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第14話 実演開始当日 ── 追いすがる中隊長 ──

「ちょっ、ちょっと待て」

 当然のように、慌てた田実大尉が追いすがって来た。

 それを振り払うように大股で歩く。


「待てと言っているのが、聞こえんのか」

 無視して歩く梶山少尉の袖を掴んで、乱暴に制止させた。その為に、田実大尉の前髪が乱れた。


「こんな勝手なことをして何になる。演習を掻き回すだけでなく、越権行為として貴様自身の経歴にだって影響するんだぞ」

 田実大尉の脅しだった。そしてそれが何時もの手だった。部隊長という権限を振りかざせば、大抵の者は大人しくなってしまう。


 当たり前だ。

 軍内で一度付いた経歴と評価は、良しにつけ悪しきにつけどちらも永久に消えやしなかった。その記録は、軍が存在する限り退役するまで永久に付いて回るのだ。中隊長はそれを知っているからこそ、その脅しを口にした。


それを切り出された中隊の兵士達は、口を閉じて大人しくするか、別の手段を考えるのが今までのやり方だった。梶山少尉だって、同じだった。だが少尉の考えは、ここに来て変わっていた。今日だけはそんな悠長なことはしていられない。


 梶山少尉は振り返って中隊長と正対し、怒りを表情に出さないよう苦労しながら口を開いた。

「経歴に書きたいのなら、いくらでもお書きになればよろしいでしょう。自分としては経歴に傷がつく、そんなことは、そんなものは」そこでいったんは言葉を切り、息を吸い、そして、「それ位はもう、なんでもありません」と言い切った。


「強がるな。今なら不問に帰してやる。だから、なっ、持ち場に戻って飯を食え、そして鋭気を養え。夜間の部は大変なんだろう。色々と準備は多いんじゃないのか」

 何時もは部下に対して強気な中隊長が、懇願するように気を使っていた。普段を知る者には、異様な光景だった。哀れとさえ思えた。


「強がりでも何でもないです。今この瞬間に手をこまねいて何もしなければ、次の対抗戦で成績を残せないかも知れないのです。そうなれば、監督である私の失敗であるだけでなく、歩機の能力不足と判断されるかもしれません。いいですか、越権したら汚点だけで済みますが、失敗したら汚点だけでなく開発機体も危うくなるのです。どちらにせよ、何かしらの汚点が残ることは間違いありません。でも同じ汚点なら、対抗戦に勝利して、実演を成功させた方が比べ物にならないほどましです。その意味がお分かりですか」


 そう言い切る梶山少尉の顔を、中隊長である田実大尉は半分怒ったような、それでいて困ったような複雑な表情で見つめていた。そして深いため息と共に、しぶしぶと承諾した。


「分かった、提案を飲むよ。ただし、直訴の場には俺も同行する。それが条件だ」

 ここまできて条件もない。中隊長が何を考えているのか得体が知れなかったが、梶山少尉はそれを承諾した。そして二人で実演本部の幕舎に向かい、そこで判定官長に面会した。


 梶山少尉から要件を切り出された宮田中佐は、大きい目を丸くして提案を聞いた。


「夜の対抗戦に歩兵を出さないで欲しいだと?」

 食事中の宮田中佐は、口の端からおかずのきんぴらをはみ出させて驚きの声を上げた。


「はい、そうです。夜間の対抗戦に、参加予定の歩兵を全て不参加にして欲しく思っております」

 そうことも無げに言う梶山少尉を、宮田中佐は驚いた様子で眺めていたものの、やがてきんぴらそのものが苦いかのような表情になり、その太い顎でゆっくりと咀嚼しつつ考え込んでしまった。そして飲み込むと同時に、「無理だ」と短くいった。


 その言葉を待っていた中隊長は、間髪を入れずに梶山少尉に詰め寄った。

「なっ、だから言ったろう。これ以上時間を取らせたら申し訳ないから、そろそろ失礼しようじゃないか」

 駄々っ子をあやす父親の如く、その場から立ち去るよう促すのを無視して、梶山少尉は尚も食い下がった。


「なぜ無理なんでしょうか」

「たしか梶山君と言ったな」宮田中佐が茶を一口すすって言った。「君は歩機開発の一員で、実演の監督でもあったな。だったら解らんでもあるまい。夜間の対抗戦は、戦車と歩機の優越を決定する大事な演習で、実戦での歩兵支援を想定したものだ。双方に歩兵を加え、どらちらが任務を遂行できるかが焦点となっている。その前提を覆す訳にはいかん」

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