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第13話 実演開始当日 ── 拠点攻略・状況終了 ──

 橋田兵長は丘頂上のトーチカに歩機を進め、関係者が何事かと見守る中、斜度角が二五度を越える斜面をよじ登ってゆく。

 トーチカは一端は撃破認定をされたとは言え、内部にはまだ兵士が生き残っている。

 彼らは、収束手榴弾や携行式の噴進砲で攻撃を加えようと身構え、そしてトーチカを飛び出して試製一〇式歩機に対して肉薄攻撃を仕掛けてきた。

 だが歩兵が姿を現した瞬間に、橋田兵長は冷静に対処して五式重機で応戦する。


 やがて試製一〇式歩機はトーチカの足元までたどり着き、その外壁に梱包爆薬を置いて発火具の金具を引いて着火した。

 そして機体を下げて爆発を待った。

 導火線から白煙が立ち登る間、橋田兵長は周囲に油断なく視線を這わせたが、何も反撃はなかった。やがて梱包爆薬が炸裂し、周囲に石灰の粉を撒き散らしてベトンの外壁を白くした。


「状況終了」

 終了を告げる判定官の声が、高らかに演習場に響く。

 対陣地模擬戦は終わった。

 試製一〇式歩機の完全勝利だった。




 歩機を自走して中隊に戻った橋田兵長を部隊各員が笑顔で出向かい、誰もが成功を喜んでいた。


「やったな」

 機体を降りた橋田兵長を取り囲み、誰もが同じ様な言葉で健闘を讃え、その肩を叩く。


「ありがとうございます。固定目標が相手なら、自在に行動のできる歩機が優位なのは証明されたと思います。それに皆さんが、普段から戦術や作戦を考えてくれた賜です。それに機体の整備も完全でした。私は、ただ操作したに過ぎません」と深々と頭を下げた。


「謙遜が過ぎるなあ。若くない」と、隊の古参兵が笑う。

 集団の後方から、梶山少尉が人々をかき分けるようにして姿を現した。


「少尉、やりましたよ。あの速射砲陣地に勝利しました」

 そう破顔して喜ぶ橋田兵長を、梶山少尉は眩しく見つめ、彼もまた笑顔で労をねぎらう。


 それと同時に、このあどけなさの残る若者の何処に、戦に対する鋭い勘が備わっているのか、人は見かけによらないものだとその場に居る誰もが感じていた。


「日中の実演はこれで終了だ。夜間は戦車との対抗戦だから、それまでゆっくり休め。いいか、くれぐれも整備を手伝ったりするなよ」

 そう釘を刺して置かないと、橋田兵長は皆と一緒になって働いてしまうだろう。そういった腰の軽さというか、人付き合いの良さも彼の癖だった。


「そうだよ」

技官の持田が、今帰ったばかりの試製一〇式歩機の操縦席に乗り込みながら言った。これから機体を整備場変わりの車台に駐機させるつもりだった。


「性の付く物でも食べて仮眠でもするんだな」そう言ってから歩機を起立させ、整備場に向けて移動を開始した。

 それを合図に、橋田兵長は数人に抱えられ、押し出されるように天幕に向かって歩きだした。その後ろ姿を見ながら、梶山少尉は気が重かった。


 隊一番の若者が華々しい活躍を見せ、他の者達も滞り無く作業をこなしている。一方自分は、忙しく動き回って時間を費やしてはいるが、その実、あまり成果が上がっているとは言えなかった。たとえ隊の者が認めてくれたとしても、自分自身に納得してないし、今日やり残せば悔いの残る結果になるかも知れない。それだけは何としても避けねばならなかった。




 梶山少尉は喜びに湧く集団を背に、ため息を付きながら歩きだした。

 目的実現の為に、もう一度中隊長の所へ懇願に行くしか手はないかと思うと、速射砲陣地の方が対抗手段があるだけましに思えてならなかった。


 ──いかん、弱気になるな。何か手がある筈だ。まだ思い付いてない手段が、きっとある。諦めていけないのは、他でもない、俺の方だ。

 頭を振って弱気になりがちな自分を励まし、軽く頭を小突いて活を入れた。残された時間は刻一刻と少なくなっていた。


 意を決した梶山少尉は、中隊長の幕舎に飛び込むと同時に「中隊長、先ほどの件ですが」と要件を切り出した。田実大尉は従兵が夕食の準備を完了するのを待っている所だった。


「なんだ」

 大尉はまたお前かと言いたげな、あからさまに迷惑そうな顔をした。それが二人の関係の全てを現していた。


「皆まで言うな、要件は分かっている。これが食い終わったらやるから、結果を待て」

 それを聞いた梶山少尉は、新たな怒りがこみ上げた。


 ──食事が終了したら、直ちに夜間の部が開始されるじゃねえか。貴様、やっぱり処理する気なんてこれっぽっちもないな。

 怒りは真冬の冷気すら忘れるほどではあったが、怒鳴る変わりに用意した台詞を語った。


「いえ、田実大尉もお忙しい身なのに、今まで御無理ばかり申しあげてしまい、誠に申し訳ありませんでした」

 思いがけない言い出しに、田実大尉は意外そうな表情をみせた。だが、次の発言を聞いて一変した。


「ですから、私が本部に出向き、判定官長に直に話しを通してみます。そのことを伝えに来ました。では」

 梶山少尉は頭を下げた後、返事も待たずに回れ右をして歩きだした。戻る気は無いと背中が語っていた。

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