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第57話 決起部隊の戦闘 ── 歩機専従班編制 ──

 館脇は言う、「護衛隊に、その任に就いてもらいます」

 護衛隊とは、寺図司令が暗に指定した連中のことだ。


「やつ等か、俺が話しをつけようか?」

「それには及びません」

 館脇少佐がぴしゃりと断わる。

 寺頭司令がはなじろぎ、それで話は終いだった。

 警察部隊が当初の混乱から抜け出し、体制を組み直す頃合だった。


 館脇少佐は指揮車を出る。

 そして周囲に待機していた護衛の兵を呼び集めた。


 集められた彼らは、二個分隊の兵力ながら四丁の九六式軽機を有し、全員が百式機関短銃を装備して寺頭の親衛隊のような役目があった。

 それだけに火力だけでなく能力も高く、また気性も荒かった。


 さらに、少し紀律がゆるいと言うか、はみ出し者の集まりとも言え、その為に編成に組み込めずに放置していると言っても過言ではなかった。

 それでも寺頭司令はこのような兵隊達であっても咎めず、身近で護衛するのを放任していた。


「諸君らは司令の護衛を離れ、歩機の支援にあたってくれ」

 集合する兵士達にそう指示を与えると、護衛分隊の伍長が進み出た。

 彼がこの集団の指揮官だった。


「副官殿よ、それは構わんが、俺たちを送り出したあと、閣下の護衛は誰がすんだ」と聞いた。

 彼ら護衛隊は寺頭司令の為だけに働いているとの自負が強く、直接の指示以外では動こうとはしなかった。したがって館脇少佐のような副官からの指示さえも不服と感じている。

「誰もしない」

 そう冷静に言い放つ少佐の態度が、護衛分隊の癪に障ったらしい。


「俺達が護衛せずに、誰が閣下を御守するんだ。馬鹿か貴様」

 そう見下しながら言葉を放つ兵士の顔を見つめつつも、館脇少佐は顔の表情一つとして変えなかった。


「司令の護衛などいらん。必要もない」

 館脇は、始終一貫して態度を変えない。声色も同じだ。

 それが伍長の感に障る。

「話にならん、帰れ」

 そう怒鳴る。


 館脇、ため息一つ。

 初めて感情らしき物を、その息に乗せる。

 呆れたと言わんばかりに。

 そして言う。


「うん、随分と威勢がいいな、階級なぞ歯牙にもかけないと言った所か。俺はそんなの気にしないから構わんが、しかしなあ、お前達は何の為にここに居る。戦闘に参加もせず、指示にも従わない。それでいながら、なぜ決起に参加した。戦いが怖いのなら、武器を置いて駐屯地に帰れ」そこで言葉を切った。

 そして、「はっきり言おう。お前らな、じゃまなんだよ」と、見下しながら言う。


 それを聞いた護衛分隊の兵士達は、皆、殺気立つ。

 護衛分隊の面々は、他とは一線を隔した強者と自負している。

 それであるのにいらんと言われたのだ。

 幾人かは機関短銃に手をかけた。


「じゃまとは、随分な言い草だな」

 その伍長の言葉に、館脇少佐は冷笑をたたえて返す。


「他の兵士は戦っている。必死に、死に物狂いで戦っている。それであるのに、お前らは何もしない。司令の護衛と称して動かない。何もしない兵士が存在することなぞ、他の兵士の士気にもかかわる。それだけに居るだけでじゃまだ。寺頭閣下がそんなのを本気で喜んでいると思っているのか。甘やかされて図に乗るんじゃない。もし喜ばれたいのなら、戦って来い。決起部隊の兵士は死ぬのも本分だ」

 そう言われた。


 伍長は言われて腹が立つ。

 無性に腹が立った。

 だから睨む。

 だけど言い返せなかった。

 それは正論だからと言うよりも、他の兵士が必死に戦っていることに思い至ったからだ。


 先ほどの戦闘で、彼ら決起部隊の兵士は死に物狂いで銃を撃ち、手榴弾を投げ、そして死んでゆく。

 国の戦争の為ではなく、己の為にその血を流している。

 それは自分たちをこの境遇に追いやった、何か。それに向かって銃を撃って戦っている。

 それを思うと、じゃまと言われて当然だと思い直した。

 悔しいが、その通りだった。


 伍長は暫く睨みつけて居たものの、やがて舌打ち混じりに承諾した。

「分かったよ。今回ばかりは閣下の為に作戦に参加してやる。歩機の護衛で良いんだな」

「そうだ。こんな荒療治を頼めるのは、貴様達位なものだからな」


 その館脇少佐の言葉にに返事もせず、伍長は分隊員に対してあごで指示した。

 そして去り際に、「なあ、一つ聞くが、その頼める理由ってのは、俺達が死んでも惜しくないからか」と尋ねた。


「そうだ」

 館脇少佐は短く言い切った。

「けっ」

 舌打ちを返事の代わりにして、こんな奴との問答は御免だとばかりに、護衛分隊の面々と伍長は七式歩機へと向かっていった。





「おい、護衛隊の連中が来るとさ」

 操縦席で無線を受け取った佐々木軍曹が、今し方、無線の内容を僚機の宮本軍曹にそう伝えた。


 七式歩機の乗降口は胴体の胸部分にある。上に跳ね上げるようにして開き、そこから出入りする。一号機と二号機は並んで待機し、両機とも扉を上げて互いの顔を見えるようにしていた。


