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第82話 決起部隊 対 実験中隊 ── 一〇式二号機・河嶋の戦闘 ──

「まずいな」

 決起部隊の護衛分隊である前田伍長がつぶやく。

 戦線の一角に穴が生じ、そこに実験中隊の分隊が殺到している。

 放置すれば、そこを敵に反撃拠点にされてしまう。

 それはまずいと、口をついて出た。

 

 だから彼は動く。

 脇の七式歩機に対して、「ついて来てくれ」といって飛び出す。

 その後からは歩兵集団が続き、生じた空隙を埋めるべく行動を開始した。


 決起部隊の歩兵と歩機が操車場と道路の境目に到達すると、そこで猛烈な射撃を開始する。

 移動途中の実験中隊の各員は、その攻撃により打撃を受け、そこで撃ちすくめられて動くことは適わない。


 救援の為に一式中戦車二〇二号車の前方機関銃が、現れた新しい敵──前田伍長の分隊──に対して射撃を開始したが、思わしい結果は得られなかった。


 ──連中は銃弾を受けて平気なのか。

 前方機関銃手が顔をしかめる。

 そして、そのことを車長である紺野軍曹にも伝えた。


「俺にも見えている。あれか、装甲された歩兵と言うのは」

 彼も話には聞いていたが、見るのも、実際に対戦するのも初めてのことだった。

 撃たれた衝撃でのけぞっても、また直ぐに起き上がって戦闘に戻る敵が多かった。厄介な連中だと苦々しく思っていると、さらに厄介な敵の姿を発見した。


「歩機まで出てきやがったか」

 七式歩機を発見した紺野戦車長は、硝煙の充満する車内で、そううめいた。

 決起部隊の攻撃は、いつ果てるともなく続き、限りなく沸いてくるような気がしていた。


 ──いや、そうじゃない。奴らも同様にこちらをしぶといと考えている筈だ。

 戦車長はそう気を取り直し、無線で歩機二号機の河嶋兵長を呼んだ。


「歩機が出てきたが見えるか」

「いえ、見えてません。どこですか」

 無線から届く少年の声は、思いのほか落ち着いて聞こえた。

 初陣でこの調子なら大丈夫だろうと紺野戦車長は確信した。


「君の左手前方だ。十一時の延長線上に居る」

 その報告を受けて河嶋兵長が視線を向ける。

 だが、貨車が幾重にも並んでいる為に敵七式歩機の姿は見えなかった。


「見えません」

「そうか。戦車からも貨車が邪魔になって、敵歩機の天頂部しか確認できないんだ。ここからは狙うこともできない」

 河嶋兵長はその無線を受けて敵の位置を予想する。

 そして火線が伸びている辺りだと見当を付けた。


「いまからその敵歩機に向かいます。最悪、いぶり出すことはできるでしょうから、そのときは攻撃願います」

「おい、よせ。危険過ぎるぞ」


 制止を振り切り、河嶋兵長は試製一〇式を前進させた。

 戦なれしてきたこともあるだろうが、これが自分にとって最初の歩機同士の実戦かと思うと、自然と気持ちが高まっていた。


 ──あの馬鹿、自分だけ飛び出せはそれで済むと思ってやがる。

 紺野戦車長は咽頭式通話器に手を伸ばし、そして乗員に指令を出した。

「小僧が飛び出しやがった。これより前進を開始して援護したい。申し訳ないが付き合ってくれ」

 異論はなく、「了解」とだけ短く返答があった。

「前進、戦車前へ」


 一式中戦車改二〇二号車は茂みを飛び出し、操車場に向けて前進を開始した。

 そして、「味方の歩兵に気をつけろ。左側を大きく回れ」と指示を出した。


 試製一〇式二号機は飛び出してから戦線側面を大きく迂回して路上に踊り出し、そして杭を蹴倒して操車場に突入した。

 銃弾が機体を追う。

 だが狙いが正確ではなく、そのほとんどが外れた。

 それほどの勢いで試製一〇式は戦場を駆けた。河嶋兵長の狙いは接戦だった。


 敷地内には無数の貨車が並び、敵が身を隠すには絶好の場所が数多く存在する。

 河嶋兵長は路線を超える度に視線を左右に向けて敵歩機の姿を追い求め、そして、突如あらわれた試製一〇式を見た敵歩兵は、混乱の極みに達して持ち場を離れる者が続出した。


 ──居た。

 資材を積んだ貨車を越えた瞬間、身を低くした七式歩機を発見した。

 しかもその機体は砲を構えて試製一〇式を捉えていた。

 待ち伏せを受けていたのだ。


 河嶋兵長は総毛立つ。

 しかしその瞬間、体に走った衝撃と戦いながら電算機の接続を切る。

 無意識にそれを行った。


 直後、機体の挙動が平衡を狂わし、信じられない速さで身を屈めると同時に七式歩機が砲を発射した。


 機体の直ぐ脇を砲弾が通り過ぎる。

 河嶋兵長は実演の時に見せた彼独特の操縦方法を初めて実戦で使用し、それにより危機を回避した。

 成功に気を良くした彼は興奮し、表皮が泡立った。

 そしてその興奮が少年を大胆にさせる。


 河嶋兵長は猛然と機体を前進させて七式歩機が発射した次弾も避けると、至近距離で一六〇ミリ噴進砲を発射した。

 外しようのない距離だった。

 砲弾は、敵七式歩機の中央下部に命中し、その衝撃が背面まで突き抜ける。


 ──やった。

 七式歩機が倒れるまでの短い間に発動機が火災を起す。黒煙が上がる。

 そして崩れ落ちた七式歩機の乗降口から操縦手が飛び降り、足を引き摺りながらそのまま何処かへ逃げ去った。


 河嶋兵長はその兵を撃たなかった。

 もっと手強い強敵を想定していたのにあっけなく撃破してしまい、あれが警察部隊を全滅させた歩機操縦手かと思うと、少々拍子抜けしたのも事実だった。


 しかし、その気の緩みは、敵の只中にあって危険極まりない行為。

 決起部隊の九七式中戦車改二型が貨車の列に紛れて接近。そして河嶋兵長が乗機する試製一〇式歩機を狙っていたからだ。

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