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第90話 決起部隊 対 実験中隊 ── 一式中戦車改二型 ──

 決起部隊の一式中戦車が前進しつつ、その主砲を連射しながら橋田の歩機に接近していた。

 その敵戦車を、一〇二号車の近藤車長は見逃さなかった。


「装填手、タ弾装填」

 彼はそう指示を発した。

 その後、装填手からの砲弾装填完了の合図を待ち、敵中戦車に主砲を発射した。


『タ弾』とは特殊弾種だった。

 一般砲弾は『徹甲弾』といい、言うなれば鉄のかたまりだった。

 火薬の力で打ち出して、その重量と硬度で装甲を撃ち抜く。

 そういった力技の弾だ。


 だが『タ弾』は違う。 

 これは榴弾の一種で、火薬の燃焼で装甲を破壊する弾だった。

 弾頭が装甲と衝突した瞬間、火薬の燃焼を一点に集中して吹き出す。

 その高速の衝撃と高熱で装甲を融解させ、穿孔破壊という穴を開ける。それを目的にした砲弾だった。

 歩機の噴進砲弾と同じ機構の弾だ。


 そして『タ弾』は貫通能力にたけている。

 だから徹甲弾の貫通力が目標の装甲を貫けないと判断したときに使用する砲弾ではある。


 だが、配備数は少なく、また命中率も若干悪かった。

 高速で撃ち出すのではないから、弾が弓なりの曲線弾道を描くからだ。

 つまり手投げのように円弧の軌道で飛んでゆく。

 だから特殊な状況下で使われることが多い。


 ともあれ、近藤車長はそれを敵戦車にめがけて発射した。

 そして砲塔のほぼ中央に直撃して紅蓮の炎を上げる。


 しかし、敵戦車は健全。

 破壊には至らない。

 着弾した辺りの装甲が僅かに融解しただけでしかなく、敵戦車は生きている。


「奴め、増加装甲をつけていやがる」

 近藤戦車長は悔しがった。

 ただの一式中戦車改と思っていたら、どうやら違っていたようだ。


 しかも一〇二号車に装着されている盾のような中空増加装甲とは違い、直に装甲を取り付けてあるのが大きな違いだった。

 戦車本体の装甲が増しているのだ。

 その為に外見的にはほぼ見分けが付かず、夜戦の為に差異には気がつかなかった。


 近藤戦車長は、改めて敵戦車を観察する。

 燃え盛る自動貨車に照らされたて細部が見えた。

 確かに砲塔は確かに大きくなっている。たぶん決起部隊が独自に改良した物だろうと予想した。


 ──車体はどうだ。車体にも装甲強化してあるか。いや、足元さえ狙えばあるいは。

 彼は照準器の中で敵の姿を追い求めた。


 砲塔や車体前面に増加装甲を施して防護力を増すことはあっても、側面や後部は成されない場合がある。

 敵と対面するのは前面が殆ほとんどだから、その部分を厚くする。

 そして側面まで装甲強化を行うと、今度は重量が増して機動力が落ちる。

 

 決起部隊が独自の改良を加えているとすると、全面すべてを増加装甲を施しているとは考えにくい。だからそれを見極めるべく、照準眼鏡を凝視する。


 もし車体まで強化されていたとしても、履帯や転輪等の走行装置までの強化はあり得ないと思ってよかった。

 ここを狙って破壊すれば、最悪行動だけは封じることができる。


 だが、近藤戦車長は舌打ちした。

 ──遮蔽物で車体が確認できなくなった。砲塔しか見えん。


 車体が隠れた以上、狙うことさえ出来なくなった。

 処置なしと自車の位置を変えようとした瞬間、視界内に橋田兵長の駆る試製一〇式歩機が姿を表した。

 彼も同じ敵戦車を狙っているのがありありと分かった。


 物陰から飛び出した試製一〇式は、一式中戦車改に向けて砲弾を発射する。

 車体前部に命中した徹甲弾は弾かれた。

 それで分った。

 至近距離からの砲撃を受け付けないのでは、車体も強化してあると見て間違いない。


 重装甲の一式中戦車改が実験中隊の攻撃を尽く弾き返し、周囲を圧している。

 あれが健在な限り、せっかく操車場内に進出してもまた追い返される恐れが大きく、元の膠着状態に陥る恐れもある。

 一輌の戦車が戦線右翼の鍵を握っていた。


 敵の戦力をかなり減じさせたとは言え、こちらも動ける歩兵はかなり減っていた。

 その大多数が戦死しているわけではないが、重傷者も多く発生し、また健在の兵も火器を喪失したりしている。


 近藤戦車長は、何とかあれ──重装甲の一式中戦車改──を仕留めなければならないと覚悟を決め、咽頭式(いんとうしき)車内通話器に手を伸ばした。


「傾注。これより突撃を敢行する。操縦手、右斜め前方にある資材の隙間が見えるか」

「はい」

「最速であそこに車体を入れろ。機関銃手、歩兵の噴進砲に注意。装填手、徹甲弾込め。各員良いか」


 全乗員の返事がほぼ同時にあった。

「良し、行くぞ。前進、戦車前へ」


 一〇二号車は前を持ち上げるようにして急発進し、土を巻き上げて見る間に増速して駆け出して行った。


 近藤戦車長は細かく操縦手に指示を下し、自身は展望窓から外部の様子を窺っていた。

 彼の見た所、敵戦車はこちらに注意を払って居らず、橋田兵長の歩機一号機に最大の感心を寄せている。そして狭い貨車の間をゆっくりと移動していた。


 それが付け目だった。

 近藤戦車長は先回りして重装甲の一式中戦車の側面に進出し、至近距離から襲撃する算段だった。


 そして途中攻撃らしい攻撃も受けず、数発の大型機銃の銃弾が車体を叩いた程度で目的地に到達し、一〇二号車は資材の谷間に車体を収めた。


 近藤戦車長はそこで照準器を覗き込み、敵を待った。

 既に砲弾は装填されており、後は発射するだけになっている。


 僅かだが息の詰まるような時間が過ぎて行く。

 敵戦車が近付く音が徐々に高くなり、発動機のうねりと履帯の音と振動が一〇二号車内にも伝わり始めていた。


 そして、全乗員の前にそれは姿を現わした。

 決起部隊の一式中戦車改二型、装甲を大幅に増強されたそれが、近づいてくる。

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