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第38話 実演開始当日 ── 夜間の部・対戦車戦闘要目 ──

「収束手榴弾、地雷の運用、穿孔爆薬の刺突、梱包爆薬の設置……」

 戦車に対する肉薄戦闘の要目を声に出してみた。


「そうだ。それらを生身でやるから危険極まりないが、歩機ならそうではない。銃弾を物ともしないし、砲撃だって直撃しなければ大丈夫だ。歩機の開発の意図にはな、歩兵に成り代わって挺身攻撃が出来るように作られているんだ。つまり歩兵のできることはなんでも出来るよう設計されている。確かに戦車は恐ろしい強敵で、こちらの戦う意欲すら喪失させてしまう。だが歩機なら対抗できる。それができる。だから俺は是非ともそいつを完成させたい」


「でも、いま言ったような機材は殆どありません。辛うじてある物と言えば梱包爆薬程度ですが」

「機材は何とかなる。いま携行している武器は、増加装甲で威力を無効にされるだけで、何も役に立たない訳ではない。矛盾するようだが、効力を発揮できるようにすれば良いんだ」


 そこまで言われても、若い河嶋兵長には具体的な方法が思い付かなかった。無理もない。操縦の腕が天才的とは言え、まだ実戦経験は何もないのだから。


「分からなくても大丈夫だ。今から方法を教えるから、それを記録して言われた通りに実行すればいい」

 河嶋は慌てて手帳を取り出し、計器の薄明かりを頼りに言われたことを書き取って行った。



「……以上だ。何か質問はあるか」

 全てを語り終えると、梶山少尉は静かに言った。

「本当にこれで上手く行くでしょうか」

「ああ、生身の歩兵がやっているんだ。お前と歩機ならきっと上手くいくさ」

 そして二三項目を確認した後に通信を切った。戦車の振動が近付いてきたからだ。


 無線機が消えると、河嶋兵長は一人で操縦席に座る寂しさを味わった。とは言え感傷に浸っている場合ではなかった。


 耳を澄ますと、遙か彼方から、戦車の騒音が微かに響いていた。

 微速で歩機を探しているのだろう。

 そして、時折停止しては、また移動を開始していた。

 暗闇に目を凝らし、前方を見据えても何も見えなかった。そして脳裏には、先ほど梶山少尉から言われたことを反芻していた。


「さてと、行くとするか」

 そう呟いて歩機を繁みから出し、前進を開始した。

 戦車の位置を頭の中に描きながら、繁みや窪地、または風穴といった地形を巧みに利用しつつ移動していく。それは一見地味でも、緊張を強いられる行動だった。


 やがて戦車との距離が四〇〇メートルを切った所で、離れつつある戦車を発見した。

 そして噴進砲を構え、目標めがけて発射する。

 噴進砲弾は炎のを尾を曳きながら飛翔し、車体中央部の増加装甲に命中した。


「命中弾無効」

 判定官の言が無線から届く。命中しても装甲を貫通したとされず、有効弾とは成り得なかった。


 もちろん、河嶋兵長はそれを承知で攻撃していた。そして後を見ずに逃走を始めると、無線からは戦車が追跡を開始したとの情報がもたらされた。


 ──いいぞ、ついて来い。


 そして試製一〇式を窪地に飛び込ませると再び射撃姿勢を取り、先ほどと同じように砲弾を発射した。

 今度も狙い違わず戦車前面に命中したが、何事も無かったかのように、白い煙の中から黒々とした車体がゆっくりと姿を現した。まるで、「お前の攻撃なぞ痛くもない」と豪語しているかのようだった。そして判定も、相変わらず無効だった。


 ──きたねえよな。前部機銃口や操縦席付近に命中したら撃破する可能性だってあるのに、やっぱり確実でないと駄目か。

 河嶋はそう愚痴る。


 七式一六〇ミリ噴進砲の砲弾は、諸元通りなら八式重戦車の前面装甲をも撃ち抜ける筈だった。少なくとも側面なら確実に破壊できる。だが八式改は追加式の増加装甲の他に、生産段階で各部の装甲厚を増していた。それを以て判定官は「有効弾にあらず」と審判を下しているのだろうが、疑問の残る裁定だった。


 さらに、前記の前部機銃口や操縦席口等の箇所に的確に命中さえすれば撃破もあり得るが、可能性は低い。偶然に頼る事無く、誰もが撃破確実と認定するに足る確実な方法で攻撃しなければ駄目だった。


 戦車は歩機の攻撃を尽く弾き返すと、かさに懸かって主砲を発射してきた。

 その距離三五〇メートル。

 砲が光った瞬間に着弾する至近距離だった。

 そして半自動装填装置の働きも手伝って、一〇五ミリの大型弾がまるで自動砲の如く連続して撃ち込まれた。


 勿論、演習弾だから貫通はしない。

 だが直撃すれば、試製一〇式の装甲なら重度の損傷は免れない。

 最悪の場合、大破することだって考えられた。


 河嶋は長時間機体を暴露させることなく射撃を誘い、寸での所で直撃を避け、緊張を強いた操縦を行っていた。それを成功させているのも、歩機が他の陸戦兵器に比べて格段に軽快な動きを誇っているからだった。

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