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第65話 決起部隊 対 実験中隊 ── 決起討伐の難しさ ──

 持田技官と梶山少尉の二人は、その九式自動砲の荷降ろしを見ていた。

 この砲を各倉庫に眠っているのを発見してから、改良を計画。そののちに試験してから開発を依頼し、今日ようやく受領が終わった。

 それを感慨深く見つめているのだった。


「もう一つの火器はどうだったんだ?」

 持田技官が尋ねたのは、人員が操作する呂弾発射機のことだった。

 外見的には迫撃砲と見分けが付かない発射機で、迫撃砲弾の変わりに噴進砲弾を発射する歩兵の火力支援火器のことだった。

 迫撃砲に比べて重量が軽く、また取り扱いも簡単なことから訓練時間も少なくて済む。中隊が短期間で戦力を増強させるには是非とも欲しい火器の一つがそれだった。


「それは断られた。と言うよりも、あれは空挺部隊での運用試験が決定しているので、今から他部隊に回すことは出来ないと言われた。四研の技官にもどうにもならないとも言っていたな」

「だろうなあ。あれ、完成間近だったもんなあ」

 持田技官の残念そうな声が事務室に響く。


 それを受けて、梶山少尉が一つの提案を行った。

「それでさ、俺達で何とか火力支援できそうな火器を作れないかな」

「はあ、俺達の手でか」と、持田が何を突然言い出すんだとあきれた。

「ああそうだ。俺達の手で」

 一瞬冗談かとも思ったが、それを語る梶山少尉の表情は真剣その物だった。


「何か考えがあるんだろ。それから言えよ」

「そうだな」そこで少尉は言葉を切り、口元に手を当てて考えをまとめていた。そしておもむろに口を開いた。


「部隊が戦闘に参加するとは言え、それは決起部隊の討伐に限ってのことだ。つまり野戦や敵軍との市街戦とは様相がまるっきり違う。これが前程にある」

「そりゃあまあ、そうだろうな」


「先続けるぞ。決起部隊は今の所は金品の強奪が主な活動内容で、占領とかは一切していない。つまり市街戦で寸土を巡って街を破壊するような戦闘は、つつしまなければならいんだ。もし、決起部隊を壊滅に追い込んでも、街全体を破壊するようでは軍全体が批判にさらされる。さらに民間の死傷者が発生することは是が非でも避けなければならない。しかも大量に発生すれば、誰かが責任を取らねばならないし、もちろん部隊だって無事にすまないかも知れない」


「戦えば良いとばかり思ってはいたが、中々に難しい問題をはらんでいる訳か。戦って負けても駄目だし、やり過ぎても駄目。確かに随分と厄介だな」

 そう言いながら、持田技官は額の汗を拭いた。

 まだ五月だと言うのに室内はうだるように暑く、座っているとじっとりと汗ばんでくる。彼らは工場で使う大型の扇風機の風力を強にして、さらに団扇で扇いだ。


「そこなんだ。やり過ぎては駄目なんだ。しかし、軍の野戦火器は威力があり過ぎて、少しでも間違えれば民間に多大な被害が出る恐れがある。だから、いくら敵が強力でも、大型野砲の支援とかは要請できない。しかし、火力が貧弱では敵の制圧も不可能だ。その両方の目的に合致した火器が必要なのだが、それが無い」


 持田技官は腕を組んで考えた。

 確かに梶山少尉の言う通りだった。

 敵が歩機だけならこちらにも新型の歩機があるし、操縦者の腕も申し分ない。

 しかも以前からの懸案事項だった操縦席の防弾構造を根本から改修したので、かなり防御力は高まっている筈だ。


 だが、問題は敵の歩兵だ。

 歩兵に銃弾だけで攻撃するのは能率が悪い。

 だから迫撃砲や野砲で攻撃するのだが、軍の火器は威力が大きすぎて、市街地で使うには問題がある。

 もっとこう、敵を制圧しつつ、周囲に大きな被害を及ぼさない火器の存在が必要だった。


「小型の擲弾筒とか、小銃擲弾の装備を充実させるだけでは駄目なのか」

 そう、持田技官は聞いた。

「いや、もちろんそれも選択肢にある。実戦でも多用して実績もあるし、既に訓練も完了して大量に要請してある。でも、それらは破壊面としては小さい。もっと広い面に打撃を与え、それでなおかつ周辺施設に被害を及ぼさない火器が欲しい」


 持田技官は再び考え込んだ。

 言わんとしていることは分かるが、中々即答しかねる問題だった。何しろ矛盾する二つの問題を解決しなければならないからだ。


「難しいな。どの道、今思い付いても、出動までには間に合わないだろう。それは追々考えるしか無いだろうな」


「やはりそうか」

 梶山少尉は落胆した。

 確かに、彼もここ数日考えても中々これだと言う答えは得られなかった。

 だから苦し紛れに質問したのだが、それで回答が得られるほど甘くはなかったようだ。


「すまんな力になれなくて。何か思いついたら、俺の方から出向くから」

 持田技官が気の毒そうに言うのを、かえって難題を持ちかけた自分が悪い気がしてならなかった。


「なあに、気にすんなって。麦茶ご馳走さん」

 そう言って梶山少尉が立ち上がり、事務室を出ようとした瞬間、背後から呼び止められた。


「ちょっと待った」

 その声に振り向くと、持田技官が額に左手を当て、右手を前に突き出して手招きしている。

「ちょっと戻って来てくれ」


「何?」

 再び椅子に座りなおすと、持田は先程の姿勢のままうめいている。

「えーと、あれなんて言ったかな。あの、ほら、こう言うやつ」

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