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第49話 決起部隊の戦闘 ── 蜂起 ──

 そして列の一人一人を順に見渡し、しばらくそうして無言のまま過ごした。

 どれ程の時間が過ぎただろうか。皆の精神が不安定になりかけた頃、司令はようやく口を開いた。


「周囲を見てみろ」

 まず、そう言った。


「周囲を。この繁栄っぷりはなんだ」と、まずそう静かに切り出した。

 隊員達は見る。

 周囲の光景を。

 頭を巡らせ、周囲を見渡す。


 そこは街灯に照らされた銀座。

 その一等地。

 いまは深夜で企業の建物は灯りが落ちている。

 だから黒々とそびえ立ってはいるものの、その偉容は見て取れる。


 大きい建築物ほど、ここ数年に新建築されたものばかりだ。

 どの企業にも金を持てあまし、そういった風情を隠そうともしていない。

 それが周囲に広がっている。

 それを兵士達は見回した。


 寺頭司令は、再確認したあとに同じ事を再び言った。

「ずいぶんな繁栄っぷりじゃあないか」

 それから隊員達を見て、少し微笑む。


「稼いだんだろうな。いや、今このときも稼いでいるか。せっせと片時も休むことなく、いまこの時も休まずに地方の工場は稼働して、工員を使役して稼いでいるんだろうな」

 それからしばらくの間を開け、「しこたま儲けたんだろうな、我々血で」と言った。


 寺頭はまるで語るかのようにして、言葉を続ける。

「我々は国の命令で戦った。それを取りあえずは、まあいいとしよう。国軍兵士であるのだから、それは当然だ。むろん、私はいい。志願兵だし、士官学校にいき、幹部になるための教育を受けた。だから国の命令には従う」


 そして居並ぶ兵士たちに視線を這わせながら、なおも続ける。

「でも一般兵士の諸君はどうだ。志願した者も居ただろうが、大半が徴兵され、否応なく訓練させられ、そして外地に送られて、そこで戦った。それは誰がさせた」

 寺頭は聞く。

 でも答えを期待しての質問ではない。


「国だ」

 そこで再び言葉を切る。

 そして視線を鋭くして、続ける。

「国だよな、国がそうさせた。家族と引き離され、中には唯一の男手、一家の大黒柱の者も居ただろう。でも国が命令するから、国がそうしろと言うから、国民の責務として兵士になり、外地におもむいて死んでゆく。そのことごとくは国が命令したからだ。好きこのんで自分からそんなことを望む者など、それほど多くはない」

 寺頭の語尾が強くなり始める。


「でもだ、でもである。この国は和平を選んだ。それはいい。とても良い選択だと個人的には考える。私の同期には反対する者も多いけどな」

 その部分で、兵士の間から少しだけ笑いが漏れた。

 軍高官の大半が和平には反対で、寺頭のような和平賛成派はごくごく少数だった。

 それで笑いが漏れた。


「だが」

 寺頭の口調が、突如重くなる。

「政治家どもは和平のめたに生け贄を必要とした。欧米列強とただ和平はできない。弱味を見せて和平に飛びついては足元を見られるからな。だから政府の方針ではなく、戦域を拡大させた張本人が必要となったわけだ。そういった流れにした。それは政治家と役人がその絵を描いた。そしてその生け贄を、連中は、政治家と役人は求めた。そして、それは」


 寺頭司令は、それこで手を握る。

 ぎゅっと握って、その中に怒りを固める。

 そんな仕草をした。

 そして、解を発する。


「我々だ」

 さらに重く口を開く。

「我々を生け贄にした」


「諸君に告ぐ」

 寺頭司令は、それまでの語りかける口調から、弁論調に変えた。

 そして一気にまくし立てた。

「あの不名誉な国策の決定から約一〇年が過ぎた。我々は悪者にされ、不名誉なまま煮え湯を飲まされ続けてきた。裏切り、欺いた政治家供は、我々を指して国家を危機に陥れる元凶と罵った。国を戦争に引きずり込む、厄災であると。和平の障害であると、そう言い切ったのだ。どの口がそれを言うのかっ。連中の不始末を、健気な兵士が血で購ってきたではないか。それを、それを忘れて、無視して、どの口が言うか。それを覆そうと訴え、不正を正そうと立ち上がった同士達も、次々と獄内で無念の死を遂げた」


