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第73話 決起部隊 対 実験中隊 ── 戦闘開始 ──

「時間だ、始めるぞ」

 鮫洲の北周辺で待機していた別働隊に無線で指示が飛んだ。

 それを受けて決起部隊は行動を開始した。


 彼らは、歩機三機、中戦車一輌、軽装甲車二輌、さらに速射砲二門の有力な部隊で、派手に暴れて七三軍隷下の部隊を引き付ける役目があった。

 一応、銀行を襲撃する任務も帯びてはいるが、それはあくまでも副次的な要素に過ぎない。


 まず行ったのは、この為に集積した燃料を燃やすことだった。

 辻や空き地に積み上げられた一斗缶に焼夷弾が撃ち込まれると、たちまちにして激しく燃え広がり、紅蓮の炎が夏の夜空を焦がす。


 それを数箇カ所で行った。

 遠目にはまるで町が大規模に襲撃されたように見える。

 その間にも、戦車と歩機はそれぞれが銀行や企業を襲撃して金品を強奪、金庫を持ち出して自動貨車に積載してゆく。


 最初の火の手が上がってから、十数分たった。

 第一報が第七三軍の司令部にもたらされる。

 即座に、隷下の首都防衛の第三三、三二歩兵中隊に命令が下令された。


 さらに以下の部隊が付随する。

 第十一速射砲中隊|(ただし臨時編成なので一個小隊二門のみ)

 千葉戦車学校から臨時編成の戦車二個小隊八輌と装甲捜索隊二個小隊六輌。

 そして第一〇三実験評価中隊である。

 それぞれに出動が下された。


 戦車小隊と装甲捜索小隊は、急増の臨時編成のため部隊番号がなく、便宜上、一小隊二小隊と呼称されていた。

 野戦重砲や重迫がないのは戦闘火力として不安が残るが、鎮圧の為なら致し方がない。

 その為に、独立歩兵中隊には重機関銃が増加配備され、また速射砲中隊が参加しているのだった。


 各中隊は現場急行の為に慌しく移動を開始する。

 そして広く布陣しているが為にその対応は遅れ、さらにまずいことに、逐次移動すると言う愚を犯し始めていた。


「移動命令が出ていますけど、どうします?」

 一式中戦車改の車内でそんな声がする。

 無線手をかねている前方機関銃手が、戦車長である近藤軍曹にたずねたのだ。

 彼らは試製一〇式歩機一号機と橋田兵長の護衛を言い渡されていた。


 それを受けて近藤軍曹は次のように答える。

「俺達は歩機に付き従うのが任務だから、今のところ無視してかまわんよ。歩機が移動を開始したら、それと合わせるだけだ」


 彼らの任務は歩機の護衛だった。

 歩機に常時戦車を付けてやれと戦車学校に掛け合って提案してくれたのは、対抗戦で戦った堂本少佐だった。

 その指示を受けている一輌が、いまここで会話している近藤軍曹だった。

 同様に河嶋兵長の試製一〇式二号機にも同様に一式中戦車改が付き従っていた。


「確認しなくて宜しいでしょうか?」

 なおも前方機関銃手が尋ねるのを、近藤戦車長は手を振って止めとけと指示した。

「本部に問い合わせたら、しなくても良いことを色々と指図されるに決まっている」とまず面倒くさそうに言った。

 その後に、こう続ける。

「それにだ、もし移動となったら、あの小僧一人にすることになる。それは可哀想じゃないか。歩機の操縦者と言っても、まだ少年だぞ。それにもし彼が倒されたら、対抗戦で汚名を注ぐことが出来なくなる。そうなったら堂本少佐に怒鳴られるだけではすまないだろ」


