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第96話 決起部隊 対 実験中隊 ── 戦闘終了 ──

 決起部隊が逃走を開始した頃、梶山少尉は中隊本部に戻っていた。

 そして田実中隊長と並んで操車場を見下ろし、列車が動き出すのを見ていた。


「軍本部に連絡致しますか」

 そう梶山少尉がたずねるのを、中隊長は走り去る列車から視線を逸らさずに言った。


「連絡は入れる。が、まあ追跡は無理だろう。連中のことだ、あれで何時までも逃げるとは思えん。近くで別の輸送手段に乗り換えるんじゃないかな」

「ですね。あれはわざと見せつけているような気がします」

「多分な」

 列車が完全に見えなくなってから、二人は車輌へと戻った。

 その道すがら、田実大尉がぽつりと言った。


「痛み分けといった所かな」

「戦いのことですか」

「ああ」

「そうですね。彼らが逃げ出すのは既定のことでしょうし、本隊への挟撃は防いだものの、目的の一方である金品強奪は完了していると見て間違いないでしょう。半々と言った所でしょうかね」


 しかし、それで上出来だと思っていた。

 何しろ、あの決起部隊と五分に渡り合ったのだから、それは誇っていい戦果の筈だった。その反面、どんな戦であろうとも、部隊に損害が発生するのは痛ましいことだった。それが二人の口を重くした。


 やがて中隊長車に戻り、無線で軍本部への報告を済ませた後は、中隊は戦闘とはまた違った忙しにまみれることになった。


 撤収は第七三軍本部の到着を待って行われるだろうが、それまでに怪我人や死体の搬送や人員の確認、火器の回収、現場の記録などの処理が数多く残されていたからだ。

 だが今は、戦闘が一段落して落ち着きを取り戻す段階であり、部隊は虚脱感に包まれていた。



 中隊の背後。

 高台に一台の側車付きの自動二輪が停車していた。

 そこにじっと中隊を見下ろす者達が居た。

 決起部隊の歩機を操縦していた佐々木と宮本の両軍曹だった。

 彼らは本隊ではなく川向こうの別働隊に派遣され、任務を終えて撤収する途中にここに立ち寄っていた。


「寺頭の親父、無事に逃げおおせたみたいだな」

 そう語ったのは宮本軍曹だった。

 彼は側車に仰向けに寝転び、足を外に投げ出して煙草を吸っていた。


「うん」

 そう答えたのは佐々木軍曹だった。


 彼はハンドルに肘をつき、同じ様に煙草をくゆらせている。

 二人はくたびれきっている。


「前に見えるのが、新型の歩機を装備する部隊か。佐々木、あれに勝てると思うか」

 宮本があごでしゃくった先には、撤収準備をする実験中隊があった。


「やって見なければ分からんと言いたいが、まあ難しい戦いになるだろうな。そう言うお前はどうなんだ。新型に勝てる自信はあるのか」


 宮本軍曹は煙を吐いて答えを保留した。

 しばらく考えた後に、「やり方次第だが、難しいのは貴様と同意見。だがその前に七式は当分配備されないだろうな。あれこれ手を廻してやっとあれだけ揃えたんだ、再入手は難しいよ」と述べた。


 七式装甲歩行機も最近では珍しくは無くなったとは言え、余っている訳でもない。それを手に入れられたのも寺図司令の人脈あってのことだった。


「そうか。そうだな、歩機は当分の間お預けか」

 佐々木軍曹はそう落胆した。

 歩機からしばらくは離れると思うと、寂しく感じられた。


「何か勘違いしていないか」

 宮本軍曹が煙とともに、その言葉を吐き出す。


「勘違いって、何が」

 佐々木軍曹が横の宮本を見た。


「俺は七式は難しいと言ったが、歩機の入手が難しいとは思ってないぞ」

「それ、どういう意味だ」

 佐々木軍曹が怪訝な顔をした。

 無理も無い。たった今、歩機の入手が難しいと言ったばかりの宮本が、それは違うと反対のことを述べたからだ。


「外国製があるだろう」

「あっ」

 その存在を忘れていた。

 先進諸外国では、歩機は高額ながら重要な輸出品目になっている。宮本軍曹はそのことを言っていた。


「奪った金がたんまりとあるんだ。俺は寺頭の親父に頼んで、外国製を導入してもらうつもりだ」


 それを聞いた佐々木軍曹の顔が明るく輝いた。

「そうか、その手があったか。よし、お前、どれにする。イギリス製かドイツ製か、それともアメリカの歩戦車か」

「よせよ、その話は戻ってから幾らでもできるさ」


 宮本軍曹は苦笑していた。そして、──歩機は俺の死装束だからな、精々贅沢をさせてもらうさ。

 そう考えていた。


「アメリカの歩戦車は二人乗りだから、俺とお前で乗るのも良いな。ドイツの重歩機にもそう言う型があるが、ただ整備が大変らしい。何でも発動機で発電機を稼動させ、その発電した電力で駆動させる方式らしい。イギリスもさまざまな型があるから、選ぶのは苦労するな。ソ連製も見てみたいが、売り出されているのかな」


 興奮した佐々木軍曹は、まだ見ぬ歩機に対する憧れや熱き想いを語り始めた。

「いいからもう行こうぜ。道すがら聞いてやるから、さっさと走り出してくれよ」

 たまりかねた宮本軍曹が発車をうながす。

 それを受けて自動二輪は走り出した。


「そのドイツの博士が試作した戦車とか歩戦車はな……」

 走り出してもなお、佐々木軍曹は発動機の爆音に負けじと大声で語り始める。

 だけど宮本軍曹は上の空だった。


 ──また生き残ったなあ。もうどうだっていいのに、あの世にいったらあいつに会えるかも知れないに。

 宮本はそればかり考えている。戦闘の最中にも、ふとそれを考えている。

 そして戦闘が終ると、死ねたら会えたかもと少し残念になる。

 そんなことをずっと繰り返している。


 自動二輪は速度を上げ、男達の想いを乗せて暗闇の中を走り去った。

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