第59話 決起部隊の戦闘 ── 市街地における軽戦車 ──
七式歩機二号機操縦者である宮本軍曹は、警察装甲歩兵のしぶとさに業を煮やす。
だから隠れていた路地から飛び出して歩機を路上に押し出した。
そして機体上部の九七式七・七ミリ車載機関を乱射。
その攻撃は警察の突入班を混乱に陥れた。
この機銃は固定式ではなく、操縦席から射撃桿で射撃方向を操作できる仕組みになっていた。
地響きと共に突如現れた鋼鉄の巨人の威力は凄まじく、その姿を見ただけで付近の警察官は浮き足立ち、重機関銃により撃ち竦められて一挙に戦力の空白地帯が生じた。
その隙を護衛分隊の前田伍長は逃さず、九六式軽機関銃を構えていた兵士数名に、「軽機の弾薬と土嚢数個を持って付いてこい」と怒鳴った。
そして射手の襟首を捕まえ、引き摺るようにして路上に踊り出た。
「ここで撃ち続けていろ」
前田伍長は、そういって射手を放り投げるようにして路上に置いた。
後から土嚢と弾薬箱を手にした兵士が続き、手にした物を積み重ねてその場に機関銃座を構築する。
たちまちにして、そこに拠点ができた。
さらに前田伍長は、機関短銃を乱射しつつ単身突撃し、建物の影に飛び込んでそこから応戦する。
その姿を見た七式歩機二号機の宮本軍曹が舌打ち。
「これじゃあ、どっちが支援か解らんだろうが」
何しろ前田伍長が最前線に飛び出して単独で戦い、その後ろで歩機が射撃しているような格好になっていた。
つまり護衛が前へ前へと突き進み、護られるべき歩機が慌ててあとを追って支援している。あべこべだった。
宮本軍曹は、そう愚痴りながら歩機を前面に押し出して前田伍長に近寄り、機体を屈めてから上部乗降扉を押し上げた。
「あほうが、あんまり前に出るなや」
顔を出した宮本軍曹が怒鳴った。つい方言が出た。
「うるせえ、戦いには機敏がある。仕方ねえだろうが」
前田伍長もそう怒鳴り返した。
戦いながら、二人は言い争う。
「何やってんだ、あいつ等」
前方に進出した二号機と前田を見て、七式歩機一号機の佐々木軍曹はそう一人言を述べた。
彼の一号機も同じ様に道路に飛び出し、路上の警察歩兵を押し返し始めていた。
だがその頃、後方には一輌の九四式軽装甲車が回り込んでいたことに気がついてない。
その装甲車は小回りの効く車体を生かし、路地裏からこっそりと決起部隊の後方に進出していたのだった。
装甲車の車長は、操縦者に突撃を指令する。
そして自分は銃塔内で九七式七・七ミリ車載重機関銃を乱射し続けた。
一号機の佐々木軍曹が猛然と近付く装甲車に気が付いたときには、至近距離から発射された銃弾が機体後面に集中していた。
「!」
攻撃の受けることの少ない機体後面は重量軽減のため装甲が薄く、砲撃による爆風と破片避け程度でしかない。そこに機関銃弾が集中し、薄い鋼板を貫通した。
佐々木軍曹はとっさに機体を横に向けるのが精一杯だった。
なおも銃弾が飛来し、装甲車が高速で突っ込んできた。
そして七式歩機と九四式軽装甲車は激突して金属音を鳴り響かせる。
歩機は大きくよろけはしたが、佐々木軍曹は機体を操作して何とか倒れるのを防いだ。
もう少し体勢が悪ければ、倒されていても不思議はなかった。
そして蹂躪攻撃を仕掛けてきた軽装甲車は衝突の衝撃で進路が大きく変化し、そのまま建物の外壁に激突して車体の一部をめり込ませて立ち往生した。
その隙を逃さず、佐々木軍曹は軽装甲車に砲弾を叩き込もうとした。
だけどそれができない。
