第23話 実演開始当日 ── 中隊の危機・破壊工作 ──
梶山少尉は、すぐに意味を理解しなかった。
だから間があいた。
それから事態に気がつき、鋭く言葉を吐く。
「なんだとっ」
余りの出来事に、梶山少尉は先程までの騒ぎを瞬時に忘れた。
「何本やられた、予備はどうした」
「ほぼ全部だ」
そこで持田技官は一旦言葉を切り、息を吸ってから苦悩を吐き出すように話し始めた。
「電算機を歩機から降ろして作業貨車で整備していたんだが、ほんの僅か機体に戻っている間に、誰かが高電圧をかけた。その為にほとんどの球が焼き切れちまっている。手持ち全てをかき集めても、基礎回路すら組めやしない。偶然でこんな被害は発生しない。明らかに意図的な破壊活動だ」
それを聞いた梶山少尉は天を仰いだ。
万事窮した。
いま直ぐに部品を取り寄せても、到底時間までに間に合う筈はなかった。
電算機がなければ、試製十式は真っ直ぐ歩くことがやっとだった。ましてや戦闘行動なんて無理だった。
正規の操縦者が倒れ、今また機体の中枢に深刻な障害が発生した。これでは、どう考えても実演を続けるのは無理だった。
しかし、そのことと同時に気になるのは、犯人の存在だ。
誰の差し金かは分かっている。
中佐だ。
宮田中佐か、その一派の仕業に決まっている。
だが、僅かな間の作業にしては、随分と手際が良いように思われた。
犯人は電気工学の素養がある者の可能性が高い。
もしそうだとして、考えたくはないが中隊の誰かが犯人かも知れなかった。
それ以外で技能がある者といったら……。
二人は、ほぼ同時に同じ考えに達した。
「あいつらじゃないか。ほら、通信研究所の連中」
持田技官が叫ぶように言った。
「ああ、あり得る。彼らなら造作もないだろうしな」
梶山少尉も同意して見せた。
誰もが忙しくて、外部から来た技術者集団の存在を忘れていた。
二人は、半ば強引に押しかけてきた通信研究所の清水達を疑い始めた。
「あん畜生ら、何処行った」
そう言って見回す持田技官の視線上に、辺りを見回しつつうろつく清水技官が飛び込んで来た。持田は大声で彼を呼び寄せると、清水は周囲の喧噪に目を丸くしつつ近付いてきた。
「いや、なんか大変なことになりましたね」
それが清水技官の第一声だった。
単純に事態の急変に驚き、確認の為に駆けつけた様子だった。少なくともそう見えた。これが演技なら、大したものだ。
だが、技官の持田は疑いを晴らしておらず、腰に手を当ててじっ睨みつけていた。
「今までどこに居た」
持田が詰問する。
「へ? ええ、食事の後、仲間と車の所で待機して居りました。本当は歩機のことを皆さんに尋ねたかったのですが、相変わらずお忙しいようでしたので控えていました。いや、それにしても試製一〇式は凄いですな。海軍も陸戦隊用に新しい物を試作していますが、ああも動けるか疑問ですな。第一……」
「清水さん」
別の話になった所で、たまりかねた梶山少尉が止めた。
これが清水技官の特徴なのだろうが、今はそんなことに付き合っている暇はない。
「実は、歩機に搭載してある電算機が、何者かの手によって使用不可になりました。何かお心当たりはありますか」
疑問は直接本人に聞くのが早かった。もし彼が犯人だとして正直に答えるとは思えないが、駆け引きをしている時間もない。こうして反応を見る以外に方法はなかった。
「なんですって、電算機が駄目になったんですか。どうしてです、何が原因なんでしょうか」
清水技官は信じられないというような表情をして見せた。その反応をみて持田技官が首を傾げた。
「あんた、さっき『大変なことになりましたね』とか言っていたじゃないか。そのことじゃないのか?」
清水は「いえいえ」と被りを振った。
「私はただ、集団食中毒が出たとお聞きしましたので、確認と言うか、見舞いに来ただけですが。それに私共も副食を頂いたものですから、自分達にも症状が発生するかもと、もう心配で心配で。まぁ今の所、誰も体調を崩した者は居りませんです。いや、それにしても驚きました。電算機が使い物にならないとは大変ですね。で、原因はなんですか?」
梶山少尉と持田技官は顔を見合わせた。
疑いが晴れた訳ではないが、どうもこの男の仕業と言う気がしなかったからだ。後ろめたい行為に付きまとう陰りが感じられず、それを隠し通せるようなふてぶてしさがない。