 車内の他の乗員は、──もしかしたら、最後の理由が一番大きいかもな。と思っていたが、口には出さなかった。


「こちら歩機一号機、一〇二号車送れ」

 そのとき、橋田兵長から無線が入った。

 一〇二号車とは近藤戦車長の車輌だ。

「こちら一〇二の近藤だ。何用か、送れ。なお、以後は口語調での通信を許す」

「あ、はい。移動命令が届きましたので、これから行動開始します。送れ」

「“送れ”もいらんよ。解った、先導を頼む」

「では、お願い致します」


 近藤戦車長が砲塔の乗降口から顔を出す。

 試製一〇式が中戦車の脇を通り過ぎて行く所だった。

 橋田兵長の姿が歩機の乗降口から見え、その彼が敬礼していた。

 近藤戦車長も手を挙げて軽く返礼した。そして車内へ戻る。


「さあ行くか。間違っても歩機にぶつけるなよ」

「大丈夫ですよ」

 操縦手が笑いながら請け負う。そして、「でも、おかしいですね。彼、自走して行くつもりでしょうか」と言った。


「そう言えば、そうだな」

 近藤戦車長も疑問に思う。


 歩機が移動する際には、牽引台車に乗せて移動することがほとんどだからだ。

 いま居る東五反田から鮫洲近辺までは直線でも二キロ近くもある。積載する時間を考慮しても、歩機で自走するより早い筈だ。


 近藤戦車長は、「ちょっと無線を貸せ」と言ってから回線を開いた。

「こちら近藤。橋田兵長聞こえているか」

「はい」

「移動目標は、どこだか教えてくれないか?」

「鷹輪です」

「何?」


 近藤戦車長は驚きの声を上げた。

 敵は鮫洲で活動を開始しているとの報告があったばかり。

 だが鷹輪方面で襲撃があったとは聞いてなかった。第一、そこは先ほどまで味方部隊が布陣していた所ではないか。

 そんなことを瞬時に感じての驚きだった。


「詳しい位置は言われても解りませんでした。先導は牽引台車が行うので、自分はそれについて行くだけです」

「本当に鷹輪なのか、間違いではないのか」

 近藤戦車長は再びたずねた。


「はい。余り移動しないから、自走して向かえと指示されましたから、確かです」

 それを聞いて近藤戦車長は首を傾げながら無線機を切った。

 他の乗員も、薄暗がりの中で互いに顔を見合わせながら首をかしげあう。


 実際に移動そのものは瞬く間に終わった。

 近藤戦車長は砲塔から上半身を出して周囲の警戒に勤めたが、その近辺ではひっそりと静まり返り、何の兆候も得られなかった。

 つまり、この付近で戦闘は発生していない。

 それなのにここに向った。


 その代りに、遠くの銃声が鳴り響くようになっていた。

 だから近藤戦車長はあせる。いま直ぐにでも戦場に駆けつけたくなった。


 指定場所に到着すると、歩機二号機とそれに付き従う一輌の一式中戦車改の姿があった。紺野軍曹の二〇二号車だった。

「おい、どうなっているんだ」

 戦車を横付けしながら、近藤戦車長が大声でいった。


「俺にも分からん。小僧が移動すると言うから来ただけだ」

 二〇二号車の砲塔から紺野戦車長が身を乗り出して答える。

 彼も発動機と履帯の騒音に負けないよう叫んでいた。


 やがて戦車が停車して、ようやく会話が出来るまでに騒音が押えられた。

「どうする、中隊本部に確認取るか」

 二〇二号車の紺野戦車長がそうたずねるのを、一〇二号車の近藤戦車長は手を左右に振って止めさせた。


「止せ止せ。ヘタに伝えれば、なにを言ってくるか解ったもんじゃねえよ。臨時本部の連中なんて理解能力も想像力も欠落しているし、何か思い付きで指示出すのが仕事と勘違いしている馬鹿供の集りだからよ。的確なこと何一言えやしないのに余計な指示で現場が混乱するだけだ。まったく柴崎の親父も考えて人選しろよ」


 と、本部要員のことをこれっぽっちも信頼していない。

 柴崎の親父とは戦車学校の校長のことで、彼らの派遣を決定した人物だった。


「それ、親父に言うぞ」

 二〇二号車の紺野戦車長が笑いながら言った。


「よせよ馬鹿」

 一〇二号車の近藤戦車長が、それをされたらたまらんと言う。


「冗談だよ」

 二人の戦車長が会話をしている、その間も、銃声はその頻度を増し始めていた。

 本格的な戦闘になるのは間違いない様子だった。

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