動力腕が上手く動作せず、ゆっくりとしか動かなかった。
しかも挙動も不安定ときている。
先ほどの銃弾により腕動力系統が損傷したようだ。
九四式軽装甲車が突っ込んだ建物から離脱するのと、佐々木軍曹が機関銃で射撃を加えるのはほぼ同時だった。
九四式軽装甲車も装甲が薄く、高速銃弾なら十分に貫通する。
しかも歩機から背の低い車輌への銃撃は、装甲の薄い天頂部への攻撃となる。
したがって機関銃弾でも致命傷どころか破壊も可能だった。
だが軽装甲車が離脱に成功する。
致命的な銃弾を避けられた軽装甲車は、離脱して別の路地に消えて行った。
──ちっ、拙いことをしちまった。
これだから装甲車輌は始末に終えないと、佐々木軍曹は改めて思い知った。
中・重戦車は遠距離から歩機を破壊可能であるし、小・軽装甲車輌は、まるで歩兵のように路地のような隙間から進入してくる。
市街戦は、機甲戦力の組み合わせの有利さと歩機の汎用性を試すような戦いとなっていた。
「大丈夫か」
そう宮本軍曹が無線で呼びかけてきたときには、佐々木軍曹は襲撃から立ち直りかけていた。
「いや驚いた。あんなところに潜んでいるとは思わなかったからなあ、おかけで銃弾をしこたま浴びた」
佐々木軍曹はそうぐちる。
「佐々木、貴様が護衛隊を置いて一人進出するからそんなことになるんだ。それで損害はどうだ。後部からの攻撃、しかも至近距離だけに、まったく無事という訳には行くまい」
その無線を聞いた佐々木軍曹は、何抜かすと思った。
一人進出したのは宮本軍曹の方が先だからだ。
「先に飛び出したのは貴様の方じゃねえか」と言い返したあと、「それで機体の方だが、動力系が損傷したらしく腕の動きが遅い。しかも挙動も不安定だ。迅速な射撃は無理だ」と被害のほどを説明した。
「そうか、なら……」
宮本軍曹がそう言いかけた時、地響きと激しい射撃音が届く。
聞き覚えのあるその音は、警察部隊の九七式中戦車改二型のものだった。
戦闘が膠着し、状況打開のために新手を投入したものと予想された。
厄介な敵を、警察機甲部隊は、次から次へと送り出してくる。
戦車は路上に姿を表すと、その後方に九四式軽装甲車一輌を伴って増速しつつ近付いてきた。
「来るぞ。俺が行く」
返事を待たずに宮本軍曹の七式歩機二号機が飛び出す。
彼の見た所、全ての路地では警察部隊が圧倒していた。
味方である決起部隊はその圧力に押されて少数毎に退避し、屋上には僅かの兵が残ってはいるものの、それも制圧された地区では退避しているようだ。
歩機の存在している所では警察を押し返してはいるが、全体として決起部隊は半ば包囲されているに等しい。
でも、その結果にそれほどの悲壮感はない。
この状況は当初からの目論見でもあったからだ。
あくまでも決起部隊の目的は銀行の襲撃と離脱にある。
つまり、通常の戦闘とは違い、占領の長期化はもとより考慮外なのだった。
とはいえ警察部隊の跳梁を許せば撤退が難しくなる。
適度に打撃を与えつつ、それでありながら退避する流動性が決起部隊には求められていた。
したがって、遅退行動を取りつつ退避に移るのは前々からの約束事であり、現状で作戦が瓦解している訳ではない。
しかしそうは言っても、警察が活気付いているのは確かだった。
ここで対応を誤ると、警察部隊の追跡を振り切れない恐れもある。
しかも警察は、抵抗の中心的存在である歩機と支援の兵を攻撃重点と定め、粉砕しようとしているのは間違いなかった。
つまり佐々木軍曹と宮本軍曹に攻撃が集中している。




