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第58話 決起部隊の戦闘 ── 装甲突入武装捜査班 ──

 程なくして、潮が満ちるが如く警察部隊が押し寄せてきた。

 今度は銀行を包囲する形を採り、部隊を数個に別けて周囲から押し包むように、しかもゆっくりと進撃してきた。


 それから察するに後方から応援が到着したと思われた。

 事実、警察小銃隊の数が増えていた。このままいたずらに時間をかけると、もっと援軍が押し寄せるかも知れない。


 二機の七式歩機は揃って支道の脇に隠れる。

 もちろん専従歩兵の護衛隊も一緒だった。

 佐々木も宮本も護衛隊の兵士を踏まないように気を使いながら建物の影に身を潜ませ、戦車が進んでくるのを待っていた。


 そして寺図司令の乗車する指揮装甲車の中では、各班からの無線連絡が矢継ぎ早に到着していた。

 そのどれもが歩兵を先頭に、緩やかな散開隊形で警察部隊が進撃してくる様子を伝えている。

 中でも注目に値するのが、『装甲服を付けた警察歩兵』の報告だった。


「拙いですね」

 報告を聞いた館脇少佐の正直な感想だった。


 装甲服を付けた歩兵とは、胸部と腹部、そして顔面と言った急所を装甲で覆った警察の突入班のことだった。


 軍のように山野を駆け回る野戦主体の装備ではなく、市街地における車輌での移動が主な警察では、多少重量がかさんでも個人防護には積極的だった。

 また、軍のように人員が潤沢ではないことも影響していた。

 ここ近年の一部軍との抗争により人的被害が増大し、その対応策の一つが歩兵の装甲強化だった。


「多分、警察が最初の突入以後に無理をしなかったのは、彼等のような突入専門部隊の到着を待っていたのでしょう。これを先頭にじわじわと攻められたら、ちょっと厄介ですね」

 館脇少佐はそう分析する。


 先程まで建物の屋上に展開していた決起部隊は、今は配置換えを行い分散されている。以前のように集中するのは難しい体制だった。


「車輌を発進させよ」

 寺頭司令がそう言った。

「追跡させるのですか?」

「そうだ」

 館脇少佐なるほどと思った。


 自動貨車を数台急発進させれば、それに金品が積載されていると思う筈だ。

 もちろん警察が信用しなくても良い。

 確認の為にどうしても人数を裂くしかないからだ。

 そして各道路の辻々を監視している決起部隊の別働班と共同すれば、追跡の警察部隊を削ぐことを期待できる。


「やりましょう」

 館脇司令はそういってから車内に待機している伝令に二三の命令を言付けると、兵長は脱兎の如く飛び出し、やがて二台の自動貨車が急発進して行った。


「さて、どうなることやら」

 寺図司令は楽しそうに腕を組んだ。


 まもなく、屋上の監視班から後方の警察部隊に動きが生じ、走り去った自動貨車を追跡したとの報告があった。

 その数はおよそ二個分隊。

 まずまずの成果だった。

 その報告を寺頭司令が聞いている間にも警察の部隊は銀行に近付き、それまで散発的だった射撃が激しさを増していく。





「来るぞ」

 操縦席の宮本軍曹が身構える。


 目の前の道路上を銃弾が交差している。

 時折、手榴弾が炸裂し、爆薬や擲弾が破片を撒き散らしていた。

 やがて警察の小銃隊が道路上に姿を表し始めた。とは言ってもその身を曝す愚は犯さず、物陰からひたひたと押し寄せてくる感じだった。


 最初に応戦したのは前田伍長率いる護衛分隊だった。

 彼等は濃密な銃弾で敵を迎え撃ち、たちまちにして数人を倒す。

 が、その内の幾人かは、何事も無かったように立ち上がるとそのまま建物の影に退避した。中には腕を押さえている者も居たが、致命傷には程遠いように見えた。


「あれが装甲した兵隊か。思ったより厄介だな」

 護衛分隊員は、初めて対戦する装甲された警察の突入班に剣呑な物を感じていた。

 待ち伏せは相手に与える打撃が高いのに、それで思うような戦果が上がらなかったからだ。これでは先がやられるとの思いを強くした。


 また別所に現れた警察小銃隊の一団も同じ様な状況だった。

 その方面に決起部隊の銃弾が集中したが、やはり装甲された警察歩兵の突入班は持ちこたえた。

 やはり市街戦に特化した専門部隊だけのことはある。


「小銃擲弾と手榴弾を用意」

 そのように前田伍長が指示を出した。

「警察の突入班とやらもそう数は居ない筈だ。後のことは考えず、一番火力の高い武器で攻撃しろ」とも付け加えた。


 その間にも、各路地に展開している決起部隊と、浸透しつつある警察部隊との間に激しい銃撃戦が繰り広げられている。

 決起部隊は建物の屋上に狙撃兵を忍ばせては居るものの、警察部隊が広範囲に展開しているので、効果的な射撃ができないでいた。


 前田伍長と護衛分隊は、物陰に隠れた警察の突入班に向けて擲弾を発射し、また手榴弾で応戦していた。

 だが、警察部隊はしぶとく、中々致命傷を負わせられない。


 これが警察部隊の特徴だった。

 近年では装甲車輌を装備してはいるが、それは武装犯罪における打撃力であり、捜査における建築物への突入に必ずしも使用できるものではない。

 建物内部などの狭く入り組んだ場所での武装捜査では、警察歩兵である小銃隊に装甲させて活用していた。


 彼らはこれを、『装甲突入武装捜査班』と呼んだ。

 だがその呼称は少々長いので、現場では、『装甲班』と呼んで、そちらの方が一般的だった。


 このように、警察官を局所的な打撃突破能力として使用するのには伝統がある。

 明治一〇年|(西暦一八七七年)の西南の役がまさにそうだった。

 不平士族|(幕藩体制時代に武士階級だった者。正規兵)の薩摩軍と明治政府の正規兵が戦った際に、その最大の激戦地である田原坂の攻防において、敵陣に切り込む警察抜刀隊が雌雄を決した。


 始めは、「白刃を振り下せば骨を絶つ」と恐れられた薩摩示現流の使い手で構成された薩摩軍が戦場を駆け巡った。

 それに立ちはだかったのが警察抜刀隊だった。

 彼らもまた幕藩体制下で士族だった者で構成され、戊辰戦争時には賊軍側|(旧幕臣)であったり元新撰組隊士も所属していたという。

 つまり、薩摩軍に対して怨みがあった者が多い。


 彼ら警察抜刀隊は凄まじい破壊力を見せた。

 日ノ本最強と自他共に恐れられた薩軍抜刀隊を打ち破り、白刃を煌かせて陣地を突破して政府軍側勝利の礎を築いた。

 何しろ彼ら警察抜刀隊の戦いぶりは、「銃弾を数発喰らっても、即死でない限りは絶対に倒せない」と言わしめた程であった。


 これを軍事的に見ると、非装甲の打撃・突破戦力であると位置付けられ、その威力は今日で言うところの装甲部隊とまるで同じだった。

 その突入兵力に装甲を化すのは至極当然の流れともいえたのだった。

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