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第24話 実演開始当日 ── 中隊の危機・清水技官 ──

「作業車で球を点検中、目を離した隙に誰かが試験器の回路に高電圧を流した。その結果は言わなくても分かるだろう」

 持田が苦々しく言うのを、清水は驚きを持って聞いた。


「へえー、それは大変でしたね。でも予備がありますよね」

 驚いているとは言っても、どこか真剣さが足りないと言うか、事態を飲み込んでない様子があった。しかし、全ての状況を把握していない彼では、それも無理はなかった。でも、やはりどこか真剣さが足りない。


「予備の真空管も試験器に差し込んで電圧を上げられた。だから無い。基礎回路の構築すらままならない状況だ」

 そう持田技官が苦々しく言った。その時、梶山少尉の脳裏に、清水技官がこの場に居ることの意味を思い出していた。


 ──そうだ、彼が居るじゃないか。

 目の前の男が、自分の欲しい物を持っている。この事実に、暁光を感じずには居られなかった。


「清水技官、今朝、新しい電算盤を持ってきていると言っていましたね。それ、何処にありますか」

 ねだるようにして尋ねた。


「ええ、勿論手元にあります。正副、そして予備の三組全て揃っております」

 嬉しいことを言った。困難続きのいま、喝采を浴びせたくなるような言葉だった。


「では、真空管の予備分を、何とかお分けして頂く訳には行きませんでしょうか。予備がなければ、本体に使用している物を外しても構いませんが」

 委譲の書類がある以上、既に電算盤は中隊の物なのだが、現物が通研の手にある状況では一応の礼儀として伺いを立てた。


 だが、清水技官の口からは、以外な言葉を聞くことになった。

「お分けするのは構いませんが、多分、いや絶対に使い物にならないと思いますよ」


 その言葉に、持田技官は納得がいかなかった。

「何故です。電算機の仕様に合わせて電算盤を作ったのではないのですか。だったら、部品は共通している筈ですが」


 当然の疑問だった。

 一組の電算機を構成するには、演算や記録といった各仕様に従った電算回路盤を組み合わせる必要があった。

 盤を組み合わせるのは修理の際に交換し易いよう配慮した結果だ。

 前線で電算機に不具合が生じた場合でも、一部の盤を交換すれば直ぐに使用が可能となり、故障した電算回路盤は後方で修理すればよかった。また、各盤を組み合わせることで、計算能力の強化や記憶容量を増やしたりと、目的に応じた電算機を構成することも可能だった。だから、仕様に従っているのであれば部品の互換性は保たれている筈である。

 だが、清水技官はそうでないという。


「我々の使用している真空管は、新しい多極管なんです。大きさが従来の半分以下ですから、真空管端子からして別物になります。ですから機能は完全互換でも、部品としての交換は出来ません」

 それが清水の説明だった。とんだぬか喜びだった。


 梶山少尉は脱力感にさいなまれていた。

 あれほど頑張って今日に備えてきたと言うのに、それがここに来て無に帰そうとしている。事情を説明すれば、後日、再演習は可能だが、心証を悪くすることは確かだった。


「何か勘違いして居られるようですが……」

 落胆する二人を見て、清水技官がおずおずと切り出した。

「部品は小型化しているので共有できませんが、電算回路盤そのものは互換性ありますよ」


「なんだって!」

 梶山少尉と持田技官の二人は、異口同音に驚きの声を上げた。


「回路は新設計ですし、部品も新しい物を多用しているので個別に比べると別物かも知れませんが、理論その物は変えてません。入力、記憶、演算、出力の各処理は仕様に沿っていますので、回路基盤の接続端子は従来のままです」

 そう活き揚々と語る清水技官の顔が、どこか誇らしげに輝いて見えた。

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