅子に腰掛け、美少女からは絶対出ない、くたびれた長く深い溜め息を吐き、サラサラの銀髪を掻き毟る。


「で、アンタ。わざとコッチの世界に来たでしょ」

「わざとって言うか、異世界で活躍するために勉強がんばってこの狭き門を潜りましたけど」

「狙ってニートになってんじゃないわよ!」


 スパン! と、これまたどこから出したのか、女神ハリセンでキレイな一撃を脳天にもらう。


「働きもせずっ! アニメ観てっ! マンガ読んでっ! 半日以上ゲームするのは勉強とはいいませんっ!」


 なおも手首の返し鋭くハリセンの嵐。


「大学受験みたいに『狭き門』とか言ってるけど、ニゲート出したのアンタじゃないからね? 困り果てたご両親だから! あぁ、送り出した時の極上の笑顔も納得だわ、ニゲート利用者で私の知る限り過去イチの笑顔だったもの」

「でも異世界で活躍するならエンタメジャンルが最適だと……」

「ちょっとオシャレな感じで言ってんじゃないわよ、クズが! で、あながちその『エンタメジャンル』がこっちの世界とニアピンなのが余計腹立つ」


 椅子の上で胡坐をかき、姿勢悪く魅惑の太ももに片肘をついた彼女は、90度に曲げた手のひらに小さな顎を乗せて忌々しくボクを睨む。

 結果としてボクの勉強方法は間違ってなかったのかな。


「もう前の世界の事はいいじゃないですか。ボクはこっちの世界で大活躍したいんです」


 色々な思いがこもり過ぎて言語化できなかったのか『くきぃーっ』と、おおよそ女神とは思えない奇声をあげボクめがけて椅子から飛び上がる彼女。


「もう限界だわ」


 その呟きを最後にボクへ馬乗り、マウント状態からハリセンの比にならない威力のグーパンラッシュを意識がなくなるまでもらった。


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