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第84話 決起部隊 対 実験中隊 ── 梶山の戦闘参加 ──

 中隊本部を離れた梶山少尉は、真っ直ぐに持田技官の所へと向かった。

 持田技官は三脚に取り付けた暗視装置付きの照準眼鏡で、戦場を観望している最中だった。


「持田、噴進砲出してくれ」

 それが梶山少尉の第一声だった。


「なんだよ、やぶから棒に」

 暗視装置から目を離した持田技官がいった。


「いまから敵の側面を突いて状況を変えに行くから、それが必要なんだ」

 さらにそのあと、梶山少尉はこうも言った。

「お前もこないか」


 持田技官は何を言い出すやらといった表情をする。

「貴様は戦闘経験も豊富だろうが、俺は一介の技官で戦闘経験はないぞ。戦闘班が苦戦しているのに、俺が行って役に立つはずなかろう。足手まといになるのは嫌だ」

 そう断わった。

 だけど梶山少尉はさらに誘う。


「大丈夫、心配するな。わずかな手勢で敵の側面を撹乱しに行くだけだから、後ろでそれを見ているだけでいいよ。それに戦闘を直に体験するのも開発の役に立つだろ。こんな機会はそうそうないぞ」


 気軽に言う奴だなと持田は思った。

 だが、言われてみれば確かに戦闘を真直に見る機会はそうあるものではない。

 それに梶山が行くというのだから大丈夫という気がしていた。


「分かった。こっちに来てくれ」

 納得した持田技官は先に歩き始た。

 彼は整備貨車に到達するとその荷台に潜り込み、器材の中から大きな箱を取り出す。


「ほら、お望みの噴進砲だ。少々古いが整備は完了してある」

「これ、これが必要なんだ」

 梶山少尉は、それに頼もしそうに手を触れる。


「そして、これが砲弾だ。ただし七発しかないから大事に使えよ。出来れば残して欲しい」

「分かった」

 梶山少尉は差し出された砲と弾薬嚢を手に立ち去ろうとする。

 それを持田技官が呼び止めた。


「おい、待てよ。これも持って行け」

「なんだその銃は?」

 振り返った梶山が目にした物は、見たこともない銃だった。


「二式機関短銃の改良型だ。決起部隊が使っている一〇〇式短機関銃の元となった銃で、それを後年作り直したんたが、ほとんど配備されなかった。技本|(技術研究本部の略称)でさらに改良を加えた物がこれだ。制式に採用されるのは、もうちょっと後になるだろうな」


 梶山少尉はそれをしげしげと見つめた。

 そして差し出された弾倉を見て驚いた。

「なんだ、随分と長いな」

 弾倉は真っ直ぐでなく、円弧を描いていた。


「五〇発入り弾倉だ。これがこの銃の特徴というか、厄介な部分と俺は思っている」

 そう説明する持田技官の言葉を聞いて、梶山少尉は嫌な気がした。

 軍が採用に乗り気でないと言うことは、その長い弾倉により装弾不良が多発するからではと予想したからだ。


 それを察した持田技官が説明する。

「一〇〇式のような銃機関部の横からの給弾と違い、この銃は弾倉を銃の底部に差し込む」

 持田はそう言いながら実際にやって見せた。

 そして、「なっ、これだけ下に突起物があるんだ。とてもじゃないが伏せ撃ちは出来ないよ」と言った。


 その説明を受けて梶山少尉は安堵する。

 これから少数で殴りこみをかけるのだから、それは致命敵な欠陥ではなく、逆にその装弾数の多さが頼もしかった。


「いいよ、その程度は。じゃ行こう」

 そう歩きかけた梶山を、持田がさらに引き止める。


「待てよ、まだあるんだよ」

「時間無いんだよ」

「そう言うなって、ほらこれ」


 差し出された拳銃は、さらに奇怪な形をしていた。

 今まで見た銃の中で一番奇抜とも言える。

 一応、南部十四年式拳銃に似ても無くはない。が、引き金を被う用心鉄がなかった。

 その銃を持田が説明する。

「小室銃砲店製、小室式自動拳銃だ。別名、日野式とも言う。ちゃんと購入した俺の私物だ。お前、噴進砲を操作するんだろ。これを持って行けよ」


 受け取った梶山少尉は、銃を操作しながら戸惑った声を上げた。

「おい、この銃、被筒が動かないぞ。どうやって遊底を動かすんだ。これが分からないと装弾できないだろ」



「この銃は凄く変わっていてな、引き金を引きながら銃身を前に引くんだ。ほら貸してみな」

 持田技官は銃を手に、実際にやって見せた。

 なんとも奇抜な装弾方法だった。


「急ぐときは、引き金を引きながら銃を振るだけで良い。遠心力で銃身が前に動くから、それだけで装弾できる。緊急時や、砲を操作して片手で使うときなんかは役に立つ。さらに、この機構のおかけで俺なりの改良がしてあってな、二段式の引き金を最後まで引くと連射ができる。装弾数が限られているから、そう長くは連射は出来ないけど」と言った。


 梶山少尉は呆れた表情でその銃、小室式自動拳銃と弾倉数個を受け取る。そして、「お前、銃砲店でもやったらどうだ」と皮肉交じりにいった。

 それを聞いた持田技官は、何を今さと言う顔付きをした。


「あれ、言ってなかったか。俺の実家は国友の鉄砲鍛冶だよ。戦国時代から代々鉄砲を作ってきた家系なんだぜ」

 彼の実家が滋賀県とは聞いてはいたが、それは知らなかった。

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