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第15話 実演開始当日 ── 食い下がる梶山少尉 ──

 予定された答えだった。

 梶山少尉は息を吸い、決意を込める。


「自分はそうは思いません。自分は、自分には、演習に歩兵を加える状況こそが、判断を鈍らす元凶と確信しています」

「ん? 意味が解らんな。歩兵を加えた状況下で支援を行わずに、何を証明しようと言うのだね」


 どうやらこの判定官長である宮田中佐は話しの解らない相手ではなさそうだ。少なくとも頭ごなしに反対することだけはなさそうだった。

 もっとも、大した人物であると噂を聞いていたからこそ、梶山少尉は非常の手段に訴えることに決めた。だが、ここで上手く事情を説明して納得させなければ、今度こそ手だてがなくなってしまう恐れがあった。

 梶山少尉は細心の注意を払いつつ、慎重に言葉を選ぶ。


「歩機の開発意図は支援兵器であり、歩兵が活動できない状況下での活動を想定しております。先程の陣地戦では単機で活動致しましたが、あれは歩兵支援戦術の変化した姿です。弾雨下で歩兵が釘付けの局面で、如何に打開するか。その状況試験です。そして見事に任務を遂行致しました。しかしそれは、対人戦闘を想定した兵器のみを使用したためです。対装甲兵器を併用したら、ああは行きません」


「ふむ」

 宮田中佐は、箸を右手に持ったまま腕を組んだ。


 言い分は分かっている。

 演習弾とは言え、対戦車火器が歩兵に当たれば即死か重傷は免れない。その危険を犯すまいと、歩機は強力な兵器の使用を制限されていた。だが、その制限は対抗する戦車には適応されなかった。戦車の主兵装は対戦車砲であるため、それを封じることはなかったのだ。歩機は汎用性を謳っているために、主兵装はなかった。それが徒になっていた。


 つまり、戦車と対戦するのに歩兵を参加させることは、対戦車火器の使用を制限するか、またその効力を発揮できない状況下におかれることになった。これでは実戦を模した演習とは名ばかりで、実体とはかけ離れているのが実情だった。

「であるならばだ、梶山君は歩兵を除外し、あくまでも戦車との優劣を競いたいと言うのだな」


梶山少尉は、──しめた。と一人心の奥底でほくそ笑んだ。

「そうです。ですが現在の演習では歩兵が参加しているために、怪我をさせまいと使用火器が限定されています。反面、戦車は車体に歩兵を跨乗(こじょう)(注:戦車上部に歩兵を乗せて行動すること)させて演習に臨みます。我が軍では、実際には殆ど試みられない方法です。これでは演習弾であろうとも、歩兵が降車するまで射撃できません」


 梶山少尉が話しているのと同じ内容をいくら部会で説明しても、機甲科の圧力の前に封殺されていた。だが宮田中佐は内容を理解してくれた。


「言い分は解った。個人的に納得もできる。だが、今までは歩兵を交えた状況ばかりだ。何故そのようなことになったのだね。そこに至る理由と経緯があった筈だが」

 中佐の質問は的確だった。狼狽えてばかりいる中隊長を横目に見て、こんな人が上司ならと梶山少尉は思わずには居られなかった。


「派閥と無理解の為です」きっぱりとした口調で言い切った。

 彼は普段思っていることを、ここで吐露して差し支えないと判断した。言いたいことを言わずに、不利を囲うことの悔しさは今までに散々味わっていた。


「開発中は、様々な部隊が歩機の見学に訪れました。その度に何かしらの改良点を指摘されるのですが、正直思い付き程度な物が大半です。しかし、その思い付きを実現する為に、ただいたずらに時間を浪費し、予算がかさみました。幾つかの要望は実現しましたが、大半は試行錯誤の末に無理と諦めました。その説得の為に、敢えて開発した事項もある位です」


「ちょっと待て」

 宮田中佐は手で梶山少尉の話しを遮った。嫌な予感がした。


「だいぶ長い話しになりそうだな。俺は薬の時間を医者から厳命されていてな、どうしても食事だけは定刻に済ませねばならんのだ」


 それまで、ただ黙って聞いていた田実大尉が、急に活気付いて会話に割り込んできた。

「なっ、だからお邪魔だと言っただろ。ここら辺で失礼しようじゃないか」


 宮田中佐は、田実中隊長をぎろりと見つめた。

「田実大尉、何か誤解なさっているようだが、自分は止めろとは申しては居りませんよ。ただ、話しを聞くのに食事したままで失礼だからですが、それには理由があると述べているだけです」

 低く静かだが、威厳のある声だった。


「え?」

 田実大尉が素っ頓狂な声で惚けた。同じ陸軍兵士とは言え、好対象な二人だ。

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