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第63話 決起部隊 対 実験中隊 ── 中隊戦闘参加下命される ──

「どんな話です」

 だが、田実大尉はそれには答えず、変わりに質問した。


「内容は後で話す、その前に聞きたい。部隊の様子はどんなだ」

「え、いや、何時も通りですが。まあ、ここ最近は例の事件で皆が上の空にはなっていますが、目に見える支障が生じている訳でもありません」

「そうか」


 田実大尉は手近な椅子を手繰り寄せ、机を挟んで梶山少尉の前に座った。

「中隊の中で、実戦経験者は何名だか解るか」

「実戦経験者ですか。そうですね、二〇〇名のうち半数と言った所でしょうか。後は未経験者か、技術兵や技官ばかりです」

「はあ……」


 田実大尉の溜息は、疲れ、苛立ち、焦燥、諦めと言った負の感情が多量に含まれていた。

 梶山少尉には解り始めていた。

 中隊長は、また何か大きな厄介毎を抱え始めている。しかもこの部隊に関係する何かをである。そしてその内容は、彼にも予想がつき始めていた。


「決起部隊との戦闘に、この中隊も参加することになったよ」

 田実大尉がぽつりといった。


 その台詞を聞いた梶山少尉は、衝撃よりも矢張りという気がしていた。

 ここ数日、それとなく他所からそのような話をされていたからだ。

 その話を聞くたびに、実験部隊に出動なんてある筈が無いと笑い飛ばしてはしたが、それは願望だった。

 そして寺頭の部隊が歩機を使用しているので、その対抗策として白羽の矢が当ったと噂されていた。


「正直、その話ではないかと思って居りました。やはり歩機対抗の為ですか」

「まあ、そうだ」

 田実大尉がそううなずいた。


「我々が演習で圧倒的な戦車兵力に勝ち、また決起部隊も警察の有力な戦車戦力を壊滅に追い込んだ。この事実が歩機に戦車を対抗させるのは難しいと判断され、新型の歩機を保有する我々が出ることになった」

 つまり、演習で最精鋭部隊の一つである教導団に勝ったことが、出動命令の決定に大きく影響していると言うことだった。


「皮肉なものですね」

 梶山少尉がぽつりと言った。そして、「試製一〇式を認めさせる為の苦労と成功がこんな形で現れるとは」と続けた。


「何とか思い留まるよう、他方に掛け合っては見たが徒労に終わった。何でも、中隊を推した者の中に、実演の参観者が居たそうだ。目の前で見て、あれなら勝てると思い込んでも不思議は無い。正に皮肉な運命だな」


 二人はしばらく黙りこくった。

 それぞれの脳裏には様々な思いが去来し、考えがまとまらなかったのだ。


「やはり、操縦者には例の二人を使うしかないのか」

 田実大尉の言葉を聞いて、梶山は激しく動揺する。

 例の二人とは、歩機操縦者の橋田と河嶋のことだ。

 歩機を戦闘に使用するとなると必然的に彼等が操縦することになる。それもまだ少年兵の彼等をだった。正直、あまり考えたくなかった。


「現状ではそれしかないと」

 そう言いながら情けなくなる。

 中隊には大陸で死線をくぐり抜けた大人がごまんと居る。

 自分もそうだ。

 というのに、主力に少年を使う他なかったからだ。


「それとも誰か他の者を乗せて見るか」

 その中隊長の言い分は梶山大尉も検討しないまでもなかった。だが、その結果は火を見るよりも明らかだった。


「乗せた所で彼等のように戦えはしないでしょう。しかも、決起部隊の歩機は市街戦で戦車に完勝したと言うじゃないですか。慣れない者が乗り込んでも破壊されるに決まっています」

