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第66話 決起部隊 対 実験中隊 ── 九八式投擲機 ──

 手で何か形を示そうとしているが、もちろんそんなことで伝わる筈がない。

 梶山少尉もその手振りを真似て見たが、何のことやらさっぱり要領が得なかった。


 だからしびれを切らして、こう言った。

「なんだよ、もっと言葉にしてくれないと分からんよ」


 それを受けても持田技官は手つきをやめずに、まだ、うめくように伝えようとしていた。

「だからあれだよ、あれ、こう柄の付いたあれ」


「柄の付いた何?」

「だから、えーと柄の付いた爆薬。撃ち出す奴」


 それを聞いて解った。それは工兵機材の一種だった。

 梶山少尉はその名前を口にする。

「柄付き爆薬」

 そのままの名前だった。


「そう、それ」

 持田技官は、ぱんっとひざを打った。

 そして気色を浮かべて、後を続ける。

「一度、演習で見せて貰ったあれだ。柄付き爆薬を投擲機で発射して見せただろ。あれだよ、あれ」


 柄付き爆薬とは、四角い形状をした爆薬に数十センチの金属の棒が付いたもので、柄の部分を小型の迫撃砲のような発射機に入れて、発射火薬の力で撃ち出すものだった。

 主な用途は、遠方にある障害の除去である。


 敵の鉄条網や路上障害には機関銃が控えている。

 これらを除去するために近づくのは至難の業で、たちまちにして複数の機関銃から撃ちすくめられる。

 これを強行して除去しようとすれば相当な損害を覚悟しなければならない。それを遠方から行う機材だった。


 柄付き爆薬の射程は四〇〇メートル強ほどであり、それを用いれば敵の銃弾に身をさらすことなく障害を爆破して除去できる。

 同じ投擲機で専用の破壊筒も発射可能で、これの射程は三〇〇メートルだった。

 なお、発射器の制式名称は、九八式投擲機といった。


「あれを使うのか」

 梶山少尉は考えた。


 爆薬と砲弾は似ているようで違う。

 野砲の砲弾、主に榴弾は、遅延信管を用いた場合は地表では炸裂せず地中で炸裂する。

 その破壊力は凄まじく、地下で行き場を失った爆発は地上に噴出して大きな破壊をもたらすからだ。


 土壌により一概に語れない部分もあるが、十五センチ榴砲弾の場合、地下三メートルで炸裂すると、直径十五メートル、深さ七メートル以上のすり鉢状の穴が開き、十センチ榴砲弾でも十メートル以上の穴が開いた。

 それに破片の被害も無視できない。

 もっと小さい連隊砲でもかなりの穴が開く。

 これらを市街地で用いたら、たった数発で一町単位|(五〇メートル四方)を破壊することになる。


 だが、柄付き爆薬が地表で炸裂しても、物体に対する被害はそれ程でもない。

 爆発の威力、その大半は空中に散るからだ。


 爆薬で物体を破壊する場合は、その対象物に密着させる必要があり、その際には驚くほど少量で大きな破壊をもたらす。

 工兵はその火薬の特性を利用して、爆発の衝撃をはさみのようにして対象物をせん断し、またきりのようにして穴を開けたりして状況に応じた破壊を行う。


 だが、先にも言ったように、ただ地表で炸裂させても衝撃波が空中に散るだけで、周囲に対する破壊力はそれほどでもない。

 鉄条網の破壊にはそれでも十分だが、僅かに離れただけで建物の外壁に傷が付く程度だった。しかし、人員が要る場合、その衝撃波はかなり遠方までの人間を薙ぎ倒す。


 持田技官が訴えているのはそれだ。

 絵付き爆薬を障害の除去ではなく、人員の攻撃に用いてみてはという提案だ。


「大陸でな、その投擲機から打ち出された爆薬が、移動中の味方の近くに落ちるのを見たことがある」

 梶山少尉が過去の記憶を頼りに語った。


「死んだのか」

 持田技官が食いつくようにたずねるのを、少尉は首を振って答えた。


「いや、誰も死ななかった。全身に強い衝撃を受けて昏倒した者や、弾き飛ばされて地面に叩きつけられはしたが、それで済んだ。もっとも爆発物との距離の関係もあるとは思うが」

「それ、使えるか」

 持田技官が、期待に満ちた目で聞いた。


 梶山少尉が力強く即答する。

「たぶん使えるとは思う。隊の大多数の者はこれの扱いは出来るだろうし、もし知らなくても訓練すれば大丈夫だ。何しろ俺達工兵隊の機材なのだから、始めて見る火器のように試行錯誤しながら扱わなくても、あれなら大丈夫だ」


 その言葉を持田技官は嬉しそうに聞いていた。

「それは良かった。まあ、対人火器として使うのだから多少の改良は必要かも知れないが、門外漢の俺がとやかく言うよりも戦訓を取り入れてからでも遅くは無さそうだな」

「それはそうと、その意見はいい。助かった」

 梶山が頭を下げるのを持田は手を振って応える。


「よせよ。それはそうとして、隊にはその柄付き爆薬だっけか。それは、いったいどの位あるんだよ」

「ここ最近は歩機の開発にかかりきりでほとんど演習してないから、弾薬庫にたんまり残っている。詳しいことは武器係に聞かないと解らないが、多分、ひゃく、いや百数十発はある。発射破壊筒もその半分はあるはずだ。何しろ消費しないので、火薬が劣化してもあれだし、破棄も面倒なので演習場に無駄に撃ちに行くつもりだった。もし足りなくなっても、受領すればいい」


「そうか」

 持田技官が嬉しそうだ。

 二人は、その後も投擲爆薬の使用に関して感想を述べ合い、そこから派生した案を簡単な図面を書きながら確認し、意見を交換し合った。


 その頃を境に部隊は徐々に戦闘能力を高め、一ヵ月後の六月上旬には大きな総合演習で総仕上げとなった。

 もちろんそれには試製一〇式も参加し、歩機と歩兵の共同作戦までも行えるようになっていた。

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