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第91話 決起部隊 対 実験中隊 ── 高速徹甲弾 ──

 ──近い。


 数メートル先を横切ろうとする敵を見て、戦車内の緊張が高まる。

 敵の砲塔は歩機を狙うために一〇時を指向しており、一〇二号車とは反対を向いていた。


 近藤戦車長は慎重に、そして外すことの無い距離で主砲を発射した。

 発射の轟音と着弾は同時だった。

 砲弾は砲塔の真中に命中し、そして弾かれた。


 ──弾きやがった。なんて装甲だよ。

 そう思うのとは別に号令を下す。


「次弾装填。急げ」

 装填完了を待ち、再び発射。

 だが結果は同じだった。


 ──こうなったら貫通するまで同じ所を撃ち続けてやる。

 照準器の中で、敵戦車の砲塔がゆっくりと旋回して行く。

 その速度は遅く、増加装甲の重さが徒となっているのは明白だった。


 それから予想されるのは、この車輌は敵陣突入用に重装甲を施されていると思って間違いなかった。

 撃たれることを想定している。

 したがって砲塔の旋回が遅い。


 さらに発射された砲弾も弾き返された。

 これで三発もの砲弾が弾き返されたことになり、元が中戦車にしては驚くべき重装甲だった。たぶん主要部分の装甲厚は七〇ミリを大きく越えているだろう。


 だか、命中した所の装甲を仔細に見ると、大きく内側に湾曲していた。そして表面に亀裂が入り始めている。

 しかしそれは夜間である上に、必至に戦っている近藤戦車長の目には入らなかった。


「高速徹甲弾を装填。急げ、奴がこちらを向く」

 一〇二号車には二発の高速徹甲弾が支給されていた。

 これは、タングステン合金製の弾芯で通常の徹甲弾よりも固く、砲弾の初速も速かった。これでもって相手を撃ち抜こうとしていた。


 近藤戦車長が装填を待ち、焦る中、目標の戦車も砲塔の旋回を急いでいた。

 突如、物陰から橋田兵長の試製一〇式が飛び出す。

 そして見る間に敵戦車に取り付いてその動力腕を伸ばした。

 死角から襲われた敵戦車は対応する間も無く砲身を掴まれ、強引に旋回を止められてしまった。


 戦車砲塔の旋回と比べたら、歩機の動力腕の方が遥かに力がある。

 それ以上の旋回の出来なくなった敵戦車は、前進を開始してそこを逃れようと試みる。

 その装甲重量で試製一〇式を蹂躪しようと画策したのだろう。


 激しい音がする。

 戦車二輌と歩機一機の発動機の立てる音。

 砲弾の発射音に、格闘によりこすれ、衝突する金属のぶつかり合う音。

 そして周囲の戦闘音。

 それらが渾然一体となって、周囲に鳴り響いている。


「装填完了」

 その合図が近藤戦車長に伝えられた。

 戦車長がぐっと引き金に力を込める。

 間髪を入れず、砲弾を撃つ。

 一〇二号車の主砲が火を吹き、轟音とともに砲弾が発射される。


 そして発射された砲弾。

 希少金属タングステンの硬くて重い砲弾は、装甲に命中する。

 だけど弾かれない。

 高速度のその先端が、圧延鋼の装甲、そこに食い込む。


 それまでの射撃で疲労していた装甲は、新たな、そしてより固い砲弾を受けて負けた。そして合金の弾芯が装甲を貫通して車内に飛び込む。


 ただし、装甲に孔が開いている以外に敵戦車に変化は見られなかった。

 火災も発生せず、通常と同じ様に見える。

 試製一〇式は敵戦車を押さえている力を抜く。そして離れ、数歩後退した。

 同時に戦車は前進を開始する。

 ただしそれは低速の力の無いものだった。


「微速前進、戦車前へ」

 近藤戦車長のその指示に、先ほどまでの一刻を争うような(はげ)しさはない。

 落ち着いたものになっていた。

 そして物陰から出た一〇二号車は、敵戦車の背後に出て、そこで停車した。


 敵戦車はなおも前進している。

 ゆっくりと操る者の居なくなったかのように、ただ真っ直ぐに移動するだけの物体に成り果てていた。

 瀕死の重傷者が、事切れる前に歩む姿に似ている。


「次弾装填。弾種、タ弾」

 その指示も静かに成された。

 装填完了と同時に発射。


 車体後部の発動機室に砲弾が撃ち込まれ、炎を上げて点検口の扉が吹き飛んだ。

 燃料にも引火して黒煙を吹き上げて燃え盛り、そのまま貨車と衝突して停車した。もうこれでこの戦車が味方を狙うことは完全に無くなった。


 停止した戦車の内部から扉が開き、黒煙と共に二名の乗員が転げ落ちた。

 彼らは地面にうずくまりながら激しく咳き込み、やがてよろめきながら逃げ出していった。

 前方機関銃手は銃撃を控え、逃げ行く敵乗員をただ見送る。

 だがそれをとがめる者は居なかった。


「周囲を掃討する。歩兵に注意」

 近藤戦車長は静かに命令を下す。

 一〇二号車は微速前進を開始して、さらなる敵の姿を追い求めた。

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