第93話 決起部隊 対 実験中隊 ── 日野式拳銃 ──
二等兵が射撃に転じて応戦する。
その間に、梶山少尉は弾薬嚢をひっくり返して手榴弾を地面にまいた。
そして二つをわし掴むと、立て続けに二個を敵の居そうな場所めがけて投げつけた。
その爆発により敵が怯むことを期待しながら、噴進砲を手繰り寄せ、そして敵の潜んでいそうな場所に向けて発射する。
狙っている間はなかった。
とにかく立て続けにあらゆる火力で敵を攻撃する以外に、数で劣る自分達が生き残る術はなかった。
残されたのは二式短機関銃一丁と数個の手榴弾、そして日野式拳銃と残り二発の噴進砲弾だけである。
これだけが全てであり、これだけで敵を封じなければ成らなかった。
梶山少尉はもう一個手榴弾を投げつけてから拳銃を取り出し、言われたように引き金を引いてから銃を振って装弾した。
──果たして役に立つか。
彼はその特殊な機構の銃に命を預けることに不安を抱く。
何しろ一度も使ったことのない火器なのだから、それも当然だった。
梶山は敵目掛けて引き金を絞る。
一発、そしてまた一発と通常の発射には問題が無い。
そして二段式の引き金を一杯まで絞ると、今度は連射した。
銃が暴れ、激しく上下する。
──銃口が跳ね上がる。初弾以外は上にいっちまう。
やはり拳銃の連射には無理がある。それは弾をばらまく以外にあまり役に立たない代物でしかなかった。
少尉は手榴弾をつかみ、再び投擲した。
だが敵はそれを待ち構えていた。
何と、相手は空中で手榴弾を受け、つかみとる。
さらにそれを投げ返してきた。
梶山の手前に落下した手榴弾は直ちに爆発して大音響が耳を打った。
──やりやがったな。あいつは、俺が発火して直ぐに投げることを知っている。だから大胆にも投げ返しやがった。
梶山少尉は手榴弾の時限発火装置をあまり信用していない。
手榴弾を投擲する際には、安全子を抜いてから硬い物、たとえば地面の石や鉄帽で信管を叩き、時限装置が発火してから数秒後に爆発する。
だが、今回のように距離が近すぎる場合、発火後直ぐに投げると爆発までの時間が開く。そしていまのように投げ返す時間的余裕ができる。
その余裕を与えない方法はある。
まず手榴弾の時限装置を発火させてから二、三秒ほど手に持ち、それから投擲すれば敵の頭上か落下と同時に炸裂するので投げ返せなくなる。
だが、時限発火装置が不良であったり劣化していると、その僅か二、三秒の間に手の中で爆発してしまうこともある。
そんな恐ろしいことが起こる。
梶山少尉は大陸での戦闘で幾度かそんな悲惨な光景を目の当たりした。
ある兵士が投擲姿勢で振りかぶったその時、手の中で手榴弾が爆発したのだ。
もちろんその兵士は死んだ。
そんな体験がある。
したがって時限装置を信用していなかった。だから発火と同時に投げた。
だが、こんな時の対処も経験の中にある。
かつて大陸でも同じ場面に遭遇したことを思い出し、それをやろうと心に決めた。
梶山は手榴弾を発火させてから同じ敵に向けて投げた。そして拳銃を右手に持ち替えて射撃姿勢を取る。
やはり予想通りだった。
敵は手榴弾をつかもうと上半身を浮かした。
梶山少尉はそこへ銃口を向け、左手を添えて弾倉が空になるまで連射した。
手応えがあった。
弾を受けた敵兵はそこに崩れ落ち、さらに手榴弾の爆発で弾け飛んだ。
もう一人の敵は、その攻撃で逃げ腰になり、銃を乱射しながら引き返して行く。
まだ周囲には敵が潜み、銃撃を受けているとは言え、取り敢えずは危機を脱した感があった。
そして余裕が出来たことから周囲を見回し、警戒に派遣した味方二名を見て梶山少尉は舌打ちをする。
──あいつら、圧されているじゃねえか。
彼の見た所まだ二名は健在ではあった。
だがそれも時間の問題のように思える。
彼らは至近距離からの攻撃を受け、その周囲を銃弾が乱舞していたからだ。
梶山少尉は噴進砲を構え、一発をその方面の敵に向かって発射した。
横から突然砲撃されたことに敵兵は浮き足立ち、それ以上は近付かなくはなった。
だが、もう砲弾が残り一発しかないと分かれば、敵は勢いづいて攻撃するだろう。
と、その時、機関短銃の射撃音が轟く中、後方から小銃の単射音が鳴り響いた。




