1・私の幼馴染み
こんな感じにやってていけるか…?
【美乃梨視点】
…小さい頃、私の幼馴染みの陽はいつも咳ばかりしていました。
「ねぇ、本当に大丈夫なの…?」
なんて、この言葉ももう何度目だろう。そして私が訊くたびに決まって
「大丈夫だってば、そんな心配すんなよ。」
と困ったように笑う彼を見るのも、これで何度目になるのだろう?
陽は何時も、どんなにしんどそうでも笑っていた。
そんな、いつも笑う彼を見て私は、暖かくて優しい、ひだまりのような存在だと思っていた。
…今にも、消えてなくなってしまいそうだ、とも。
誰かが彼のことを護ってくれなければ、フッと跡形もなく、いなくなってしまいそうで…私は、怖かった。
でも…周りにいる大人も、何でもできる〈もう一人の幼馴染み〉も、いつも何かに追われ続けていて、とてもじゃないけど頼めそうにない。
誰も……陽を護れる人はいないのかしら……?
(……いいえ、ここに、私がいる!私が、私が陽を護れば良いのだわ!!)
小さい頃に陽と出会ってから、気が付けば…そう思うようになっていたのです。
ーー多分その時から…もう既に、彼のことを好きになっていたのでしょう。
何をするでも彼と一緒で、いつも側にいる彼だけをみていた。
けれど『その想いが届く日は未来永劫やってはこない』。
…何が何でも想いを伝える気などないから、なのだけども。
「ーー本当に、馬鹿よね…それでも報われたいなんて。」
(……あ…!)
つい過去のことを思い出して感傷に浸っていた私は、幼馴染みーーーーー好きな人が隣にいることを忘れて、声に出して言ってしまった。
(どうしよう、絶対に今の…聞こえていた、わよね…?)
私は恐る恐る、陽の顔色を窺がった。
…しかしどうやら彼は聞こえていなかったみたいで
「?どうしたんだー美乃梨、俺の顔に何かついてるのか?」
と“いつも通り”元気そうな彼は、不思議そうに首を傾げた。
(良かったわ…聞こえてなくて。)
「いいえ…なんでもないわ。……ただ、陽が昔よりも元気になったわよねーって思っただけよ。」
そんな彼を見て、ホッと胸をなでおろした私はなんでもないように笑って返した。
「突然だな…いや、まぁ確かに今の俺は、とっても元気になっているけどさ。」
そう、彼の言う通り、私の幼馴染みーー草薙 陽は病弱ではなくなった。
昔は、私よりも背が小さくて細くて、色も凄く白くて…。泣き虫だったし、喧嘩も弱かったし、皆に女の子だって間違えられてばかり。
そんな『護られるべき存在』だった彼は今…。
…まぁ大体予想はつくだろうけど…うん。
今や背は高くなって私の身長も軽々と越しているし、筋肉もついて、肌の色も健康的な色をしているわ。
本当、体は丈夫になった。…なったのだけど……。
(それが今は…上手い具合に陽を残念にさせているのよね…。)
昔は体が弱かったから、家に結構いた彼。
出来ることも勉強か、或いは家庭科方面な事ぐらいしかなかったのよ。
だから…見た目は、それはもう見事に体育会系のソレ…なのだけど、中身がそのまま変わらずで、運動は苦手だし体力も何故か無い。
その代わりに女子力(笑)が異常なまでに高くて、一部の人からは『オカン…オカンやぁ〜〜〜ッ…!!』って言われたりしてて…。
…どうしてこうなった、としか言えないような…ね。(別にそれでも良いのだけど…ねぇ……。)
なんともまぁ、残念な感じになってしまった彼。
せ、せめて体は丈夫、だけど見た目は変わらなかった〜って感じになっていたらこんな残念…ってならなかっただろうに…。
「ーーお気の毒なことに…ッあら、つい口が。」
「おいっ!ものすごーく失礼なこと言ったなー!?」
今回のは聞こえてしまったらしく、陽はむすーーっとした顔になってしまった。
…いつものだと聞こえてなさそうなのにどうしてかしら。会話している状態だから?
「何故気付かれてしまったのかしら?もしかして…思考でも読めますの?」
(なんてね…お気の毒だなんて冗談よ?ごめんなさい、許してくれるかしら)
「なんか本音っぽい方が出てるぞ!?」
「あら…失礼、私としたことが間違ってしまいましたわ。」
「更にひどいぞ!っておいッ!?」
私は冗談を言って、そしてそれにツッコむ陽。
何てことはない普段通りの会話、いつものやり取り。
だから…彼もそろそろ来るだろう。
「…二人とも、そこまでにしておいてください…。」と。
〈もう一人の幼馴染み〉である彼ーー橘 奏斗は無表情のまま、そう言う。
ーーーーー文武両道、眉目秀麗、絶世絶美と言われる程に容姿端麗であり、どんな事であっても完璧にこなせるという、最高スペックな万能人ーーーーー【ファンクラブ等の紹介文より】
基本は無言・無表情・そして無関心。(無欲でもある。)だから他人になんと言われようがどうでもよさそうにしていて、まるで人形のような…そんな感じなのよね。
すべてが完璧な存在。
天は彼に何物も与えすぎている。
そんな彼が、言葉を発したら。
みーーーーーーーんな一斉に口を噤むわ。
なんてったって、よく透き通った、彼の誰もが皆聴き惚れるような声を、一秒でも長く聴いていたい、からなんだって。
老若男女を問わず、惚れてしまうとかなんとか…。
(まぁ、私にとっては聞き慣れた声って感じなのだけど…。)
…にしても、改めて思うのだけど…えげつないわね。
だって、教室中が黙って静かになるどころか『橘様の御声が今日も聴けるなんて…』って言って泣いてる人もいるし、いつもは賑やかな廊下の方でさえも彼の声を聴くために真剣な顔で皆黙るのよ?
もはや鶴の一声って言うより、奏斗の一声って表現した方がいいんじゃないかしら…これ。
普通にしてれば美女。しかし暴走してても美女。残念系な、暴走するポンコツンデレ美乃梨ちゃん
と、野球とかしてそうな見た目だけど、中身が完全にオカンな陽くん。
そして、何もかもが完璧で人智とか何か諸々超えてる系男子の奏斗くん。
よろしくお願いしまぁ"ぁ"ぁ"す!