表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/99

第67話 決起部隊 対 実験中隊 ── 山種機関 ──

 実験中隊の出動態勢が六月に整った。

 一応はである。

 態勢といっても、それは戦闘が一応出来るというだけで、即応とは言えなかった。

 何しろ、相模原から東京中心部までどんなに急いでも三時間弱かかる。その間に決起部隊は襲撃と強奪が完了し、瞬く間に撤収してしまうからだ。


 部隊に連絡が行く前に全てが終了していることもあった。

 ましてや襲撃は夜間に行われ、いくら交代制にしたからと言って、日々、中隊員を夜勤に就けておくのも無理がある。

 本来の業務はあくまでも歩機の開発なのだからだ。


 そして、決起部隊の掃討戦には実験部隊だけが出動を要請されている訳でもなく、在京近隣の部隊にも同様の出動がなされてはいた。

 そして何れの部隊も状況は同じだった。

 事件が発生してから行動しても、到底間に合わないのは誰の目にも明らかになりつつあったのだ。


 そこで決起部隊を待ち受けることに方針が転換された。

 警察からの情報を得て、襲撃のありそうな所で防衛線を張るのだが、それもうまくいかない。


 決起部隊が欺瞞情報を恣意的に流し、それに振り回されて無駄な出動を繰り返すことになった。

 四月の大々的な襲撃から、あきらかに寺頭の部隊とわかる襲撃は三度発生した。

 だが、欺瞞による出動は大小合わせて五〇回を越える。

 それに寺図以外の部隊襲撃も発生した。

 これでは疲労が溜まるばかりで、とても戦闘にならない。


 だが、問題の根はそれだけにそれだけに留まらず、憲兵隊と警察の縄張り争いも表面化した。

 互いに独自の捜査を行い、その情報を交換することはほとんどなされなかったのだ。

 未整理の情報ばかりが増え、関係者はそれに振り回される。

 検討が終らぬうちに次の襲撃が発生した。


 こんな状況である。

 日々、政府と警察、そして軍に対して民衆の批判は高まり、倒閣の恐れも発生する事態へと発展していった。


 そこで政府は、軍と警察双方にまたがる、臨時の捜査連絡機関を設けることにした。 

『山種機関』

 それが組織の名称だった。


 代表者の山種篤弘(やまたねあつひろ)は、大陸浪人として職にも就かずに放埓な毎日を送っていた所を推挙され、新設組織の代表に収まった。

 彼は、日本の諜報機関の一つである日月寮出身者で元は軍人ではあった。


 だけどそれ以上に政府高官の西園寺公の親戚筋でもあり、身元は確かな人物と判断され、それで推挙されたのだ。

 歳は二〇代後半。

 何時も薄い色のスーツを着た、日本人には珍しいタイプの伊達男だった。


 当初、山種本人はその要請を固持した。

 彼は言う。

「そんな真面目な仕事は、もっと勤勉なやつにやらせた方が良い」と。

 自分が大陸浪人やっているのも、働きたくないからだとも言った。

「親の金で遊び歩いているようなだらしない自分に、そんな国の大事に用いてはいけませんや」と最後に必ず言った。

 そうやって国の要請を断り続けてきた。


 しかし、西園寺公と父親の両方から厳しい、半ば脅しのような要請と、さらには許嫁である女性から婚約破棄をちらつかされて、ようやく引き受けた。


 許嫁の名は洋子。

 一〇代後半で、海外のニューモードを取り寄せて自分で着こなすといった、スタイルとセンスに溢れた女性だった。そこに山為は惚れていた。

 その彼女から、政府の要請を断わるのなら、婚約も考えると言われてしまった。

 それが一番の引き受けた理由だと、周囲の誰もが知っている。


 だが一度組織を作るとなったら、彼、山種の手腕は見事な物だった。

 彼がかつて大陸でやったこと。

 それはある種の活劇だった。

 上海に渡ったばかりころ、羽振りの良い遊びをしている所を地元のゴロツキに目をつけられたが、それをたちまちにして手懐け、裏社会の一角を占める存在にまでのし上がる。

 そして何時も傍らには数名の美女を侍らせ、日々、楽しく暮らしていた。


 そういったことができる男である。

 その手腕を遺憾なく発揮した。

 人の心、その裏側をくすぐるのがうまいのだ。


 そしてその組織に参加する人選に際しても徹底的に身元を洗われ、少しでも寺頭の息がかかっている者は片っ端から排除された。

 その為に、一癖も二癖もありそうな人物の集まりとはなったが、彼らは瞬く間に独自の情報網を作り上げ、憲兵や警察の知りえない情報まで入手するようになっていた。


 山種機関の設立と時同じくして、政府と軍は鎮圧部隊として第七三軍を組織し、その本部は大本営に置くこととなった。

 とは言え、それはあくまでも臨時の処置であり、麾下の部隊は固定されずに状況に応じて参加部隊が決定した。

 その為に、軍単位を組織はしたが、その内容は一個師団はおろか完全編成の大隊にも満たないものでしかなかったのだ。


 このような歪な編成は従来の日本軍では考えられぬこと。

 これはでは軍を新設することで体裁を取り繕っただけに過ぎず、諜報組織としての山種機関の徹底ぶりからすると、やはり軍の対応はどこか消極的な感が否めなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