第54話 決起部隊の戦闘 ── 警察部隊との戦闘 ──
突如、銀行の入り口付近から警察隊に対して射撃が開始され、擲弾筒が数発発射された。銀行内部に残った陽動班の攻撃だった。
小銃を手にした警察官は下車するとそのまま建物の陰に隠れ、直ちに応戦する。
そして警察の指揮官と小隊長とおぼしき面々は、戦車の陰で何事かを相談し、伝令が慌しく駆けていった。
やがて、細部の調整が終わった小隊長と指揮官も散り、それぞれの持ち場へと戻る。
──さて、どう動くかな。
館脇少佐の見た所、警察の機動部隊は無理攻めを避けて慎重に行動している。
勢いに任せて突入してくれれば楽に戦えるのだが、そう甘い相手ではなさそうだった。
決起部隊の見つめる前で、警察の九四式装甲車二輌と九七式中戦車改二型一輌が方向を転化し、警察歩兵二個小隊を率いて他方面へと移動を開始した。
その意味するところは、挟撃の為に別方面へと向かうものと思われた。
そして残りの兵力は、そのまま銀行に続く道路の入り口付近に集結し始めた。
その間も、銀行を占拠する決起部隊との散発的な射撃戦は続き、やがて他方からも射撃は開始された。
それを受けて、装甲車と戦車を伴った警察歩兵部隊が動き始めた。
先頭を行く九七式中戦車改二型は、戦車砲を決起部隊に向けて対人対物用砲弾である榴弾を発射した。
続く装甲車も車載機関銃での射撃を開始する。
そうして、それまでの散発的な射撃が一気に激しいものになっていった。
その間、警察の小銃隊は前進して路地の敵を制圧しつつ、全体がじりじりと銀行に近付く。そういった動きになっていた。
つまり警察各部隊は連動できている。
そのよどみのなさ。
練度の高さが見て取れる。
だが館脇少佐は各隊に射撃を控えさていた。
同時に、速射砲一門と歩兵二個分隊を警察の別働隊に差し向けた。
その部隊ならば撃退とまでは行かずともかなりの時間にわたり敵を拘束し、意図を挫くことにはなる筈だった。
その間、銀行に続く本道での戦闘は激しさを増し、全体の勢いが警察部隊に移りつつある。
だがこれでいいと館脇少佐は思っていた。
抵抗を手控えて敵を引き込むのは当初からの狙いだからだ。
その目論見通り警察縦隊は前後に長くなり、挟撃部隊の迂回を待たずして切り込んできていた。
館脇少佐は警察部隊本体の進捗を見て、行動するのは今だと判断。
「屋上班、雪崩を起こせ。繰り返す、雪崩を起こせ」
そう指示する。
雪崩は暗号だった。
それは予め道路上に埋められていた爆薬を発火させ、同時に屋上から銃撃を加える合図だった。
突如、警察の進撃する路上が激しい爆破に包まれ、土砂と火炎が高く吹き上がった。そして屋上や建物の窓から激しい銃撃が加えられると、警察歩兵の各兵士は悲鳴を上げながら次々と絶命して行った。
頭上から撃ち下ろされる銃弾は、警官達にとって悪夢だったに違いない。
防ぐ事もできず、ただその身を的にしているに等しかった。
警察機甲部隊、その装甲車輌の車長達は、外の見え難い車内で外界の変化に戸惑っていた。何しろ周囲は爆発の煙と土埃で視界を遮られ、只でさえ狭い視界がより悪くなっているからだ。
車輌の射手が砲塔を巡らし、屋上の敵めがけて銃を向けて応戦しようとするが仰角が足りない。真上の敵は撃てないのだった。
「仰角が足りん。上が狙えん」
「前へ、前へ急げ」
同様の指示が各車両の中でこだまする。
それは外の喧騒と相まって悲鳴の様に聞こえた。
とにかく車輌は前進を開始した。
逃げる為ではない。
その場を離れ、少しでも水平面からの上を狙う角度を浅くする為だ。
とにかくこのままでは反撃もままならない。
砂埃の中から飛び出した車輌は、ぐるっと旋回すると屋上の敵に対して機関銃と戦車砲弾の射撃を加え、その反撃でもって小銃隊に待避の間を与えた。
気が付くと警察歩兵と装甲車輌は分離され、互いの連携が出来ないでいた。
この状況を館脇少佐は見逃さなかった。
今このときが戦いの要衝、その要。
彼はこの状況を創り出すために、指揮を執っていた。
最大の火力を誇る警察の装甲部隊は、小銃隊の支援のために忙殺されていると見て間違いなかった。
館脇少佐は無線の受話器を握り、「カカリ」と指令を下した。
カカリとは、古いマタギなどを有する山岳民族の極一部地方でのみ使われる言葉で、狩りの開始を告げる掛け声だった。
それが符丁、攻撃の合図。
突入指示を受けた二機の七式装甲歩機は待機していた路地から飛び出し、四七ミリ自動砲を構えて通りの装甲車に狙いを定め、そして発射した。
一輌は発動機付近に着弾して直ちに火を吹き、もう一輌は高速徹甲弾が車体を貫通したもののまだ乗員は生きていた。
その車輌は現れた歩機に対して機銃を向け、最後の抵抗とも思える射撃を加えたが、車載の機関銃で歩機に立ち向かうのは無理があった。
やがてその車輌も二発目の砲弾を受けて沈黙した。
二機の七式歩機は、現れたのと同じように素早く路地へと待避する。
その後を追うように九七式中戦車改二型の戦車砲弾が飛来し、建物の壁面で炸裂した。砲弾は対人対物用の榴弾だった。
本来、装甲目標には、炸裂しない徹甲弾を撃ち込むものだ。
だが、戦車の乗員は歩機に対して炸裂する榴弾を使用した。
衝撃と破片で損害を与えようと狙っているのだろう。
そういった戦い方もある。
歩機一号機の佐々木軍曹は戦車の背後に回り込むべく歩機を横道に入れ、僚機に無線で戦車の足止めを依頼した。
「ああ、それは了解した。だが、さっさとしろよ、別動隊の動きも気になるからな」
宮本軍曹はそのように軽く引き受けた。
細い裏路地に歩機を潜り込ませた佐々木軍曹は、たちまちの内に戦車の後方に回り込むことに成功した。
そして建物の陰から機体を僅かに覗かせて様子を窺うと、戦車は歩機二号機との戦闘で後方が疎かになリ、警戒している様子は皆無だった。
その戦車目掛けて砲を構え、発射した。
砲弾は車体後部の発動機室付近に命中し、装甲に孔が空いた。
立て続けにもう一発を撃ち込む。
命中した車体後部から黒煙を吐いた。だが、火災も爆発も起こらず、発動機だけを破壊したに留まったらしい。
戦車はそれでもなおも、砲塔を巡らせて射撃を加えようとしていた。
佐々木軍曹はためらうことなく、次砲弾を撃ちこんだ。
つんざくような鋭い音と共に、十分な手応えを感じる。
がくんと挙動を停止させた戦車から一層濃い黒煙が激しく吹き出し、乗降口から転がり出るようにして乗員が飛び出してきた。
単なる鉄になった戦車から激しく火炎が立ち昇り、内部では小規模の爆発が起こっていた。




