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第61話 決起部隊の戦闘 ── 撤収 ──

「ご苦労だった」

 機体を降りた佐々木と宮本の両軍曹に、勝ち戦だと言うのに相変わらず無表情な館脇少佐が出迎えた。


 すでに歩機には整備の兵が乗り込み、積載の為に牽引台車に向かっている。

 そして手空きの兵は負傷した兵と死体の回収に忙しく立ち回り、救護班は負傷した警察官にまで手当てをする余裕を見せ始めていた。


「おい、俺達を送り込んで無視かよ」

 そう言葉を発したのは護衛分隊を率いていた前田伍長。

 彼は負傷した仲間に肩を貸しながら、ゆっくりと近付く。

 その姿を見た館脇少佐は、口を真一文字に結び、無言のまま正対し続けた。


「なあ、労ってやってもいいのではないか。やつら相当働いぜ」

 佐々木軍曹がそう語りかけると、館脇少佐が大きな声でさえぎった。

「それは十分解っている」


 その場に居た誰もが同時に気が付いたことだが、館脇の大声は、聞いた覚えがなかった。

 もしかしたら決起部隊の面々で聞いたのは初めてかも知れない。

 だが、その大声の意味は計りかねた。

 だから聞いた各人は、以下のように思った。


 働きは理解している。

 だが、厳正忠実なる寺頭司令の副官として、前田伍長以下、護衛分隊が抗弁したのは許せない。

 戦いの前だから不問に帰したが、戦い終わって処断するつもりだ。


 そう誰もが思った。

 館脇少佐は手を後ろにした何時もの姿勢のまま、言葉を発した。

 それは、普段の館脇を知っている者には意外すぎる内容だった。


「諸君等の働きには敬服にあたいする。本当に良くやってくれた」

 そう礼を述べた。

 館脇少佐は戦闘に関して礼を述べない。

 これまでずっとそうだった。

 兵士は戦うのが本分で、それをするのが当たり前と思っているからだ。


 もちろん、戦闘が上手く行ったら評価はする。

 するのだけど、礼は言わない。

 評価と礼は別物として認識しているのだ。

 そういった独特の価値基準が、彼にはある。

 その彼が礼を言っている。

 あり得ないことだった。


 ──館脇の野郎が礼をいった!

 その場に居た誰もが一様に驚く。


 館脇少佐は威張り腐ったところは微塵も無いが、また必要以上に感情を表したり礼も述べたりはしない。

 それを知っている者は、彼の感謝が如何に高いかを感じ取っていた。


 そして、「貴官らの働きにより、共同戦闘の完成形が見えた。早速明日からでも草案を立ち上げて検討し、完成度を高めるつもだ」と続けた。

 あっけに取られている周囲の反応も待たず、館脇少佐は回れ右をする。

 そして大股で指揮装甲車の所へと戻って行った。


「あいつ、新しい構想とやらが浮かんだので、お礼を言ったんじゃないのかな」

 前田伍長がぽつりと感想を述べた。

 もちろんそれだけではないだろうが、そのつぶやきを聞いた一同は、──そうかも。と、思った。


 やがて護衛分隊の面々は怪我の治療に救護車に消えて行き、後には歩機操縦者の佐々木と宮本が残った。

 もう決起部隊は移動の準備をほぼ終え、後は駐屯地に戻るだけだった。


「また生き残ったなあ」

 車輌を待つ間、宮本軍曹が静かに言った。

「なんだ、死にたかったのか」

 煙草に火を点け、マッチを振り消した佐々木軍曹が返す。


「いや、そうでは無い。ただなあ」

「ただ、なんだよ」

「相変わらずやるせないんだよ。あいつか居ないこんな世に生き残っても、これがずっと続くかと思うと、なんて言うか、とにかく居たたまれないんだ」

 そんな台詞を聞いても、佐々木軍曹にはかけてやる言葉が見つからない。その間に宮本が続けた。


「だから思うんだ」

「何が」

「俺は、もしかしたら戦闘では死ねないんじゃないかってさ。こんな皮肉な運命を押し付けられたんだ。そうあっさり死んでしまったら、押し付けた奴、神様だか悪魔だかわからんが、そいつ。そいつだって意味が無いだろ。だからさ、お前は戦闘じゃ死ねないよと言われている気がする」

 それを語る宮本軍曹は寂しそうだった。


「そうか」

 佐々木にかける言葉がない。

 彼は知っているのだ。

 宮本の境遇を。

 大陸に戦争に行っている間に、彼、宮本は全てを失った。

 何もかも、家族も愛する人も、自分が培ってきた一切合切。それを失った。

 もう何も残っていない。

 あるのはこの身。そして戦闘技術だけ。

 それしかできない。


 だから聞いている佐々木は、ただ肯定するだけだった。

 吐き出された紫煙が夜風に舞い、まるで宮本の心のように千々に乱れ飛んでいった。


「すまんな、こんなこと言って」

 宮本軍曹が照れ笑いを浮かべる。

「別に構わんよ」

 二人は、迎えに来た小型の自動貨車に乗った。


「前進」

 館脇少佐が全員の乗車を確認した後、全車に号令を掛けた。


 隊列は移動を開始して、夜の闇に紛れるように走り去る。

 思想や心情は別にして、彼等決起部隊は勝利者だった。

 しかし、その場には苦痛にうめく警察部隊の残余が残されていた。一応、手当てが必要な者には処置が施されたが、彼等が救出されるまでに、まだ若干の時間を有していた。

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