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第87話 決起部隊 対 実験中隊 ── 対戦車挺身攻撃 ──

 分隊を三名一組の班に分け、それを三角形に配置した。

 左右に分けなかったのは、夜間の挟み撃ちは敵が真中に達すると同士討ちの恐れがあるからだ。


 程なくして決起部隊の中戦車が歩兵を伴ってやってくる。

 火力支援分隊の面々は身を低くして戦車をやり過ごし、歩兵が近付くのを待つ。

 戦車と随伴歩兵の距離はそれ程接近しては居らず、市街戦のように戦車を盾にするのではなく、むしろ戦車が受ける攻撃を警戒して距離を置いているのが分かった。


 分隊にとってはどちらでも構わなかった。

 戦車と随伴歩兵が接近していればほぼ同時に倒すことが可能であり、そして今のような状況下では各個撃破が狙える。

 彼らの運命は、進出してきた時点で、既に決定しているも同然と考えた。


 ──お前等も元は同じ国軍兵士だったろうが、夜間の進出の仕方を教わらなかったのか。それとも戦慣れしたことで増上慢になっちまったか。どちらにせよ、今更悔いても遅いけど。


 分隊長の思う通り、彼らが悔いても遅かった。

 火力支援分隊の面々は柄付き爆薬を握り締め、信管を差し込み、号令の元、それを力の限り投げつけた。


 そして地面に落下した爆薬は手榴弾のように退避の間を与えず、地面に衝突すると同時に爆発した。

 その衝撃は散開した敵歩兵を薙ぎ倒し、その隙をついて銃撃を開始する。


 一度に数発もの投擲を受けた敵歩兵に、退避する間も、そして勝機もある筈が無かった。

 殆どは最初の爆発でなぎ倒され、そして残った者も銃撃を受けて死んでいった。

 それは一方的な殺戮でしかなかった。

 そしてその異変に、先頭を進む戦車が気付いた。


「散開してさがれ」

 分隊は指示に従って後方へとさがる。

 戦車の車体が旋回し、今し方まで後方にいたはずの随伴歩兵が消え去っていることに戸惑っているようだった。


 孤立したことを察知した戦車は動くことも出来ず、下手に行動して状況が悪化するのを恐れているかのようだった。

 そして闇雲に銃砲撃を開始する。

 先ほどまで分隊の居た付近を掃討しようと試みたが、それは、遅すぎた行為でしかなかった。


「俺があいつを倒すから、皆はここで待っていろ」

 分隊長はそう言って小銃を肩に掛け、爆薬の入った袋を手にして駆け出した。

 決起部隊の戦車は、孤立に耐え兼ねて相変わらず在らぬ方向を指向して無駄に銃弾を振りまいている。


 分隊長は戦車の斜め後方から近付き、柄付き爆薬の束を取り出した。

 それは既に数個が鉄線により縛着され、信管ではなく発火具の付いた雷管が数本突き刺さっていた。


 そしてそれを戦車の車体後部と砲塔の隙間に差込み、発火具の紐を引き抜いてから退避した。


 異変に気が付いた戦車が、その砲塔後部の機関銃で去り行く分隊長に銃弾を浴びせるのと、彼が茂みに伏せるのとはほぼ同時だった。

 そして数秒後、仕掛けた爆薬が炸裂した。


 激しい爆発が夜空を焦がし、高々と炎を吹き上げる。

 そして衝撃は砲塔を車体から浮かし、その隙間から衝撃を持った火炎が車内に進入して暴れまわった。


 分隊長が起き上がると、戦車は火を吹いて擱坐していた。

 もうこれで、この兵器が味方を攻撃することは永遠にない。


「分隊長、ご無事ですか」

 若い兵士数人が駆け寄ってきた。

 彼らの顔を見て気が緩んだのか、それまで認識していなかった痛みに顔をしかめる。特に顔面に違和感を覚えた。


「どうしました」

「撃たれたのでありますか」

 分隊員が口々にそう言うのを、分隊長は、「大丈夫」だと制止しながら顔を手で擦った。

 頬の辺りが切れたらしく、掌が血で生暖かい。


「飛び込んだときに顔から落ちた。口の中が泥だらけなった」

「なんだ」

 安心した部下がそう嘆息した。


「なんだは無いだろう。ほら見ろ、歯が欠けちまった」

 そういってから分隊長は歯を剥いて見せた。

 確かに数本の前歯が掛け落ちている。


 彼は水筒の水で口中をすすぎ、それを地面に吐いた。泥と血と欠けた歯が洗い流され、痛みが増し始めていた。


「やれやれ、義歯作らんとな。この歳で入れ歯とか、まったく」

 彼はそうごちた。

 だが、歯と戦車一輌の引き換えなら悪い取引では無いと思い、そう自分を慰めた。

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