 それが何度も検討した結果だった。


 しかし、それには大人の傲慢な考えも隠されていた。

 本気で少年達を危険から避けたいのなら、大人が歩機で戦えばいい。たとえそれで破壊されても、少年達を危険からは守れる。

 残念な結末には違いないが、少なくとも少年達を死地に送り込まずにすむ。

 だが、その後に部隊と歩機がどうなるかは未知数だ。


 試作兵器が、実戦で所定の結果を得られず、破棄または大幅に設計が変更されることは往々にしてあった。

 もしそうなれば、より多くの兵士の為に試製一〇式を開発すると言う当初の目論見が潰えることになるが、それは避けたかった。


「宮田中佐のことだ、試製一〇式が旧式に破壊されたとなったら、即座に計画の見直しを迫るか、その為の工作をするだろうな」

 田実大尉はそこまで考えていた。

 もし仮に旧式に勝てない結果を残せば、歩機開発の妨害派はそのことを不問にすることは無いだろう。機会と見て、自分等の思い通りにことを運ぼうと画策するのは間違いない。


 現実問題として、決起部隊に勝つとしたら少年二人を搭乗させて戦う他なく、それが幾度も考えた末の結果だった。

 ただ、割り切れぬ思いだけは残った。


「やはり、彼ら少年達を乗せるしかないと思います。それしか勝てる見込みは薄いでしょう」

 そう言ってから灰皿を手繰り寄せて、田実の前に置いた。

 彼が煙草を取り出したからだ。


「だったら出来ることから始めるしかないだろう」

「何を、ですか」

 梶山少尉も煙草に火を点けた。

 そして椅子から立ち上がって窓を開ける。

 ここ数日は気温も高く、先程から汗ばんで仕方が無かった。

 開け放った窓から生温い風が吹き込み、それでも室内のよどんだ空気を入れ替えてはくれた。


「忘れたのか、我々は開発と実用化を目指すための実験部隊だぞ。装備や部隊強化も、それは全て職務の範疇に含まれる」

 それを聞いて梶山少尉は成る程なと思った。


 日本軍は一度正式採用された兵器に改良加えることは殆どしなかった。「恐れ多くも陛下から賜った兵器に、勝手な改良を加えることは許さん」とこんな調子だったからだ。

 だが試製一〇式は別だった。

 まだ正式採用前の段階でしかなく、何をしてもそれは試作で済んだ。だから装甲の強化も武装の充実も思いのまま行える。

 そこに梶山少尉は行幸を感じずには居られなかった。


「そうか、改良や改修ならなんら問題ない訳か」

 操縦者を守る為の強化策は幾らでも思い付く。中でも正面と側面の装甲強化なら、日を置かずして設計はできる。


「それだけではない」

 田実大尉は、なおも続けた。

「我々は歩機を完成させる為の実験部隊であり、その職務には戦術の確立も含まれている。拡大解釈すれば、歩機を補助する為の歩兵部隊も編成できる。しかも、四研|(陸軍第四研究所)の試作兵器の実験と称せば、歩兵の個人火器だって充実可能だ。まあどの道、決起部隊との戦をやらされるんだ。戦闘部隊として組織せんといかん訳だがな」


 梶山少尉は思い出していた。

 四研には試作兵器が数多く存在し、戦車のような大型兵器から、他研究所から持ち込まれた個人用の噴進砲や小銃などの小型兵器まで多岐に渡っていた。

 しかし、実験検証する為の技官の数は思いの他少なく、手伝いの依頼が絶えず実験中隊に届いていた。

 従って、実戦検証と称してそれを活用すれば、かなり装備を充実させられる筈だ。


「四研の技官とは懇意ですからね、彼等からの依頼という形にすれば、それ程問題ではない筈です」

 梶山少尉の声は思わず弾む。


「さらに通信設備の充実や装具の改良も含めて、我々にはやるべきことは沢山ある訳だ」

 梶山少尉は中隊長の発言に対して、素直に感心した。

 出動要請自体は不幸なことだが、それが覆せないのであれば、なんとか自分達に利する方向に持って行くしかない。


「前にも言ったろ。宮田等と渡り合うには、それ位出来ないとな」

 そう言って田実大尉は笑みを浮かべて見せた。

 それを見て梶山少尉は、苦しいながらも完全に状況が閉塞した訳ではない。やり様によっては何とかなるのではないかと言う気がし始めていた。


 そして、──持田達の遊びを止めさせないとな。と思う。

 だがそれは杞憂に違いない。

 歩機の改良と試作兵器の実験と聞いて、彼等技官や技術兵が大人しくしている筈がないことを確信していたからだ。

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