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老竜は幻に揺蕩う  作者: 瀧澤流泉
プロローグ
1/9

災禍の記憶



辺りは暗い宵闇が支配する深夜へと変貌していた。だが深い夜にも関わらず彼が目指す方向は、メラメラと猛々しく炎が舞い上がっている。


男は森を抜けるべく必死に駆け抜ける。だが彼の目的地は未だに見えない、突如草むらから魔物が飛び出して来た。


「邪魔だッ!」


突如現れた魔物をものともせず、一太刀で切り伏せる。


彼は走り走り、荒れた道を全力で走る。そうして森を抜けた先には、炎に包まれた彼の第二の故郷の姿であった。


「クソッ、間に合わなかったのか!?」


炎に包まれた街を見て後悔と悲しみに囚われるが、ほんのひと握りの希望を胸に街の中へと入って行く。

街は騒然としていた。人々は魔物とそれを指揮する集団から逃げ惑い、逃げ遅れた者はいとも容易くその生命を散らす。


「どけよッ!」


男は魔物の群れに突撃し、華麗な剣技で魔物とそれを指揮する集団を屠る。

さらにさらに街の奥へと歩を進めると、そこには《ドラゴン》と呼ばれる巨大な魔物の脳天に刀を突き刺し、荒く息をしながら刀にもたれ掛かる老人がいた。


「師匠ッ!」


男は自分の剣の師である男の元へ駆けつけ必死に声をかける。


「師匠大丈夫ですよね?こんなところでくたばってちゃ《剣神》の名が傷つきますよ!」


男は息絶え絶えになりながら自分の弟子に声をかける。


「はぁ、はぁ、エル坊いいか?よく聞くんだ。こりゃあ悪魔の仕業だ。まさか眠っていた〖エンシェントドラゴン〗を引っ張り出して来るとは予想外だったが、まぁ何とか討伐は出来た。あとは街に蔓延る魔物だけだ。とっと、はぁ、はぁ........ちっ歳はとりたくないもんだな。息が上がってしょうがねぇ」


「そんなこといいですから早く治療しましょうよ!」


彼の師匠の身体は傷だらけであり、ある程度は回復したみたいだが、先程まで深い裂傷があったのだろう。右横腹にはおびただしい程の血が服にまとわりついている。


「エル坊どけッ!」


彼の師匠は弟子を力いっぱい突き飛ばし、刀の柄を即座に握り、神速の抜刀により飛んできた斬撃を切り払う。


「おや、手負いの獣と侮ってはいましたが、以外にも斬撃を捌く程度には元気がおありのようですね」


ドラゴンの死体から空間を割いて現れたるは、この世の汚濁、穢れ、不浄、様々な言い方がされるが唯一、一貫して呼ばれる名がある、その名は.....【悪魔】


「エル坊。王都に伝令を届けろ、このままじゃジリ貧だ。とっとと王都で怠けてる近衛騎士団(ロイヤルナイツ)共を連れてこい」


「それじゃ師匠はどうするんだよ!そんな満身創痍で戦えるわけないだろ!だからさ、一緒に逃げようぜ?別にここで逃げようが誰も攻めやしないよ」


今ここで全てを投げ出し、己の保身に走り出せたら、どれほど心地よいことだろう。彼の問いかけは、とても甘美な囁きだ。だがここで逃げだせば誰が街を守る?

誰が被害を食い止める?

誰が住民を守る?

誰が魔物を退治する?

そして誰がこの忌々しい悪魔を討伐する?


剣神に休みはあれど、無垢の民を見捨てる選択はない。そして今の現状にひよる己の弟子に激励を飛ばす。


「エルトリアッッ!!いいか、男にゃあ引いてはいけぬ時がある。己の命を投げ出そうが、歯ぁ食いしばらなきゃ行けないんだ。

俺はな.....元々剣神なんて呼ばれるほど御大層な存在じゃねぇ」


彼は語る、己は皆が思うほど崇高な存在では無いと。


「俺はただ.....ただ目の前でなんも出来ず、命を奪われるのが気に食わなくて剣を握っただけだ.....。はぁ、はぁ、ここで逃げりゃあ俺は俺自身を裏切ることになる。それだけはしてはならねぇ」


彼の師匠は師匠としてではなく、剣の頂きへ登りつめた《剣神》として彼に自身の信念を説く。


「本来修行が終わったら渡すモンだったがお前も充分一人前と言って問題ないだろ。これは師匠としての選別だ、くれてやる」


剣神は空間魔法の術式が施された小袋から、派手とは言わないが貧相でも無い重厚感溢れる一本の刀をエルトリアに投げ渡す。

だがそんな今宵の別れと言わんとする師匠に対し、激昂する。


「なんでそんなこと言うんだよ!師匠に一太刀入れるまで一人前じゃなかったのかよ!俺はまだ師匠に一太刀も浴びせてないぜ?最後まで俺を育ててくれよ、師匠.....」


エルトリアは力なく項垂れる。自分が我儘を言っているのは分かる、しかし、苦楽を共にした家族とも言える人物を死地に置いてゆくなど誰ができるだろうか。



エルトリアは動かない、いや動けない、師匠を置いて逃げるなど彼の中では極刑を言い渡されるのと等しい。

だが彼がここにいても何もできないのは分かりきっている。師匠の代わりに悪魔と戦う力も無ければ、共に死ぬまで戦う意志すらない、はっきり言って今のエルトリアではお荷物でしかないのだ。

ならばいっその事、王都に援軍を求めに行ってもらう方が何倍もマシなのである。


「エル坊、俺を思う気持ちがあるならとっとと援軍を呼んでこい。いいか!決して振り返るんじゃねぇッ!!どうせへなちょこのお前が振り返りでもしたら覚悟が揺らぐだろう?だからまっすぐ王都まで走り抜けるんだッ!行け、エル坊!」


「うっあっあぁ.....師匠、はぁ、今までお世話になりましたッ!だからもう一度稽古つけてください!」


嗚咽混じりに師匠に別れを告げ、止めどなく溢れる涙を拭いながら師匠から貰い受けた刀を手に、王都まで一直線に走り抜ける。


「さぁ、弟子も行ったことだし、殺ろうか悪魔、人生最後の決闘なんだ。そう易々と生きて帰れると思うなよ?」


剣神は己の愛刀を手に駆け抜ける。

こうしてアルメラン陥落事件を発端に第二次魔神戦争へと繋がり、地に住まう者達と悪魔の熾烈な戦いが始まったのであった。


to be continued.....。





次回 第ゼロ話 宿敵との別れ、安堵の別れ酒


今日の20時頃に投稿します

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