 整列している兵士達は、皆、咳一つせず司令の言葉に静かに耳を傾けていた。

 やがて声が大きくなり、太さを増していく。


「志を同じくした者達の多くが死に、変わりに、薄汚い政治家と官僚、企業家が生き残った。我々が泥と血に塗れて得た成果を、奴等は口先だけで掠め盗っていく。誠実を装い、甘言で騙し、労せずして蜜を受け取るのを当然と思い込んでいる。そして我々を生け贄にした。厚顔無恥な連中は、それを当然と疑わない。それがどれだけ我々を踏みにじる行為か気づいてさえ無い。だからそれを思い出させてやる。連中に、決して忘れられないように、永遠に記憶に残るように、脳裏に刻みつけてやる。それをするのは他の誰でもない、我々がだ」


 寺頭は隊員たちを見る。

 彼らを見渡す。

 全員に視線を這わす。

 そして続ける。


「兵士よ、兵士達よ。熱砂も、吹雪も、そして果てしなき荒野も踏破し、飢えと疫病に震えつつ幾多の激戦に生き残った強者達よ。私は約束する。国の為に戦った諸君らを、中央の者供のように見捨てやしない。絶対に、何かあろうと見捨てやしない。繁栄の最大の功労者は、諸君と物言わぬ骸となった戦友、そしてそれに必死に耐えている家族達だ。故郷で健気にも織り出してくれた、肉親達。彼らの苦労を、政治家は無かったこととしたのだ。こんなことが、こんなことが許されるはずがない。断じてない。本来酬いられるべき我々が、奪い去った奴らから失った物を取り戻すのに、何のためらいが居るだろうか。その為の作戦が、今夜我々の手で決行される。諸君らには志同じくする同士の先兵として、獅子奮迅の活躍を期待する。中央の者供に、我々の一撃を見せつけるのだ」


 最後の決意をのべるとき、寺頭司令は、一際、声を大きくした。

 彼は怒りをその声に乗せた。

 そしたそれは伝播する。

 聞いている者達に伝わる。


 その訓示が終わると同時に、誰からともなく「万歳」の掛け声が立ち上がり、やがて全員の大合唱となった。

 その光景には、鉄面皮と揶揄される館脇少佐も静かに、そして深く興奮せずには居られなかった。


「後を頼む」

 語るべきを語った寺図司令は、館脇少佐に後を託して用意された椅子にどっかりと座り込む。そして腕を組んで瞑想を始めた。


 館脇は事務的に解散を指示し、その彼の声色、姿勢、雰囲気の全てが、熱に浮かされた集団に冷静さを取り戻すきっかけとなった。


 そして、兵士達も慣れた様子でそれぞれの持ち場へと散り、牽引された速射砲は路地へと姿を消し、土嚢は路上にうず高く積まれて忽ちにして防護壁を形成し、建物の屋上には機関銃が設置された。


 その動きには淀みがなく、それは計画が周到に用意され、抜かり無く準備が成されている事を物語っていた。


 その喧騒の中心、より多くの兵士が集合する輪の中に、二機の大型牽引貨車があった。

 荷台の被いを数人掛で取り去ると、中には装甲歩行機が仰向けの姿勢で積載されている。

 それは昭和二二年に制式採用された七式装甲歩行機で、実験中隊が試作開発している試製一〇式の前の型だった。


 数人の兵士が荷台によじ登り、始動棒を歩機背面にある二機の発動機に先端を差し込むと、整備班長が右手を高々と上げた。


「始動始め」

 号令と共に次々と発動機が始動し、回転の安定と共に排気煙が濃い灰色から薄い紫色に変化して行く。


「始動完了」

 そのかけ声が響き渡ると、今度は二名の操縦士が皮製の防護帽と防塵眼鏡を被り、手袋を填めながら七式歩機に近付いていった。


 一号機の操縦者は佐々木進軍曹、二号機は宮本幸一軍曹といい、互いに俺お前と言い合う間柄だった。

 両名は歩機が軍に制式採用された初期段階から運用している、いわば歩機操縦の達人であり、彼らはさまざまな局面を歩機によって打開してきた。


「乗車準備完了」

 機体付きの整備兵が報告すると、操縦者は労いの言葉をかけてそれぞれの歩機へと乗り込んだ。

 整備兵の手により命を吹き込まれた七式歩機は、今度は操縦者の手によって戦闘兵器へと変貌する。

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