[短編]変わったアイツ
初の短編です。
お題ボックスで「朝日」「傘」「バトル」で描きました
「ええ?」
学校に行こうと、声を掛けたところで母に呼び止められ傘を差し出される。
今日は、どうやら雨が降るらしい。
しかし、空を見れば、雲ひとつもない晴天だ。こんな日になんで傘なんか持って歩かないといけないのか。
「嫌だよ。折り畳みの傘無いの?」
そういうと母はムッとした顔をして、あんたがこの前壊しちゃったんでしょ、とそう言った。
そういえば、そうだった。あれは1週間前のことだ。
◇◇◇
その日も昼から雨が振るということで、折り畳みの傘を持たされ、家を出た。
でも、学校に行く途中の公園で、アイツが居たのだ。最近、引っ越してきた変わりもんだ。
なんでも都会の方から、親の仕事で転校してきたらしい。
転校生なんて珍しいものがやってきて、みんな興味津々だったが物静かな奴で、何を聞いても、「うん」「いや」「別に」とあまり色好い返事が無くて、その内、遠巻きに眺められるようになっていたはずだ。学校に行く途中だというのに、アイツは木の下で、葉っぱだけになった桜の木を見上げて、立っていた。
(アイツ、なにしてんだ?)
正直言うと、まだ話をしたことがあるわけじゃない、どんな奴なのかもまだよく分かっていないのだ。俺は黙って、そいつの横を通り過ぎようとした。
「おい、ちょっと待ってよ」
呼び止められた、知り合いでもなんでもないが、同じクラスでお互いに顔を知っている程度だ、でも声を掛けれ、無視するような間柄でもない。
でも、自分から積極的に声を掛けるタイプでもなかったはずだが、一体どうしたのだろうか。
「おう、おはよう!どうした?」
ちょっとらしくは無いが、少し明るい声で応える。
アイツは、こっち見て、睨むように聞いてくる。
「アンタもなの?」
風が吹く、ジットリとし始めた季節に、それを心地良くも感じられた。
奴からでた、唐突の問いかけは、何を言ってるのかはわからなかった。
なんのこと?と聞き返すと、アイツはわざとらしく、クククと笑うと。
「すっとぼけたって、そうはいかないよ」
そういうと、後ろ手に隠すようにして持っていたそれをカカッと伸ばすと同時に殴りかかってきた。
俺は驚き、仰け反るように一歩下がる。
「ほらぁ~、やっぱり・・・躱した」
アイツは、手にした黒く細長いものをユラリとさせながら、ニタリと笑った。
ワンタッチ折りたたみ傘!! !!
俺は、カバンにぶら下がった、袋から傘を引き抜き起動ボタンを押すと、シャキッと小気味のいい音を立てた。
「へぇ、なかなかのもんだ・・・こんな田舎で、それを持っている奴に会えるとは・・・ね!」
鋭い突きだった、体のバネと傘のバネの力が上手く合わさり、それは回避しがたい一撃となって、俺を襲う。
「く!!!」
重い・・・!迷いの無い一突き、こいつは本気だ!
「ほら!ほらほらほら!まだ、終わりじゃないよ!!」
なに!?連続だと!? !?
ワンタッチ式の傘は開く所までのはずだが、奴の傘は戻る時もワンタッチなのか!
噂には聞いたことがあった、開く時だけではなく、閉じる時もワンタッチで仕舞えるタイプの傘が存在すると!
くっ、仕方ない、頭を切り替え、傘を逆手に持ち替える、傘が広がる方を手にすることで、重心が代わり、取り回しを上げ、突きを捌くことに専念する。
「逆手持ち!・・・フフフ、やっぱり世界は広い、君みたいな使い手に会えるのだから!! !!」
狂気だった、傘での戦いに命を掛ける鬼・・・!!
このままでは負ける、そう思った時に、ピチョン、と額に雨が当たる。
「くそ!楽しくなってきたとこで・・・!! 」
そういうと、アイツは学校の方へと走り出し、10メートルほど離れたところで、振り返ると、悔しそうな顔をして叫んだ。
「この勝負は預ける!せいぜい首を洗って待っているんだな!」
そのまま、学校へ向かうと、アイツは何喰わぬ顔をして席に座っていて、なんだか狐に包まれたような不思議な感じがした。一体、今朝のあれはなんだったんだろうか。
もやもやした気持ちのまま、一日を終えると、いざ帰ろうという時、予報よりも早く降り始めていた雨は止んではおらず、今朝の戦いで傘は壊れてしまっていた。どうしたもんか、佇んでいると、アイツが「ねえ」と声を掛けてきた。
「入っていく?」
そう聞いてきた。奴の傘は、傷はあるものの、破損らしい破損はなく、問題なく使えているようだった。そんな探るような視線を感じたのか、勝ち誇ったように、「カーボン製だからね」と俺に告げた。
だから、なんなんだろうか。
そうして、家の前まで送ってくれたおかげで、濡れはしなかったが、高い折りたたみ傘を壊したことをそれはそれは怒られたのだった。
◇◇◇
「あー、そういえば、そうだっけ」
あんた、反省してないわね、とカミナリを落とされそうになったところで、慌てて、ふつうの傘を持ち、走り出す。
危うく、また怒られるところだった、と安堵していると、また例の公園で奴は、前と同じように佇み、ニタリと笑うと
「やあ、待っていた・・・ん!?」
そういうと驚愕した表情の後に信じられない、という顔をする。
体は戦慄き、信じていたものに裏切られた切なさと、憤怒の気配を感じさせながら、奴はその顔を屈辱に歪ませた。
「く!・・・卑怯だ!この卑怯者!! そこまでして勝利に執着するか!」
「一体、なんなんだよ。そのルールは」
一週間ぶりにやっと、突っ込みを入れることに成功した。
~エピローグ~
「そういやさ、転校してばっかりの時に紗月がやってたアレってなんだったの?」
「忘れて、もうぜったいに忘れて・・・」
ちょっと早い中二病だった的な?
きっとシンパシーがあったので盛り上がったのでしょう。




