第25話 実演開始当日 ── 中隊の危機・新しい電算機 ──
「と言うことはあれか、部品を変えるのではなく、電算回路盤その物をそっくり交換して大丈夫と言うことなのか」
予想外の展開に、持田技官は目を点にして尋ねた。
「ええ、無論そうです。取り付けて通電すれば、即座に機能する筈です。否、します」
その答えに、梶山と持田は当初、口をあんぐりと開けた。
意味が理解できるまでの間が開いたからだ。
その後に二人は破顔した。喜んだ。
そして、喜びの余り、清水技官の背中を交互に叩く。
「いや、あんた最高だよ。良く来てくれた、歓迎するよ」
これは持田技官の声。
「何でも見て聞いてくれ、全部教える、何もかも包み隠さずに答える。秘密保全なんてどうでもいい。おっと、実演の前だけは、勘弁だけどな」
そしてこっちは梶山少尉の喜びの声だ。
そう交互にはしゃぐ彼らに挟まれて、当の清水技官は痛そうに顔をしかめていた。
「は、はい、ありがとうございます。でも、もう少しお手柔らかにお願いします」
そんなことに構わず、二人は清水を左右から抱え込むように挟み、無理やり連れだって歩き始めた。
「すまんな、海軍と違って陸軍はがさつだからな」
そう梶山少尉は笑顔で言うが、もちろん嘘である。ただ、清水技官は、本当かも知れないと背中の痛みからそう思っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「すごく小さいんだな」
それが、電算機一式を歩機に取り付けた後に発した、持田技官の第一声だった。
「海軍では、単座の航空機に航法用の電算機を導入する計画がありましてね、どうしても小型化しなくてはなりませんでした。これはその量産改良型です」
清水技官の説明を聞いた両名は、なるほどなと思った。
海軍機は、目標物もない洋上で長時間の飛行能力を求められる。
従来は航法担当を乗せて飛行するのが常だったのだが、ここ近年は操縦員単独での飛行も多くなっていた。航法要員の代わりを勤める電算機の小型化は、重量制限の厳しい航空機で運用する際の必須要素だった。
歩機の電算機設置箇所は操縦席の右にその場所があるが、全てを納めてももう一式設置できるほどの隙間ができていた。
「うーん小さい。端子も小さくしたら、もっと小型化できるな。いや、空いた空間に、計算盤と記憶装置を追加して機能強化した方がいいかな」
そう考え込む持田技官を、清水技官は笑みを浮かべて見ていた。
「やはりそう考えますか。我々の間でも、互換性を諦めても更なる小型化を目指すのか、それとも従来の仕様のまま能力を高めるべきなのか意見が別れております。ちなみに私は能力向上派です」
そう言う清水技官に対し、持田技官も笑みをこぼしながら答えた。
「ですか。歩機の出力と容積にはまだまだ余裕があるので、少々かさんでも問題はないです。まあ、陸戦兵器では数十キロの重量超過なんて、大したことないですからな」
「まったく羨ましい限りです。海軍サンは、艦船搭載機材には重量のことで余り煩いこと言い出しませんが、こと航空機搭載に関してはグラム単位で注文を付けてきます。その癖、『武人の蛮用に耐えられなければいかん』と決まって同じことを言う。軽くしろ、しかし丈夫にしろと、無茶言わんで欲しいですよ、まったく」
言葉はきつくとも、その実、本気で怒っている風ではなかった。
両技官の間には、軍人に振り回される技術者としての連帯感のような物が芽生えつつあった。
「ご苦労なことですな。陸軍では、航空機搭載でもあまり煩いこと言われんです。それはそうと、本気で電算機をもう一式搭載しても良いかも知れない。とは言え、それは今夜の対抗戦が終わった後の話ですな」
等と両者の会話に終わりはなかった。その内、他の作業員と通信研究所の面々も会話に加わり、技術者同士の交流が盛んになっていった。
一方、梶山少尉は、そんな和気合々とした雰囲気に背を向け、一人の兵隊を呼び寄せた。
河嶋浩一兵長。
倒れた橋田の同期だった。




