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第74話 決起部隊 対 実験中隊 ── 集合 ──

 戦車乗員の二人が不安げに夜空を見上げている。

 戦闘の音が鳴り響いていているからだ。


 その傍らで、二機並んで駐機している試製一〇式歩機の二人も、同じ様に夜空を見上げていた。

 彼らは横並びに駐機して左右の乗降扉を開け、互いに身を乗り出すようにして言葉を交していた。


「もうすぐ戦闘になるな」

 二号機、河嶋兵長が左の乗降口から身を乗り出して話しかけてきた。


「そうだな」

 一号機、橋田兵長が右の乗降口から顔を出して返事をする。


「俺たち死んだりするかな」

 河嶋は子供っぽく言う。

「死ぬなんていうなよ」

 橋田がいやな顔をした。


 二人の出動が決まった日、中隊の大人から、「遺書を書いておけよ」と言われた瞬間から、何度も心の中に浮かび上がる言葉が――戦死――だった。

 だが、それは恐ろしい言葉ではあったが、実感が伴っていない。


 知識が無いからではない。

 少年時代の想像というものは、どうしても終末というものには想いが及ばない。

 どうしても明るい未来があると、無根拠に思い込んでしまう。


 だから知識として戦死という恐ろしい言葉が脳内を駆け巡っても、それが自分達に本当に波及するとは、到底思えなかった。

 だからそれを口にして確認し合うのだけど、何度それを繰り返しても当然答えは得られなかった。


 さらに言えば、軍隊に身を置いているとは言え、兵器開発の実験中隊に戦闘は関係なかったし、大陸では小規模とは言え今だ戦闘が続いているが、それは大人達が勝手にやっている遠い世界の話で、自分達には無縁であると思い込んでいた。


 周囲の大人、つまり中隊の隊員は、もちろん戦闘を嫌がってはいる。

 だけどその一方で、どこか当たり前のこととして受け入れていた。

 これが大人との差なのかと彼らは自分に問うては見たが、ついに解らなかった。そして、戦闘になろうとしている。


「死にたくないなあ」との橋田のつぶやき。

「誰だってな」河嶋が合わせるようにつぶやく。


 深く沈んでいる所に、中隊本部と戦闘小隊の面々が駆け付けてきた。

 それを見て二人の少年兵は勇気づけられた気がした。

 中隊の大人達とは歳が離れているとはいえ、やはり顔なじみはいい。

 同じ釜の飯を食い、同じ風呂に入り、同じ隊舎で寝起きを供にした、寝食苦楽を味わった仲間の存在が頼もしく思えてならなかった。


「二人とも心細かったろ」

 中隊長車から降りた梶山少尉が、真っ先に二人の所に来てそう語りかけてくれた。

「これからは中隊一丸、いや、出遅れた近在の部隊をかき集めて戦闘に入る。敵を圧倒できるかは未知数だが、少なくとも全滅するような無様な戦闘だけは避ける」とも続けた。そして最後に、「準備は良いか」と聞いた。

「はい」

 二人はほぼ同時に答えた。


 梶山少尉はうなづいた後、戦車の方へ出向く。

「ご苦労様です。少年達の面倒を見て頂いて、助かりました」

 戦車長二名に梶山はそう礼を述べた。


「礼には及びませんよ」

 一〇二号車の近藤戦車長が笑顔で答える。

「それよりも気になることが……」

 二〇二号車の紺野戦車長が後を続けようとするのを、梶山少尉は、「移動命令のことですか」と先回りした。

「ええ、そうです」


「うちの中隊長は無能で有名でしてね、しかも信じられないほどの方向音痴と来ています。だから、道を間違えて無駄に時間を過ごしてしまっても、まあ、仕方のないというか。しかしご心配には要りません。これから決定的な反撃を行います」


 二人の戦車長は顔を見合わせて怪げんな表情をした。

 いま、こうしている間にも戦闘の音は激しさを増している。

 すぐにでも駆け付けなければ勝機を逸するのではないかと言う気がしてならなかったのだ。

 だが、目の前の少尉は訳の分からぬ事を答えている。

 しかも自信たっぷりに。

 だから当然、不可解であるという表情になる。


「それは、その、不服従とか抗命にあたる行為になるのではないですか」

 そう、おずおずと紺野戦車長が言う。

 その心配は当然のことだった。

 だが、梶山少尉も、初対面に近い他部隊の者に本当のことは言えなかった。何とか匂わせて、それとなく納得して貰うよりなかった。


「我々は独自に敵の計画を察知いたしました。しかし、それは軍本部に進言して検討してもらう時間はありません。だから仕方なく道に迷ったのです。もう一度言います。本部の把握していない、敵の攻撃を察知したのです。その敵を放置して置けば、全体が危機に曝されるのは確実です。ですから、あの移動命令には従え……じゃなかった、道に迷う他ないのです。分かって下さい」


 ここまで言って理解されなかったらあきめる他なかった。

 梶山少尉は彼らの目を見た。

 言われた二人の戦車長もまた、何かを探るように梶山の目を見つめている。その時間は僅かでしかなかった。


「了解しました。我々は、この場を動かないことにします」

 二〇二号車の紺野戦車長がきっぱりと言い切った。そして、「なあ、お前もそうだろ」と、最後の言葉は同僚に向けてのものだった。


 一〇二号車の近藤戦車長がうなずき、「それに、我々が当初言われた命令は歩機に付き従えですから、それを覆す命令を受けていない以上、他にしようがないのですけどね」そう答えた。


 梶山少尉はほっと胸をなでおろす。

「助かります。では敵の狙いを概略説明いたしますので、こちらに」

 梶山少尉は戦車長の二人を中隊長車に案内した。

 そして、出遅れて合流した他部隊の兵士も集められ、臨時の戦闘班が出来上がっていた。

 そこで部隊行動の説明している間も戦闘の音は激しさを増し、激戦になっているのは確かだった。

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