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第50話 決起部隊の戦闘 ── 七式歩機 ──

 起立した七式歩機はそのまま路面へと降り立つ。

 そして各部の異常確認が終わると、携行火器を搭載した自動貨車から砲と弾薬を受領した。


 七式歩機の主武装は固定ではなく、試製一〇式歩機と同じく任務に応じて組み合わせることができた。

 今回の出撃では一式戦車砲を改造した自動装填の六式四七ミリ自動砲を動力腕に持ち、胴体上部には、機体内部から遠隔操作が可能な九七式7・7ミリ車載機関銃を装備している。


 七式歩機の全高は試製一〇式に比べて若干低いものの、戦訓により大小様々な改良を加えられ、試作兵器よりも数倍頼もしい姿をしている。

 それが街灯の光を煽り受け、その陰影のはっきりとした姿がより一層の力強さ表現していた。


 そして外形的な特徴として、七式歩機には自動砲支持架が備わっている。

 胴体部左右側面から二本の鉄棒が伸びて機体前面で頂点を結び、そこに自動砲を載せて運用する。

 端的にいえば、機関銃の三脚架を胴体部前面に取り付けてそこに自動砲を設置し、砲の重量を機体全体で分散吸収する仕組みになっていた。


 なぜこのような形式を採用したか。

 七式歩機には六式自動砲は少々大きく、そして重かったからだ。


 もちろん動力腕だけの操作も可能ではあるが、それでは砲の取り回し速度が遅くなり、戦地での使用に不満が表面化していた。ゆっくりと狙うには支障ないが、移動目標の追尾には難が生じるのである。


 その改善策が、機体に取り付ける支持架だった。

 これなら動力腕で素早い操行が可能になる。今夜終結した決起部隊の七式にも、それは備えられていた。


「戦闘準備が完了致しました、行動に移って宜しいでしょうか」

 館脇少佐が進捗を見計らって報告する。

 それを受けて寺頭司令は、「構わんが、貴様はもそっと肩の力を抜け」と苦笑交じりに言う。

 このやり取りは、いつものことだった。


「私はこれが普通です。いまさら変えられません」

 館脇少佐は手を後ろに組み、殆ど視線すら動かさずに答える。


 別に二人はいがみ合っている訳ではない。

 これで寺頭司令は副官を高く評価し、また館脇少佐は司令に絶対の信頼を置いていた。ただ、ほんの少し個性的な二人なだけに、ちぐはぐな応対が目立った。


「歩機を計画に従い攻撃発揮位置まで移動。その後、別名あるまで待機」

 そのように館脇少佐が指示を伝える。

 佐々木軍曹の七式歩機一号機が大きな建物の前に立ち、宮本軍曹の二号機はその補助として道路の交点に位置する。


 七式歩機の前にそびえ立つ建物は、大理石の外壁で化粧された豪華な造りの立派な建物だった。

 その入り口。

 両開きの大きな青銅の扉の上には、仰々しくも『銀行』の看板が掲げられていた。


「やれ」

 準備を見届けた寺頭司令が、そう短く指示を下す。

 館脇少佐の脇に控えている通信兵が受音機に向かって行動開始を通達した。


 操縦者の佐々木軍曹からの返答と、七式歩機一号機が行動するのは同時だった。

 それを端で見ていると、まるで鋼鉄の巨人が自分の意志で行動しているかに見える。もちろんそれは錯覚なのだが、他の兵器や乗り物ではその様な錯覚は起き難い。


 そして七式歩機は、六式四七ミリ自動砲をその動力腕で構えると、銀行の扉に照準を合わせた。

 そして発射。

 至近距離からの発射と着弾は一つの轟音に聞こえた。


 触発信管は扉を貫通することなく表面で炸裂し、衝撃は扉を内側に曲げ、中央に穿孔を生じさせた。

 直後、自動砲の鎖栓が開き、薬莢を排出して次弾が装填という動作になる。

 そして真鍮の薬莢が地面を転がると同時に、操縦者である佐々木軍曹はすかさず左動力腕を扉に生じた破孔にねじ込む。


 そして扉を力任せに引く。

 砲撃で歪んだその扉、その蝶番は負荷に耐えきれず、簡単に外壁ごと崩れ落ち、扉は轟音と共に崩れ落ちた。


 待機していた兵士達が溶接器や爆薬を手に持ち、こじ開けられた入り口から駆け足で銀行内に侵入する。

 その見事なまでの流れる動き。

 どの兵士も自分のなすべき事を粛々と行う。

 この連動力の見事さ。

 とてつもなく高い練度であることを物語っている。


 そして突入した兵士達は、そのまま奥へ突き進むと鉄格子を切断して金庫の外壁を爆破した。


「成功。我、開鍵に成功せり」

 無線からその様に報告を受けた寺頭司令は、行動を開始してから初めて笑みを浮かべ、腕を組んだ姿勢で大きく何度も頷いてみせた。


「手際が良いな」

「何度も反復練習しましたから当然でしょう」

 そのように語る館脇少佐の返答には面白味がない。


 今日の作業進捗が滞りないのは、日々の訓練の賜物であることくらいこの場の誰もが承知している。

 ここで言わなくてはいけないのは、労いの言葉だ。

 部下が頑張っている、そして支障なく作業をしている彼らへの労いだ。


 差し障りのないことなら訓練が実って良かったとか、何か気になる要点の一つか二つ。それを指摘すること。

 さらには現場を見てきた者だけが持つ含蓄のある内容。

 ここで必要なのはそういった言葉だ。


 だが寺頭司令は、だいぶ以前から、この男、副官の館脇少佐に対してその様な能力を求めないことにしていた。

 実務は完璧だが、労りの言葉が少ない。

 寺頭司令は少しうつむき、苦笑しつつ首を左右にふる。

 ──こいつに、そんな能力を求めても無駄だ。 

 そんなあきらめがにじみ出ていた。


「搬出班前へ」

 そんな指揮官達の想いとは裏腹に台車が次々と金庫前に集結し、現金に還元できる物は何もかも搬出されて行く。

 そして路上待機している自動貨車に積載されていった。


 やがて一切合切が運び出されると、その総量は車三台分に達していた。

 手の空いた者達は、皆、その成果を見つめ、淡々とこなしてきた仕事の大きさを噛みしめつつ、出発の時を今や遅しと待ちかまえていた。


 その頃にもなると、誰が命令するでもなく防塵眼鏡を外して首から下げている者が多くなった。中には顔面の被いを外して素顔を晒している兵士もいる。

 どの顔にも大きな仕事をやり終えた満足感と充足感に満ち、勝利を疑う者は居ない。自分たちは勝者なのだと確信している。


 と、その時である。

 無線に緊急を示す信号が飛び込んでくる。

「警報、警報」

 その緊迫した声。

 それはそれを聞く兵士の表情を一変させるに足るものだった。

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