報告を受けた宮本軍曹は乗降口から半身を乗り出し、煙草を燻らせつつ散発的な戦闘の音に聞き耳を立てている最中だった。

「奴等かあ。有り難いのやら迷惑やら、どっちか分からん連中だな」

 宮本軍曹は煙と共にその台詞を吐き出した。

 護衛隊の感想を漏らす時、決起部隊の面々は大抵ため息と一緒の場合が多い。


「おい来たぞ」

 それが護衛分隊伍長の第一声だった。

「それが挨拶か。まったく知らぬ間ではないが、名前くらい名乗ったらどうだ」

 佐々木軍曹がそうたしなめると、伍長は仕方ないと言った風情で、機上の二人を見上げながら敬礼した。


「護衛分隊の前田堅持伍長だ。部下の挨拶は良いだろう?」

「ご苦労。頭上からすまんが、自分は佐々木進軍曹。向こうの二号機は宮本幸一軍曹だ。よろしく頼む」

 僚機の宮本は、くわえ煙草のまま返礼し、「何しに来た」と尋ねた。


「副官の野郎がお前等を支援しろとよ。で、何をすればいい」

 護衛部隊は荒っぽいし、勝手気ままで有難迷惑と言えなくもない。

 現に、分隊員は紀律とは無縁といった雰囲気で歩機の周囲をたむろしている。

 とは言え、それでありながら戦闘能力が高いのは知られている。手空きも少ないことから、多少の癖は致し方がないといった所だろう。


「その副官の指示する所では、七式に敵の小銃隊、つまり警察歩兵を近付けさせるなと言うことらしい」

 佐々木軍曹がそう伝えると、前田伍長は拍子抜けしたといった表情をして見せた。


「随分と楽な仕事だな。俺達を怒らせてまで送り出したのだから、てっきり単独で敵の指揮所を襲え位は言われると思ったが、本当に支援だけなんだな。それなら他の新兵でも勤まりそうな物だが」

「楽かどうか分からんよ」

 宮本軍曹が煙草を投げ捨てながらいった。護衛分隊の視線が彼に集中した。


「警察の奴等は、俺達、つまり歩機の排除に全力を挙げて挑んでくるだろう。当然、七式が健在である限り、検挙も何も出来んからな」

 そういって機体を叩いて見せた。


「それがどんな意味を持つが分かるか?」

 佐々木軍曹が後を引き取って続ける。

「持てる戦力の全てを二機、いや、もしかしたら歩機一機に集中するかも知れない。一機倒せば、残りは戦車と刺し違えたっていいと考えるだろうな。それが成功すれば、歩兵同士の戦闘なら警察の方が救援を呼べるだけ有利に展開する可能性は大きい」


 話がその段にまで及ぶと、真剣見の薄かった前田伍長の表情が一変し、真顔になって歩機を見つめて考え込んだ。

「そうか、成功の如何は歩機が無事で居られるかどうか、その一点にかかっているといって過言じゃない訳か……」


 前田伍長はそう呟いた後、決意を秘めた表情で顔を上げた。

「よし、分かった。命令を受領し、その意図する所は了解した。我々護衛分隊は、歩機に何人たりとも近付けはしない。全力でもって徹底的に排除する。それで良いな」


 佐々木と宮本は、その言葉を聞いて、──なるほどな。と思った。

 ただの暴力馬鹿ではなさそうだった。

 寺頭司令がそのままにして置く訳だと。


「ただし、我々が抑えられる敵戦力は最大で二個小隊までだ。それ以上の敵が襲ってきた場合、後は運次第だな」

 前田伍長は最後にそう結んだ。


「それで構わんさ。頼んだぜ」

 宮本軍曹はそう答えて機体内へと戻り、乗降扉を閉める。

 そして護衛の兵も二手に分かれ、それぞれが歩機に付き従う行動を見せた。


 操縦席に戻った佐々木軍曹は無線を開き、館脇少佐に準備が整ったことを知らせた。

 後は、こちらに殺到してくる警察部隊をなんとか食い止めるだけだった。

 それを考えると、今夜の決起ではじめての武者震いに襲われた。

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